第147話 平和の村

 ――ドンチャン ドンチャン

 ――ラーラー♪ ララララー♪


 新しい村にて。俺達は焚き火を囲みながら酒盛りをしている。

 みんな楽しんでるみたいだな。

 村民達のリクエストでシャニがお得意のアメージンググレイスなんか歌ってやんの。


「グルルル。相変わらず見事な歌声だ。ライトよ、酒が進んでないようだな。まぁ飲め」


 デュパがビールを注いでくれた。

 いやー、もう飲めないよ。もう五杯目だからな。

 酒は好きだが、そこまで強くないのだ。

 

「こ、これで最後にしとくよ。デュパ、ありがとな」

「グルルル、そうか。ところでライトよ。この村の名は何とするつもりだ?」


 村の名前かー。特に考えてなかったんだよね。

 ラベレ村はリディアが名付けてくれたから、今回も彼女に……。


「せっかくですから今度はライトさんが付けて下さい!」

「んきゃー」


 おぉう、退路を絶たれてしまったぞ。

 なんかアーニャ達も期待の眼差しで俺を見てるし……。

 はぁ、仕方ないか。


 無い頭を振り絞って考える。

 どうせなら有名どころにあやかって素敵な名前を付けてあげたい。

 うーん、ビバリーヒルズ?

 なんか違うな。

 ロサンゼルス。

 異世界に? これも却下だな。

 

 次々に地球の有名どころの都市の名前を思い出すが、なんかパッとしないな。

 せっかくだから異世界感のある名前にするべきだろうか?


「ライト殿、困っていますか?」


 とシャニが心配そうに聞いてきた。

 バレたか。

 こういうのってどうも苦手でさ。

 だって飼ってた犬はポチだし猫はタマなんだぜ?

 基本的に俺は名付けのセンスはないのだ。


「大丈夫です。ライト殿が好きな言葉を言えばいいだけです」


 好きな言葉ねぇ。

 ならこんなのでもいいのかな?


平和ピース……。これでもいいかな?」

「ピース? ライト殿の世界の言葉ですか?」


 そうなんだ。

 別に俺は英雄を気取るつもりはない。  

 この世界を救ってくれとアホな神様に呼び出されたが、そんなつもりはないしな。

 俺が戦う理由は俺を愛してくれる可愛い妻達、そして村民達、ミライやシャニのお腹にいるジュンのために戦っているんだ。

 結果として世界を救うことになろうとも、それはついででしかない。

 俺はみんなと平和に暮らしたいから戦うんだ。


 なんてことをみんなに伝えた。

 やべ、かなり臭かったかも。

 今になって恥ずかしくなってきた。


 村民達は黙って俺の話を聞いてくれた。

 だが次の瞬間……。


 ――パチパチ……

 ――パチパチ! パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!


「素晴らしい名前だ! ピース村で良いではないか!」

「さすがライトさん! この村の名前はピースですね!」

「素敵な名前……。なんか泣けて来ました……」


 アーニャはハンカチを取り出して目元を拭いている。

 勢いで思い付いた名前だが、これで良かったのかな?


 村民達は新しい村の名を気に入ったようだ。


「うぇぇーん、すごくいい名前ですー」


 なんかリディアが泣き出したんだが?


「あははは! ピース村に乾杯! ライト様、今夜はとことん飲みましょう!」


 さっきまで泣いてたアーニャがゲラゲラ笑ってるんですけど。


「ライト殿、ムラムラしてきました。エッチなことをしませんか?」


 こら、シャニ。まだ安定期じゃないだろ。

 っていうかお酒飲んじゃ駄目だろ。

 もう遅いけど。


「ねぇライト……。今夜はお姉さんが甘えさせてあげるね……」


 いや、リリはお姉さんっていうか、思いっきりロリでしょうが。


 妻達の新しい一面……っていうか酒癖が分かった。

 そして俺はリディア達に強引に家に連れ込まれて裸に剥かれる。


 まぁその後は……。

 いつも通りエッチなことをするわけだよ。

 しかし四人同時に相手をするのは中々大変であった。


◇◆◇


 そして翌日から俺達はピース村の本格的な建設に取りかかる……んだけど、リディア達はベッドから起きてこない。


「うーん、気持ち悪いです……」

「飲み過ぎました……」


 お前ら……。

 二日酔いの妻を残し、ミライをおんぶ紐で背負い、俺は一人広場に向かう。

 そこにはすでに村民達が集まっていた。

 だがやはりといったところ。

 多くの者が青い顔をしている。

 

「あー、集まってくれたのはありがたいが、二日酔いの者は休んでていいぞ」

 

 俺の声を聞いて安心したのか、半数の村民が家に帰っていった。


「グルルル、情けない連中だ。あれくらいの酒で二日酔いになるとは」

「お前、最後は樽で飲んでたよな?」

 

 残ったのは特に酒に強い奴らだ。

 デュパやグレイ、ミァンなんかもいる。


 よし、せっかくだから彼らに仕事を割り振るとしようかな。


 俺はピース村でも農業、商売なんかも自由にやろうと思っている。

 最前線の危険な村ではあるが、人として当たり前の生活を村民に味わってもらいたい。

 

「デュパは何かやりたい商売とかはあるか?」

「いや、ここでは特に考えていない」


 デュパは湖の離れにある養殖場の責任者も兼任している。 

 だが現在養殖は一族の者に任せても問題ないとのことだ。

 

「なら土木関係は任せてもいいか?」

「昨日言っていた基礎のことだな。いいだろう」


 デュパの腕力は村民の中でもトップクラスだからな。

 きっと効率良く作業してくれるだろう。


 他にもミァンにはピース村での食堂の運営を任せ、グレイには村の南側にある森の開拓をお願いする。


「なんだよ、前とあんまり変わらないじゃないか」

 

 とグレイは言うが、一応公務員扱いなんだぞ? 

 高給取りな仕事なのだ。

 

「ははは、そう言うなよ。大切な仕事なんだからさ。村の面積を広げるには森は邪魔になるからさ」


 今回もなるべく南に向けて村を大きくしていく予定だ。

 北に行けば行くほど大陸は近くなっていくからな。

 危険度が増すことになる。


「グルルル、守るだけなのか?」

「いや、一応考えてることはあるんだが、まだその段階じゃないからな。とりあえず今は村を発展させていくことを考えればいいさ。それじゃ仕事を始めようか!」


 さて、これから新しい村、ピースが本格的に始動することになる。

 

 このピース村が最終的には後の王都になるなんてことは……。

 この時は想像もしてなかったけどな。

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