第134話 シャニのために 其の一

「んん……。ライト様ぁ……」


 アーニャの寝言を聞いて目を覚ます。

 今日は安息日だ。本来なら家族全員と過ごすと決めていたが……。


 まずはいつもと同じようにアーニャの髪を撫でて彼女を起こす。


「アーニャ、起きて」

「ん……。ふふ、もっと撫でて下さい」


 と裸のアーニャは甘えてくる。

 シュルシュルと蛇の尻尾を俺に巻き付けて情熱的なキスをされた。

 もう一戦……と言いたいところだが、今日はシャニのために時間を使わなければならない。

 俺達のためにたった一人で危険な任務に向かう彼女のためにな。


 そのことはリディア達にも伝えてある。

 もちろん彼女達は反対はしたが、それでもシャニの決意は変わらなかった。


「シャニ、大丈夫でしょうか?」

「心配か? きっと大丈夫さ。ほら、アーニャも着替えて」


 アーニャはベッドから出て服を着る。

 そして今からみんなで朝食の準備だ。

 しかしキッチンに向かうとすでにリディアが起きていて鼻歌を歌いながら料理をしている。


「おはよ、手伝うよ」

「ごめんなさい、寝坊してしまいました」

「うふふ、いいのよ。昨日はお楽しみでしたねー?」


 なんて某有名RPGみたいなことを言って俺達をからかってくる。

 お返しにしっかりと尻を揉んでやった。

 うん、安産型のいいお尻だ。もう一人産んでも全く問題ないな。


「きゃん。もう、ライトさんのエッチ」

「んきゃー。えっちー」

「あはは、ミライちゃんが新しい言葉を覚えたね。でもえっちーだってさ」

「賢い子ですね」


 リビングではリリとシャニがミライの面倒を見てくれている。

 ミライはシャニに抱かれてご機嫌のようだ。


「シャニ姉、私にも抱かせてー」

「まだ駄目です」


 なんてことを言いミライの取り合いをしていた。

 ミライも一人で座れるようになったので、今は手製のベビーチェアに座らせて一緒にご飯を食べる。

 まだまだおっぱいが必要だが、少しずつ離乳食に慣れさせているのだ。


「ミライ、食べなさい」

「あいー」


 シャニは離乳食をスプーンですくいミライの口に運ぶ。

 種族は違えど本当の母子のような光景だ。

 ミライもシャニのことを母親の一人だと思っているんだろうな。


 平和な朝食を終えると何やらリディア達がシャニを囲んでから二階へと連行していった。


「な、なんですか?」

「ふふ、いいの。ちょっと来なさい!」


 何をするのだろうか?

 妻達が二階に行っている間、俺はミライのおしめを代えたりしている。

 うーん、中々いいものを出すようになったな。

 そろそろおまるを作っても良いかもしれん。


 うんちで汚れたお尻を拭くと気持ち良かったのかミライはおしっこをしてしまう。

 せっかく綺麗にしたのに……。


「んきゃー!」


 なんてミライは喜ぶのだが。

 もしかして狙っておしっこしてないか?

 まぁ、これも子育てあるあるなんだろうなぁ。


 なんてことを考えていると、シャニはリビングに戻ってきた……のだが。

 シャニはいつもは動きやすい服を着ている。

 シャツにパンツといったカジュアルな格好を好む。

 あまりファッションに興味がないのだ。


 だが今のシャニは鮮やかな黄色のワンピースを着ており、首には俺が結婚式に渡した真珠のネックレスをつけている。


「お、おかしくないでしょうか?」

「ふふ、よく似合ってるよ! ねぇライト? シャニねえ、綺麗でしょ?」

「あぁ。見違えたよ」


 シャニはリディア達よりは胸はないが、元暗殺部隊隊長ということもあり、引き締まった体をしている。

 セクシーというより格好いい体つきなのだ。

 少し筋肉質でありつつ、女性の柔らかさもあわせ持つ素晴らしい体をしている。

 しかしシャニ自身はその性格からか、あまり派手な格好は好まなかった。


「しかし突然敵に襲われる危険もあります。動きやすい服を着ていなければ……」

「ラベレ村で敵は出ないでしょ?」


 とアーニャに突っ込まれる。

 ははは、そうそう。村の中は平和そのものなんだからさ。

 どんな服を着ていても問題無いさ。

 それに今日は安息日だからな。

 夜も異形が襲ってくる心配はないし。


「ほらシャニ、そろそろ行ってらっしゃい」

「はい、リディア姉」


 リディア達は笑顔でシャニを送り出してくれた。

 彼女達もシャニの決意を知り、今日一日をシャニのために使ってくれと俺に言ってくれたのだ。


「行こうか」

「はい」


 二人で家を出る。

 こうして二人っきりで過ごすのなんか久しぶりだな。

 俺の妻達は全員仲がいい。お互いに嫉妬することもなく本当の姉妹のような生活をしている。

 だから安息日は全員で過ごすことが多い。


 なので俺も少し新鮮な気分だ。


「ライト殿」

「ん?」


 俺が聞く前にシャニは手を繋いできた。

 初めはお互いの掌を握るが、次第と恋人握り直して村を歩く。

 

 さて、どこに行こうかな。

 特に予定は決めていない。とにかく今日はシャニと一緒にいられればいいのさ。

 

「牧場に行きませんか?」


 牧場だって? 別にいいけどデートにしてはムードが無いなぁ。

 しかしシャニのリクエストだしな。


「せっかくだしさ、マーケットで何か食べられるものを買っていこうか」

「はい」


 俺達は村の中央にある仮設マーケットに向かう。

 マーケットは今日も多くの村民で溢れかえっていた。

 村民達は元々商売をしていた者も多く、自分で作ったであろう日用品を売っている露店なんかもあり、他にもパン屋なんかも人気店の一つだ。

 

 俺達は昼ごはん用にパン屋で好きなパンを買うことにした。

 ちなみにパン屋ではお惣菜パンも売っている。

 レシピは俺が教えたんだ。一番人気はヤキソバパンのようだ。


 用意されたトレイにパンを乗せ会計に向かう。


「ライト殿はヤキソバパンとハンバーガーですね。少なくありませんか?」

「んー、こんなもんじゃないの? シャニは何を買う……。えぇ……?」


 ――ドッギャーンッ


 そんな擬音が聞こえてきそうだった。

 彼女のトレイを見ると本当に食べきれんの?というほどの大量のパンが乗っているではないか。

 20個くらいあるぞ。


「すいません。つい興奮してしまい我を忘れてしまいました」


 話し方のトーンと無表情はいつも通りなんだけどね。

 シャニも今日のデートを楽しみにしてくれているのだろう。


 会計を済まし牧場に向かうポータルに向かう……前にシャニはとある露店を見つめている。


「ライト殿、あれも買いましょう」

「あれ? まだ食べたいものが……。って、えぇ……?」


「グルルルルッ! お、押すなー! TE◯GAの在庫はまだあるから!」


 ――うぉぉぉっー!


 男性の村民が俺のアダルトショップに殺到している。

 っていうかシャニ、興味あるの?

 確かにシャニとエッチするときにコンニャクオ◯ホは試したことがある。

 気絶する程気持ち良かったらしい。


 シャニも長い列に並び、尻尾を振りながら俺考案の異世界TE◯GAを購入するのだった。

 

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