第145話 新しい村 其の二

 魔の森の入り口。

 ここに俺達は新しい村を作った。

 まぁ今は壁で囲っただけで、敷地には俺達が住む家しかないんだけどね。

 

「あぶー……」

「あらミライ、どうしたの? 眠いのかな?」


 先ほどまでご機嫌だったミライがリディアに抱かれて眠ってしまった。

 結構時間が経ってしまった。もう夕方だよ。

 今日はここまでにしておこうかな。


 ここに来るまでに走って二時間くらいかかった。 

 アーニャの足……というか蛇の下半身をもってしても一時間はかかるだろ?

 戻る前に夜になってしまう。

 

 しかしだな、既にポータルは作ってある。

 ここを潜れば一瞬でラベレ村に戻ることが出来るのだ!

 

「それじゃ帰ろうか!」

「はーい」


 みんな慣れたようにポータルを潜る。

 すると視界が一瞬光に包まれたと思ったら、もういつものラベレ村に到着していた。

 うむ、やはり便利だな。

 俺の力の中では特に優秀だと思う。


「ふぅ、もうこんな時間になっちゃいましたね。ごはんはどうします?」


 リディアがこう言う時は大抵外に食べに行きたいってことだ。

 今は食堂は有料になってしまったが、それでも日本円で一人千円もかからずにお腹がいっぱいになる。

 中々良心的な食堂が村の中央にあるのだ。

 基本的に独り身の村民が利用することが多いが、割りと家族の姿なんかも見かける。

 満席に近いな、どこかに空いてる席は……。


「グルルル。ライトよ、良かったら一緒にどうだ?」

「デュパ? あんたも来てたんだな。子供達はどうした?」


「長男に面倒を見させている。今日は妻と二人で楽しもうと思ってな」


 デュパの横には奥さん……と思われるリザードマンが座っている。

 いや、一応女性なんだからリザードウーマンとでも言うべきなんだろうか?

 俺の目には少し小さいデュパにしか見えないんだけど。


「クルルル、村長、お久しぶりです。ミライちゃんも大きくなったわね」

「はい! その節はお世話になりました!」


 そういえばデュパの奥さんであるウルキはミライの出産に立ち会ってくれたんだったよな。

 せっかくなので、その時のお礼も兼ねて今日は奢ることにした。


「グルルル、そんな気をつかうな」

「ははは、別にいいよ。さぁ、好きなものを頼んでくれ!」


 ミライも起きたのでごはんと味噌汁もオーダーしておいた。

 温泉たまごもつけて即席のベビーフードを作る。

 ペチョペチョと美味しそうに食べていた。


 大人の俺達は各々好きなものとアルコールも頼んでおく。

 女性陣はミンゴ酒を。俺とデュパはビールだ。

 食事の前にビールを一口!

 くぅー! やっぱり労働の後のビールは沁みるぜ!

 それは日本でも異世界でも変わらないみたいだな。

 

「グルル、美味いな。ところでライトよ、今日は何の仕事をしていたのだ?」


 あれ? デュパは知らなかったのか。

 彼とは付き合いも長く、初めから言葉が通じていたので勝手に一番の友人だと思っている。

 蜥蜴だけど。


「なんと……。ここを出ていくのか?」

「んー、そんなとこ。でもさ、出ていくって言ってもポータルを使えば新しい村にすぐに着けるさ。特に問題無い……」


 ――バンッ!


 えっ!? デュパがジョッキをテーブルに叩きつけたぞ!

 な、なんか怒ってるのか!?


「グルルル! そういうことではないのだ! なぜそれを早く言わん!? 私も行くぞ! その……何村だ?」

 

 いや、壁で囲っただけだから村としての機能は全く無いし、名前とかはまだ決める段階ではないだろ。

 しかしデュパが一緒に来たいというのは意外だった。

 彼は現在湖に建設した養殖場で責任者のようなことをしている。

 実質社長なのだ。時々俺のアダルトショップの店長もしてもらってるけど。

 そんな彼が仕事を放り出して新しい村に移住するの?


「養殖場はどうするんだ?」

「心配無い。もう村民に任せても大丈夫だろう」


 うーむ、つまり社長の座を明け渡して平に戻るってことか。

 これって意外と勇気がいることだぞ。

 

「グルルル。そんな地位には興味が無い。それよりも私はお前と一緒に働きたいのだ」

「アダルトショップの店長として?」


「それは遠慮する」

「「「あはははは!」」」


 妻達が笑う。もちろん俺もだ。

 そうか、ならデュパも一緒に来てもらうとするかな。

 あ、それなら一つお願いしておこうかな。


「すまん、俺は新しい村の建設でしばらくいっぱいいっぱいになるからな。そこで頼みたいことがあるんだ。新しい村に移住したいって奴はデュパの他にもいるだろ? だけど全員を連れていくわけにはいかない。だからデュパに移住者を決めて欲しいんだ」

「数は?」


 うーん、そこまではあんまり考えてなかったけど……。

 とりあえず100人でいいかな?


「おー、ライトではないか。楽しんでいるようだな」

「セタ様? す、ずいぶん酔っているようですね」

「ばぁばー」


 なんかセタも食堂にいた。リディアの横に座り強引にミライを抱っこする。

 魔王様なんだからお城にいるべき……なんだけど生憎ラベレ村にはそんなものはない。

 彼女が住んでいるのは村民と同じ造りの家だからな。


 せっかくなのでセタに村民を連れていくことを話すことに。

 すると彼女は……。


「やっぱり私も行くぞ!」

「駄目だろ。誰がラベレ村の指揮を取るんだよ」


「うぅー、ミライと離れたくないー。ミライよ、もう私の子にならんか?」

「あいー」


 止めてくれって。大きくなってミライが就職先にセタの下で働くことを選ぶのはいいけど、可愛い娘を養子になんて出せんぞ。


 酔っぱらいの魔王は無視して俺はデュパと今後の計画を立てることにした。

 そこでこんなことをデュパが言ってきた。


「もしも余裕が出たらでいいのだが……。新しい村の東に海があるらしい。そこに仮でいいので拠点を作ってみる気は無いか?」

「海だって?」


 へー、そんなものがあったんだ。

 デュパは曾祖父が書いた日記を大切に保管しており、そこから生活の知恵や地理なんかを学んだそうだ。

 そして大陸の東には海があり、デュパの曾祖父はそこから上陸して魔の森に入ったそうだ。


「遠いのか?」

「歩いて一月といったところだ」


 うーん、一月かー。

 かなり遠いな。

 でも海は魅力的だ。何より塩が採れる。

 現在ラベレ村では俺が定期的に岩塩を産み出して塩を作っている。

 モース硬度変更っていう力を使ってな。

 でもあれって実はあんまり効率的な力ではないのだ。

 村民数に依存する力であり、一度発動すると24時間のクールダウンが必要なんだと。

 

 だが海があれば塩は取り放題だし、何より海のお魚も食べられるかも!?

 そして夏のレジャーの代表、海水浴が出来るかもしれないじゃないか!?


「よし、村の建設が終わったら考えてみるよ」

「グルルル、頼む」

「ほう、海か。そういえば猫人は東の島に住んでいたな。彼らと接触する良い機会かもしれんぞ」


 なんかセタが割り込んでくる。

 猫人? あぁ、カジートのことか。

 そういえばかつての王都には定住こそしていなかったが、カジートは行商人として王都を訪れていたそうだ。


 よし、ならば村の建設を早急に終わらせて東に向かってみることにするかな!

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