第144話 新しい村 其の一☆

「よーし、それじゃ行こうか!」

「はーい!」

「あいー」


 昼頃、俺達家族は全員でラベレ村を出る。

 ピクニックに行くのではないぞ。

 これから北に向かい魔の森を抜けるのだ。

 

「村長ー! 聞いたよ!」

「本当に行っちゃうのかい!?」

「俺も連れてってくれよ!」


 なんて村民達が声をかけてくる。

 まぁ、ラベレ村を出て新しい村を作るって言っても、ポータルを使えばすぐに来れるだろうしね。

 

「もうライト様ったら。そういう問題ではありませんよ」

「ん? どういうこと?」


 アーニャに嗜められてしまう。

 なんでも村民達は今までずっと俺と一緒に戦ってくれた。

 だからこれからもこの土地を守るために最前線で働きたいと言ってくれている。

 

「みんなライト殿が大好きなのです。きっと離れるのが寂しいのでしょう」


 今度はシャニが言う。

 うーん、でも村民全員を連れていくことは出来ないぞ。

 しかし村を運営するには人手がいるからな。

 誰かしら一緒に来てもらうことになるだろう。

 それは後で決めればいいよな。

 取り敢えず今はやることがある。


「よし、それじゃ行こうか!」

「はい! リディアさん、シャニ、良かったら乗ってください」


 身重のシャニと乳飲み子を抱えるリディアを気遣ってか、アーニャは二人を後ろに乗せていくようだ。

 ラミアは他の種族より力が強いからな。

 だって下半身は全身筋肉なわけだし。

 たまに感極まったアーニャに全力で抱きつかれる……というか蛇の尻尾を絡ませてくるんだが、その時はいつもあばら骨が折れるんじゃないかと心配している。

 蛇に巻き付かれたネズミの気持ちが良く分かるよ。


「あーん、私も乗りたーい」

「ふふ、リリは元気でしょ? 走ってついてきなさい!」


 ――シュルルルルッ!


 アーニャは二人を乗せたまま北に向かっていった。

 残されたのは俺とリリ。仕方ないので軽くジョギングしながら森の外を目指す。

 しかし体力の差があるんだろうな。

 三十分もするとリリが遅れてきた。


「ま、待ってよ~。速すぎだよ~」

「そう? 仕方ないなぁ。ほら、乗って」


 俺はリリに背を向けてしゃがむ。

 しかしリリは乗ってこない。

 なんだよ、せっかくおんぶしてやろうと思ったのに。


「どうした? 早く乗りなよ」

「やだ……。抱っこがいい」


 おま……。この森の中でリリを抱えて走れと?

 くそ、仕方ないか。

 俺はリリをお姫様抱っこしながら先に進むことに。


「うふふ、いたずらしちゃお」


 ――ハミッ ペロペロッ


 リリは俺の耳を噛んだりペロペロしたりして俺の邪魔をする。

 そ、そこは駄目だって。弱いところなんだから。


「あれー? 気持ち良くなっちゃったのー? うふふ、いけなーいんだ。私みたいな子に興奮するなんてー」

「おまっ……」


 全く悪い子だな。こうなったら分からせてやるしかあるまい。

 俺は立ち止まりリリを下ろす。


「え? どうしたの? な、なんか目が怖い……。きゃあんっ」


 ここは野外ではあるが、周りには誰もいないしな。

 俺もリリの口撃によって気分が盛り上がってしまった。

 彼女には責任をとってもらうことにする。


「えっ!? こ、ここで!? そ、外なんだよ!?」


 抵抗するがもう遅い。

 いたずらした罰は受けてもらおう。

 


◇◆◇


 

 ――30分後。


「うぅ、酷いよう。あんなに激しくしなくたって」


 とリリは半べそをかいている。 

 しまった、ちょっとハッスルし過ぎたかもしれん。

 リリは腰を抜かしているようだ。

 なので結局はおんぶすることになった。


「ね、ねぇライト?」

「なんだ? 喋ってると舌噛むぞ」


「あ、あのね、さっきはごめんね。もし良かったらなんだけど……またお外でしてみない?」


 あら、新しい扉を開いちゃったかな?

 これからは異形も出ないことだし、たまには野外で楽しむのもあり……かな?

 なんてことを考えながら、俺達はようやく森の出口に到着する。

 そこは草原が広がっており、辺りにあるのは膝下まで生えている草と大きめの石くらいだ。

 こうして見ると本当に何も無いな。

 

「ライトさーん、こっちでーす」

「ちちー」

「パパだって」

 

 先についていたリディア達は持参した水筒に入ったお茶を飲んでいた。

 さてと、それでは壁を建てるとしようか。

 壁を建てる場所はやはり森の入り口付近。

 元々ここはかつてラベレ村があった場所であり、ここから南に向かって森が切り開かれている。

 ここが防衛の要なんだろうな。


「ライト様、大きさはどうするんですか?」

「それね。常に遭難者誘導は発動してるからな、すぐに人は増えるだろ」


 俺の力の一つである遭難者誘導・改。

 これを発動しているだけで未だ森の中で自我を失っている人達を拠点に誘導することが出来る。

 数にムラはあるようだが、最低でも一日十人、多い時は三十人が増えることになる。

 それにラベレ村から何人か一緒に来てもらう予定だから、初めから大きめにした方が良さそうだな。


 とりあえず管理しやすいようにラベレ村の1/5程度の大きさにしておくか。

 狭くなったら壁を拡張すればいいだけの話だしな。


【壁! 壁! 壁! 壁!】


 ――ズゴゴゴゴッ!


 地面から壁が飛び出し四方を囲うような正方形の形を作る。

 ふぅ、とりあえずはこんなもんかな。

 俺は壁の一部を消して中に入ってみる。

 まぁ中と言っても作りたての拠点だから何も無いんだけどね。

 

「ここが新しい家になるのですね」

「あぁ。でも今日は一度ラベレ村に戻ることになると思うけどね」


 さすがに身重のシャニにベッドが無いようなところで寝かせられないしな。

 それにポータルを使えば一瞬でラベレ村に到着するわけだし。


 俺は敷地内の一角にポータルを作る。

 家具や生活用品なんかは一度戻って取り揃えることにしよう。


 では、まずは俺達が快適に住めるような家を建てるとするか。

 みんなが住むことになる家だ。

 しかもこれから家族も増えていくことになるだろう。

 リディア達の意見も聞いておかないとな。


「やっぱり一階はキッチンとリビング、お風呂とトイレは欲しいです!」

「あぶー!」


 なるほど、そこは前と変わらずってことね。


「あの、二階なんですけど、やっぱり一部屋の大きさを広くしてもらえると嬉しいです」


 これはアーニャの意見。

 そうだよね、家族が増えることも考えると母子が快適に過ごせる面積は必要だろう。

 以前の家だが、アーニャ達の部屋は六畳一間って感じの広さだった。

 今回はその倍は広くしてあげないと。


「ライト殿の寝室も広くして下さい。以前の広さでは五人で楽しむことが出来ません」

「それそれー! 確かにそうだよね! 誰かしらベッドから落ちちゃうんだもん!」


 リリとシャニの意見だがリディア達も同じ気持ちみたいだ。

 一応交代制で楽しむようにしてあるが、極まれに全員でイチャイチャする時もある。

 その時はリリが言う通り誰かしらベッドから押し出されることになるのだ。

 まぁそれは体の小さなリリが主に被害にあっているのだが。

  

 彼女達の意見を元にすると、広さはラベレ村の家の倍の大きさは必要だな。

 内装は明日やればいい。

 とりあえず今日は外側だけ作っておくかな。

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