第140話 突入 其の三

「ふぅ、お腹いっぱいです」

「だな。それじゃそろそろ行きますか!」


 森の奥、俺達は異形の巣に向けて進んでいた。

 朝日が昇らないうちに村を出たからな。

 そろそろ到着しても良い頃だろう。


 だが腹が減っては戦は出来ぬ。

 途中で少し休憩していくことにした。

 

 俺達は立ち上がり、再び南に向けて歩き出す。

 案内は森歩きに慣れているエルフに任せているが、彼らでも地図が無いと迷うらしい。


「瘴気が濃いのだ。それが方向感覚を鈍らせる」


 とは言いましても。

 自分魔力ゼロですし。

 なんのこっちゃかさっぱり分からん。


「ははは、異邦人というのは出鱈目な存在だな。魔法以上の力を持ちながら魔力の一つも読み取れんとは」


 なんてことを言ってセタは笑う。

 でもさ、この世界の住民だって魔法は使えない人だっているじゃん。

 現にアーニャだって魔力はゼロなわけだし。


「え? でも私も魔力の淀みくらいなら分かりますよ? むしろライト様がそんなことに気付かなかっただなんて……」


 前言撤回だ。

 アーニャも魔力の流れくらいなら読み取れるらしい。

 っていうか、ここにいる突入部隊の全員が異変を感じているようだった。

 ある者は青い顔をして。

 ある者は全身を震わせて。

 リリは冷や汗を流し、アーニャからは笑顔が消えた。


 さすがに俺でも分かった。

 目の前には洞窟があり、まるで大蛇が口を開けているかのようだ。

 ここだな。まるで心霊スポットみたいだよ。

 俺ですら洞窟の前に立つと鳥肌が……。


「こ、ここまでとは……。負の魔力が高過ぎる。道理で見つからないはずだ」


 セタが言うには負の魔力だかオーラが濃い場所は自然と避けて通るようになっているのだとか。

 俺が好きだった格闘漫画でもそんな感じのことを言ってたな。

 なんでも武を極めた者は自然と脅威を避けるようになるって。


「なぁ、中に入れば異形は襲ってくると思うか?」

 

 異形は基本的には夜行性。夜にしか活動しない。

 まだ昼を少し過ぎたくらいだし、夜になるまでまだ充分に時間はある。


「間違いなく襲ってくるだろうさ。夜ではなくても月のマナではなくコアから魔力を吸収する。これだけ距離が近ければ夜でなくとも姿を形成するには充分だろう」


 なるほどね。中に入れば戦いは避けられないと。

 なら俺達も戦いの準備をするとしようか!


【壁! 壁! 壁! 壁!】


 ――ズゴゴゴゴッ


 洞窟のすぐそばに四方を壁で囲った空間を作る。

 するといつもの天の声が聞こえてきた。


 ――ピコーンッ


【未所有の土地が一定時間壁で囲まれました。これらの土地を敷地にしますか?】


 これで壁で囲まれた土地は俺のものとなる。

 さあ次だ。


(YES。新拠点にポータルを設置)

【受け付け完了】


 ――ブゥンッ


 新たに作った敷地内にポータルが発生する。

 これが俺達の唯一の逃げ道となる。

 みんなには説明は事前にしておいたが、最後にもう一度言っておこう。


「みんな聞いてくれ。俺達は今からこの洞窟の中に突入する。恐らく異形とは正面から戦うことになるだろう」

「…………」


 ここにいる全員が頷く。

 覚悟は出来ているみたいだな。


「作戦は至って単純だ。このまま突入してコアまで辿り着く。そこでマナブレイカーを起爆して全力で逃げるだけだ」


 逃げる先は今作ったポータルだ。

 ポータルはラベレ村と繋がっている。

 作戦は突入、起爆、ポータルに逃げる。

 この工程を五分で行えばいい。

 どうだ? 我ながら良い作戦だと思う。

 だって単純だし。


「ふふ、確かに単純ですね。安心しました」

「そうだねー。なんかさっきまで心配だったけど、もう成功する気しかしないよ!」


 アーニャとリリは俺の説明を受けて元気になった。

 セタを初め、百名の突入部隊の顔にも笑顔が浮かぶ。


 ははは、そうそう、その顔だよ。

 俺達は死にに行くわけじゃないんだ。

 異形を倒して、夜も安心して寝られる平和な日々を取り戻すために戦うんだから。


 よっしゃ、それじゃサクッと世界を救うとしましょうか!


「みんな! 武器を持て! もう説明の必要はない! さっさと異形を倒して村に戻るんだ!」

「はい!」「うん!」「任せろ!」

「「「うぉぉぉぉー!」」」」


 アーニャは槍を持ち、先頭に立つ。

 彼女は魔法こそ使えないが、腕力だけなら俺に次いで二番目に強い。

 並の異形なら片手でも倒せるほどだ。


「皆さん! ついてきて!」


 アーニャは勇ましく洞窟に足を踏み入れる。

 さぁ、それじゃ俺も仕事をしなくちゃな。


【壁っ!】


 ――ズゴゴゴゴッ!


 洞窟内の両端にオリハルコンの壁を建てる!

 この洞窟はかなり広い。

 人間なら同時に10人程度が同時に進むことが出来るくらいだろう。


 壁を建てることで、敵の進軍を阻む。

 もちろんこっちも戦力は前方の一ヶ所だけとなる。

 だがそれでいいんだ。


 異形は数が多い。その数の暴力の前ではいかにこちらの力が上がっていたとしてもまともに戦うのは無理だろう。

 だって前回の大規模襲撃の時でも10万とかはいたんじゃないか?

 対するこちらの戦力は僅か100名。

 圧倒的戦力不足だ。

 だからこそ俺達は地形を利用する。

 シャニから洞窟に巣があるって聞いた時に思い付いた。


 洞窟の中ならば数の差なんて関係無い。

 むしろ俺の力があれば有利に戦えるはずだ。


 アーニャは恐れることなく先に進む。

 だが洞窟の奥からは人ならぬ不気味な声が聞こえてきた。


『ウルルルォォイッ……』

『ウバァァァッ……』


 異形だ。奴らも俺達がここに入ってきたことに気付いたんだろうな。


「来ます!」

【щaiμmos!】


 セタはアーニャの後ろから魔法を放つ!

 

 ――ズドォッ!


 青白い光りを帯びた魔法の矢が飛んでいく。

 奥は暗く松明の灯りは届かない。

 しかし着弾した時に眩い程の光りが洞窟内を照らした。


 そして見えたのは洞窟を埋めつくす異形の群れだった。

 そのほとんどが巨人タイプ。最も攻撃力の高い奴らだな。


「行きます!」

【壁ぇっ!】


 ――ズゴゴゴゴッ!


 俺は洞窟の両端に次々に壁を建てる!

 異形は壁を壊そうとする個体、俺達を攻撃しようとする個体と別れているようだ。

 だがやはり通路を狭くしたことで注意すべき戦力は前方一ヶ所のみ。


「はっ!」

『ウルルルォォイッ……?』


 ――ビュンッ! ドシュッ!


 アーニャの槍が異形を貫く!

 洞窟内は壁で狭くしているので、俺達も三人が横に並ぶのがやっとだ。

 だがアーニャ達の列にはさらにリーチが長い槍を持った者が槍を構えている。

 そのまた後ろにもさらに長い槍を持った者が。


 これはローマ軍が使っていたファランクスっていう陣形の変型版みたいなもんだな。

 スパルタ兵が少ない兵士で数万の敵と戦った時もこんな陣形をしていたはずだ。

 

 さすがは百戦錬磨のレオニダス王が使っていた陣形でもある。

 俺達は次々に異形を刺し貫いていった。


『ウバァッ!』

「きゃあっ!?」

「アーニャ! 一旦下がれ!」


 異形の攻撃を受けアーニャが傷を負ったようだ。

 アーニャの列が下がると同時に後ろに控えていた村民が前に出る。


 怪我をした者はこうして次々に後列に下がり、そして再び自分の番が来るまで控えているのだ。

 こうすることで適度に休息しつつ敵と戦うことが出来る。

 

 もちろん俺だって壁を建てるだけではないぞ。

 この地形を活かした活用法だってあるのだ。


【壁ぇっ!】


 ――ズゴゴゴゴッ! グチャッ!


 太い大きな壁を建てる。

 その上に乗っていた異形は洞窟の天井と壁に挟まれ……。


『ウルルルォォイッ……』


 一言鳴いて絶命した。


 俺達の攻撃は続く。

 村民は槍で。

 セタは魔法で。

 俺は壁のプレス攻撃で。


 次第と異形の猛攻は止まっていった。


 そして俺達は辿り着く。

 洞窟の中央、そこに不気味に輝くコアがある空間にな。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る