第146話 新しい村 其の三

 ――ワイワイ ガヤガヤ


 村の広場にはデュパを初めとする100名の村民が集まっている。

 んん? っていうか、もう集めたのか!?


「グルルル、遅かったな」

「お、おはよ、デュパ。仕事が早いな……」


 昨夜俺は食堂でデュパに出会い、新しい村のことを話した。

 そしたらデュパも一緒に行くって言い出してな。

 ついでに移住したい者の選定もお願いしたのだ。

 

「村長、私に声をかけないなんて水くさいよ!」

「まだまだ遭難者はやってくるんだろ!? なら私が行かなくてどうするんだい!?」


 初めに声をかけてきたのは下ネタ大好きのラミアのおばちゃんことディースだ。

 彼女は現在農地管理の責任者をやってもらっている。

 この人も移住したいのか。ディースが行ってラベレ村の農業は大丈夫なのだろうか?


 そしてエルフのおばちゃんのルージュ。

 この人も下ネタが大好きだ。

 言葉が通じない頃からの付き合いで、別れ際によく俺のアソコを握ってきた。

 そんな彼女は王都では看護師をしていたらしく、森で見つけた遭難者の保護なんかをしてもらっている。


 他にも初期のメンバーが集まってるな。

 エルフのラルクとミァン。この二人は最近になって結婚した。

 ラルクは家具職人であり、中々素敵な家具、雑貨なんかを作っている。

 自宅の家具の多くは彼に作ってもらった。

 

 ミァンは食堂の責任者、店長みたいなもんだな。

 彼女が作る料理は何でも美味い。今では気軽にラベレ村で日本料理が味わえる。

 

 他にも伐採班としてエルフのいぶし銀ことグレイもいる。

 彼は犬人の妻を娶ったケモナーでもあるのだ。

 グレイはその手に赤ちゃんを抱いている。

 

「ほら、村長。先月産まれたんだよ。抱いてやってくれ」

「あ、あぁ。か、可愛い……」


 グレイの赤ちゃんは犬人として産まれてきた。

 っていうか子犬そのものなのだ。

 可愛いなぁ。リディア達も抱きたいと言ってきたので交代で抱かせてあげることに。

 最後にアーニャが抱いた時に赤ちゃんは泣き出してしまった。


「んん……。ふぇーん……」

「あらあら、ごめんなさいね。やっぱりママの方がいいわよね」


 アーニャは赤ちゃんを犬人の奥さんに手渡した。

 いかんいかん、ほのぼのしている場合ではなかった。

 これから俺達は新しい村の建設に取りかからねばならんのだ。


「これでもかなり選定したのだぞ。希望者は二千人はいたからな」


 そんなにいたんだ。

 何でも移住者には特別に免税措置が適応されるんだとか。

 恐らくだが北の大陸から南の大陸を支配すべくヨーゼフなる人物がここを攻めてくるらしい。

 やっぱり最前線に住むわけだから俺だけじゃなくて、村民にも危険手当てとしてこれぐらいはしてあげようとセタが言ったらしい。


 やっぱり税金が無いってのはそれだけで魅力的なんだねぇ。

 そこは地球も異世界も同じなんだな。


 さて、そろそろ行かないとな。

 俺達は次々にポータルを潜る。

 すると一瞬で新しい村に到着するわけだが。


「グルルル、何も無いではないか」

「当たり前だろ。昨日作ったばかりだからな」


 とデュパは言う。他の村民達も似たような反応だったがね。


「ははは、戻りたかったらいつでも戻っていいぞ」


 村民に声をかける。しかし彼らは誰一人ここを動こうとはしない。

 それどころか。

 

「何言ってんだよ。あんたと私らは裸一貫からラベレ村を作ってきたんだ。また同じことをするだけさ。で、どんな村にしたいんだい?」


 代表しておばちゃんのディースが声をあげる。

 どんな村か。一応計画はあるんだ。

 基本的には自給自足が出来るが、防衛に関しては特化したものにしたい。

 特に北側の壁は頑丈にしておきたいよな。


 そこで一つ思い付いたことがある。

 現在村を囲っている壁は仮として建設したものだ。

 これから新しい試みを取り入れてみたい。


「みんな聞いてくれ。今回の壁なんだが三つ程新しい試みを加えてみたいんだ」

「グルルル、三つとは?」


 デュパが質問してくる。

 まず試してみたいことの一つ、それは壁の下に基礎を敷くことだ。

 俺の力である壁は発動すると直接地面から生えてくる。

 しかし地盤が弱いと防御力が一気に下がる。

 特に大雨が降ると強度は半分くらいに下がることになるだろう。

 天候には散々苦しめられたな。

 なので今回は壁の下に基礎を敷いて強度を増すことを考えている。


「へぇー、そういえば王都の家も建てる前にコンクリートを敷いてましたね」

「リディアの家もそうだったんだね。だが基礎はオリハルコンで作るつもりだから強度は段違いのはずだぞ!」


 でも基礎を作るには一度地面を掘り返さないといけない。

 かなりの重労働になるだろうな。


 んで次だ。村を囲う壁だが一枚ではなく、間隔をおいて何重かにしておきたい。

 昔読んだ三國志の漫画で公孫賛が袁紹と戦った時に使ってた防御法だ。

 まぁ漫画では壁を破られて負けちゃったんだけどね。

 しかし俺はその場面を見て、基礎があれば破られなかったんじゃないの?なんて思ってた。

 それを今回は実践してみるのだ!


 敵が梯子みたいな攻城兵器を使ってきたら……とも考えたが、その時は別の方法を考えるさ。


「へぇー、そこまで考えてたんだ。それじゃ最後のアイディアは何なの?」


 とリリが聞いてくる。

 よく聞いてくれた! 

 実はここでリリの出番が来るのだ!


「一番外側の壁はまっすぐ建てるんじゃなくて、内側に傾けて建てようと思うんだ」

「それってどういうこと?」


「あのさ、今回の敵は異形じゃなくて人間になるわけだろ? 魔法とか兵器とか使ってくるじゃん。ただ頑丈なだけじゃ駄目だと思うんだ」


 例えば敵がカタパルト砲のような兵器を使ってきたとする。

 正面から攻撃を受ければオリハルコンの壁でも破られてしまうかもしれない。

 だが壁自体が力を受け止めるのではなく、受け流す要素を持っていたら?

 あえて傾斜を付けることで矢や魔法、砲撃から村を守れるかもしれないと思ったんだ。


「だが俺は数学とか物理は苦手でね。そこでリリに頼みたい! 力を逃がしつつ、壁の強度を保てる一番いい感じの角度を計算しておいて!」

「あはは、それならお安い御用よ。ちょっと複雑な計算になるから少し時間をもらうけどね!」


 おぉ、さすがは王都一の天才のリリだ。

 ということで今回の村はこの三つの試みを取り入れ最強、最硬の村を作るぞ!


「グルルル、よく分からん。壁についてはライトに一任する」

「そうだねー。そこは村長のやりたいようにやってよ。それじゃあたしらも仕事をするかね」


 だな。壁の建築はまだ先の話だ。

 今は新しい村を発展させる必要があるしな。


「俺はみんなの家の建設に取りかかる。各自今のうちに必要なものがあったらラベレ村から持ってきてくれ」

「はいよー。それじゃ引っ越しの準備に取りかかるわ」


 村民は一度ラベレ村に戻っていった。

 俺は村民のために壁を発動し、家の建築に取りかかるのだった。


 そして夕方になり各施設と住居の建築が終わる。

 村民達も家具や荷物をせっせとポータルを使って運びいれていた。

 

 ふぅ、疲れたな。今日はこんなものにしておくか。

 

「グルルル。ライトよ、女衆が夕食を作ってくれた。お前達も一緒にどうだ?」

「あぁ、それじゃお呼ばれしようかな」


 基本的な造りはラベレ村の同じで、中央に広場を作ってある。

 そこで村民達は焚き火を囲い、各々作った夕食を並べていた。

 そしてたくさんの酒樽もなんだけどな。


 ふふ、まぁいいか。

 新しい村が産まれた記念日だしな。


 俺達家族も用意された蓙に座り、村民達と楽しい夕食を食べ始めた。

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