第148話 再びの塩問題

「きゃー。たのしいのー。ちちー、もういっかいなのー」

「はいはい」


 ピース村のとある一画にて。

 ここは俺が作った子供のための公園がある。

 ブランコ、シーソー、そして滑り台。砂場もあるぞ。

 子供が好きな遊具は一通り作ってある。

 

 公園の横には子供専用のプールがあり、村民であるグレイ夫婦が息子を遊ばせていた。


 俺はミライを抱っこしながら一緒に滑り台を楽しむ。

 っていうか、結構喋るようになったなぁ。

 子供の成長ってのは本当に早いもんだな。

 俺はミライと一緒に遊びながらそんなことを思う。

 ミライは今では髪も長くなり、エルフらしく髪も金色をしている。

 この子も大きくなったらリディアのような美人になるんだろうな。


「ふふ、ミライちゃんは本当に滑り台が好きなのね。でもそろそろごはんの時間よ」

「アーニャママ? いやなのー。もっとあそびたいのー」


 ミライは駄々をこねる。

 トテトテと逃げ出しジャングルジムの後ろに隠れてしまった。


「逃がしません」

「きゃーなの」


 一緒に来ていたシャニがミライを捕まえて抱っこした。

 あ、ミライの足がシャニのお腹に当たったぞ。

 

「こらミライ、シャニママのお腹の中には赤ちゃんがいるんだぞ。優しくしなくちゃ駄目だよ」

「はいなのー。シャニママ、ごめんなさいなのー」

「大丈夫です。ミライ、アーニャねえ、それでは帰りましょうか」

 

 シャニはそのままミライを抱っこして家に戻る。

 今日は休みなのでアーニャ、シャニ、そしてミライの四人で公園に遊びに来たのだ。

 ミライは赤ちゃんの時からアーニャ達のことを母親として認識しているようで、名前の後にママを付ける。

 しかし何故か俺は未だにパパと呼ばれずちちと言われているんだが。


「ねぇミライ?」

「んー? ちち、どうしたのー?」


「パパって呼んでもいいんだよ?」

「ちちなのー」


 はぁ、やっぱり駄目か。

 そろそろパパと呼んでもらいたいんだが。


 今日は安息日だ。

 もう異形の襲撃の心配はないので、週に一度村民達には自由な時間を過ごしてもらっている。

 もちろん働くのも自由なので、通りには多くの店がお客さんが来るよう声を出していた。


「村長ー。良かったら食べていきませんかー?」


 おや? 声をかけてくる者がいる。

 エルフの食堂経営者のミァンだ。

 彼女も半年前に妊娠が発覚し、今ではかなりお腹が目立ってきている。


「いいや、今日は止めとくよ。家でリディア達がごはんの支度をしてるからさ」

「あら残念。儲けるチャンスだったのに」


「ははは、すまんな。今度食べにくるよ」

「待ってるわね。そうそう、先に言っておくわ。ここもそうだけどラベレ村でも塩が足りなくなってるんだって。また岩塩をお願いしてもいいかしら?」


 あらー、またか。

 最近毎日のようにモース硬度変更を発動して岩塩を作っている。

 しかしこの力は村民数に依存する力なのであまり量を産み出すことが出来ないのだ。

 そりゃ今ではラベレ村、ピース村の村民数は10000人を超えている。

 塩も減るわけだよ。


 後で塩を届けることを約束し、さらに俺が経営しているアダルトショップも覗いてみる。

 相変わらずデュパが迫りくる独身男性客をさばくように接客している姿が見えた。


 おーおー、繁盛してるねぇ。

 

「なぁ、店長! 今日はTE○GAは残ってるよな!?」

「グルルル! 店長ではない! ま、まだ在庫はあるから落ちつくのだ!」


 うん、デュパも大分板についてきたようだ。

 ちなみにアダルトショップの利益はかなりのものでピース村全体の利益の二割を占める。

 古今東西、世界は違えどエロは儲かるのである。


 なんてことを考えつつ、俺達は自宅に戻る。

 リビングには昼食のカレーライスが準備されていた。

 しかしリリの姿が見えないのだが。


「リディア、ただいま。リリは?」

「ただいまなのー」

「ふふ、お帰りなさい。リリは朝仕事に出掛けたまま戻ってきませんね。何でももう少しで完成するからとか言ってましたよ」


 そうか、リリも何気にワーカーホリックな気質の持ち主だからな。

 しかしそろそろ完成ってなんか研究とかしてたってけ?

 現在リリには兵器製造とかの仕事を担当してもらっている。

 他にも空いた時間を使って研究なんかもしてくれているらしい。

 でも内容は企業秘密だとか言って俺達にも言わないのだ。

 

「まぁいいさ。いつ帰ってくるか分からないから、先に食べてようか!」

「はいなのー」


 みんなでカレーを食べ始める。

 他にもシャキシャキのサラダや福神漬けなんかもついている。

 もうここが異世界とは思えないよ。

 まぁ一緒に食卓を囲んでいるのは全員異世界人なんだけどな。


「からいのー」

「そう? 甘口にしたけど辛かったかしら?」


 でもミライはスプーンを止めることなく完食した。

 よく食べる子だな。すぐに大きくなるぞ。


「ミライはおねえさんになるの。だからいいこになるの!」

「偉いですよ、ミライ」


 シャニはミライの頭を撫でる。

 ミライもシャニに笑顔を返した。


 平和だなぁ。食後は全員でお茶を飲みながらまったり過ごす。

 あ、しまった。そういえばさっきミァンに言われたんだった。

 

「なぁ、ちょっと聞いてくれるか?」

「はい、なんですか?」


 俺は妻達に伝える。

 村民数が倍増したことで、慢性的な塩不足になってしまったことを。

 そしてモース硬度変更では充分な塩を生産出来ず、このままでは塩にありつけない村民も出てくるかもしれない。

 それに醤油や味噌の製造にも塩を使う。

 やはり俺一人の力ではどうしようもなくなってきたんだ。


「そこでだ、大分ピース村も発展してきただろ? そろそろ東に向かってもいい頃だと思う」

 

 ここから東に向かった場所には海があるらしい。

 そしてその近海には猫人が住む島もあるんだとか。

 海に行けば塩が採れる。他にも漁業なんかも出来るかもしれない。

 海は無限の可能性を秘めているのだ!


「でも海ってかなり遠いですよ。歩いて一月はかかりますし」

「そうなんだよね。でもさ、海岸に拠点を作ればポータルで一瞬で帰ってこれるだろ?」


 問題は往路だけなのだ。

 一月の間、ここを空けることになる。

 しかし今のピース村はかなり発展し、経済も上手く循環しているようだ。

 一月くらい俺がいなくても……。


 ――スッ


 ん? アーニャが手を上げたぞ。

 何か言いたいことがあるのかな?


「私個人としては海に向かうのは賛成です。でもシャニはどうするのですか? 今の彼女に長旅をさせるべきではありません」


 シャニか……。

 確かにそうだな。

 彼女は後二月もすれば出産をしなければならない。

 安静にしなければならない時期だ。


「ライト殿、私は大丈夫です。残っていても構いません」


 とシャニは言ってくれるのだが。

 うーん、どうするかな。

 塩が足りなくなるのは避けたいし、シャニに無理をさせたくない。

 しかしシャニにお留守番をしてもらうのは……。


「すまん、少し考える時間をくれ」

「はい、みんなで一緒に考えましょ!」


 再び産まれた塩が足りないという危機。

 しかしリリが帰ってきたことであっという間に解決することになるのだった。

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