第141話 決着

【壁ぇっ!】


 ――ズゴゴゴゴッ! グチャッ!


 洞窟の中、壁攻撃を発動。

 まぁ壁と洞窟の天井で押し潰すわけだが。

 狭い洞窟内ならではの攻撃だな。


 アーニャ達も勇んで槍を振るい次々に異形を倒していく。

 これが平地だったら俺達は囲まれてお陀仏だっただろう。

 だがここは洞窟の中、異形の巣なわけだ。

 敵戦力は前方からしかやってこない。

 ここでは数の差なんて大した問題ではないな。


 俺達を殺そうと異形達は大群で襲いかかってきた。

 だが次第とその数を減らしていく。

 どうやら俺の作戦は成功ということだろう。


 セタは伸ばした腕から電撃のような魔法を放ち、最後の異形は塵へと姿を変える。


「ふぅ……。ようやく終わったな。それにしても私自身も魔力が上がったようだ。ここまで高威力の魔法は使えなかったはずだ」


 セタも村民になったからな。

 村が発展する度に村民もレベルアップするようだ。

 シャニもラベレ村の戦力はかつての王都以上だって言ってたしな。


「ライト、休んでる暇は無いよ! この先にコアがあるはず! 急がないと! また瘴気が濃くなってきてる!」

「なんて?」


 リリが言うには再び異形は復活して俺達を襲いにかかるそうな。

 それだけ洞窟内に漂う瘴気ってやつは濃いそうだ。

 地球でいうところの二酸化炭素濃度が高いみたいなもんかな?


 魔力とかよく分からんが、現地人のセタやリリは突入前よりも焦っているようだ。

 とにかくあまり時間は無いということだろうさ。


「先に進むぞ。各自警戒しておけ」

「ライト様、私の後ろに」


 アーニャは俺の前に立つ。

 女性であり妻であるアーニャを前に立たすなど……と思わないでもらいたい。

 むしろこれが一番良い配置なのだ。

 俺の力である壁は発生に少しばかりタイムラグがある。

 一秒の判断の遅れが命取りになる状況では俺が先頭に立つべきではない。


「ふふ、大丈夫ですよ。ライト様は私が守りますから」


 と言ってアーニャは笑う。

 強くなったな。出会った頃は自分に自信が無く、引っ込み思案だった。

 だが俺と過ごすうちに良い変化を遂げられたようだ。

 

 少しほっこりつしし、俺達は先に進む。

 洞窟内を照らす灯りは俺達が持つ松明の灯りだけだったが、次第と不気味なくらい辺りが赤く染まっていく。

 

 ――ザッ


 先頭を歩くアーニャが止まる。

 

「ライト様、あそこです……」

「あぁ」


 狭い洞窟とは思えない程の空間が広がっており、そしてその中央には赤く光りを放つ水晶のような鉱石があった。


 あれがコアか。


「リリ、頼めるか?」

「う、うん。でも怖いから一緒に行ってくれる?」

「リリ、ここは任せたぞ。諸君! 撤退の準備をせよ!」


 セタは突入部隊に声をかけ後ろに下がる。

 俺はリリと一緒に核の前に進む。


 ――コツンッ


「わわっ。ビックリした……」

「躓いたのか? 足元が暗いから気をつけ……?」


 躓いたのは石を蹴ったからではなかった。

 人骨だ。リリは髑髏を蹴ってしまったようだ。

 ここで異形に食われた犠牲者か? 

 でも異形って人間以外は殺さないんじゃなかったっけ?

 でもセタも異形は進化してるって言ってたしな。

 骨は一つではない。二人分あった。

 簡単に手を合わせておく。


 それじゃ先に進もうかな。


 ――ブゥンッ


 核はまるで生きているかのように空気を震わせていた。

 そしてその周りをまるでハエのような黒い粒が宙を漂っている。


「い、急がないと。また異形が出てきちゃう……」

「大丈夫だ。その前に終わらせる。リリ、頼む」


「うん……」


 リリは鞄の中から小瓶を取り出す。

 ん? 実物を見るのは初めてだが、こんなに小さいのか?


「あー、ライト、今失礼なこと思ったでしょ?」

「バレたか。でも本当にそれがマナブレイカーってやつなの?」


 ほら、芹○博士が作ったオキシジェンデストロイヤーだって、両手で抱えるくらいの大きさだったじゃん。

 もうちょっと大きいもんだと思ってたよ。


 リリはマナブレイカーを核に張り付ける。

 そして液体の入った注射器のようなものを取り出す。 

 中の液体はまるで水銀のように輝いていた。

 

「いい? これから液化オリハルコンを注入するの。中に入ってる薬液と反応して大爆発を起こす。リミットは五分。それまでに……?」


 ――ブゥンッ


 再び核が唸りをあげる。

 そして周りに漂っていた塵が次第と人の形を成していった。

 やば、もう復活すんのかよ!?


「リリ! やれ!」

「う、うん!」


 リリは焦りつつも瓶に液化オリハルコンを注入する!

 

「よし、逃げ……」

「まだよ! は、反応してない!? どうして!?」


「どういうことだ!?」

「量が足りなかったかも!? 少しだけ時間を稼いで!」


 リリは予備の注射器を取り出す。

 でも時間を稼げって……。

 くそ! こうなりゃ最後までやってやるさ!


「アーニャ! セタ! 先にポータルに向かえ!」

「そ、そんな!? ライト様を置いてなんて行けません!」


 アーニャはその場に留まろうとする。

 何気にアーニャも頑固だからな。行けと言っても聞かないだろ。

 くそ、ならばセタと村民だけでも先に逃げてもらわないとな。


「セタ! 先に行ってくれ!」

「分かった! だが必ず無事に戻ってくるのだぞ!」


 ――ザッザッザッザッ


 アーニャを残し、突入部隊とセタは戻っていった。

 さて、ここに残ったのは俺達三人のみ。

 ならやれることをやるまでだ!


【壁! 壁! 壁! 壁ぇっ!】


 ――ズゴゴゴゴッ!


 核を囲うように壁を建てる!

 これで少なくとも囲まれる心配は無さそうだな!

 しかし全ての塵を排除出来たわけではない。

 まだ核の周りには塵が漂っている。


 それはやはり人型に変化……というか異形へと形を変えた。


『ウルルルォ……』

「せい!」


 ――ドシュッ!


 アーニャの槍が産まれたばかりの異形を貫く!

 しかし壁を破ろうと異形達が壁を叩く音が響く。

 

「リリ! まだか!」

「終わったよ! 反応してる! でも今度は量が多すぎたかも!」


「つまり!?」

「五分ももたないってこと!」


 それってヤバいじゃん!


「みんな、走れ!」

「それじゃ間に合いません! ライト様、リリ! 私に乗って下さい!」


 アーニャは俺達に背を向ける。

 なるほど、確かに機動力だけならアーニャが一番上だからな!


「頼む!」

「はい!」


 アーニャは俺達の乗せシュルシュルと這うように進む!

 前方に光りが見える! 出口だ! あそこまで行けば……。


 ――カッ


 え? 一瞬の出来事だった。

 洞窟の中が真っ白に輝く。

 も、もしかして……。


「起爆した! 早く!」

「マジかよ!? だったら! 壁!」


 ――ズゴォンッ! ズゴォンッ! ズゴォンッ! ズゴォンッ!


 後ろに可能な限り壁を建てる! 

 これで少しでも爆風なんかを防げるかもしれないからな!


「ライト様! リリ! 掴まってて!」


 アーニャは最後の力を振り絞って走る!

 それてようやく洞窟の外に出たー!


「アーニャ! ポータルに飛び込め!」

「はい!」


 ――ブゥンッ! ジュワッ!


 熱っ!? 背中が焼ける!?

 それだけの熱が俺達を包みこむ……前にポータルに飛び込んだ。



















 ――ドサッ


 アーニャはポータルから出た瞬間に地面に倒れてしまう。

 

「ライト! 無事だったか!」

「あ、あぁ……。何とかな……?」

「死ぬかと思った~」

「つ、疲れました……」


 セタと突入部隊の村民は全員先に村に戻れたようだ。

 村民達の手を借りて何とか起き上がる。

 次の瞬間……。


 ――ズゴォォォォンッ……


 じ、地面が揺れてる? 

 そして遠くから轟音が聞こえてきた。


「ライト様、あれを……」

「あぁ。成功したか……」


 村民達は南の空を見上げる。

 そこには天を貫くように立ち上るキノコ雲が見えた。

 

 村民達はその光景を見て言葉を失っていた。

 なるほどね、確かにあの爆発に巻き込まれたら俺達は塵一つ残さずに蒸発していたことだろう。


「ライトさん!」

「ライト殿」

「ちちー」


 俺達が戻ったことを知ったリディアとシャニが走り寄ってくる。

 ミライも一緒だ。

 

 彼女達は俺に抱きついてくる。

 俺もしっかりと二人を抱きしめた。


「もう……。心配したんですから……」

「ご無事で何よりです」

「私達も労ってよー」

「ふふ、ミライちゃん、戻りましたよ」


 俺達を見て村民達はようやく自分達が異形との戦いに勝ったことを理解したようだ。


 ――ワーッ!!!!


 5000人を超える村民が勝利の雄叫びをあげた。

 ふぅ、取り敢えずこれで南の大陸の脅威は一つ減ったことになるか。

 

 これからどうするかな。

 まぁ、それは少しだけゆっくりさせてもらってから考えるとしよう!


「みんな! 今夜から異形に怯える必要は無くなった! 安心して眠れるからな!」


 俺が叫ぶと村民はさらに大きな雄叫びをあげるのだった。

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