第132話 シャニの決意
「焼きたてのパンはいかがー!」
「取れたての魚だ! こっちの貝も美味いぞ!」
「村長直伝の毛皮の毛布だ! 寝心地は最高だぜ!」
ここはラベレ村にある仮設マーケットだ。
商売を始めた村民達が威勢の良い客引きの言葉を投げ掛けている。
現在村民達にはオリハルコンを溶かした硬貨を使ってもらっている。リリしか作れないもので偽造はまず不可能な硬貨なのだ。
ちなみに単位は日本にちなんでエンにしてみた。
特大の硬貨は一万エン。大硬貨は五千エン。
中硬貨は千エンで、小硬貨は百エンとした。
とりあえずはこれで運用してみることに。
俺は八百屋に向かい各種野菜を買うことにした。
一応村長も公務員扱いでセタからお給料をもらっているのだ。
「あら村長、いらっしゃい」
「こんちは。それじゃイモとネギをもらおうかな」
とドワーフのおばちゃんが優しく声をかけてくれる。
俺が千エンを出すと二百エンのお釣りを渡してくる。
だが買った分よりかなりおまけをしてくれた。
「多くない?」
「いいんだよ! むしろ持ってておくれ! 土が良すぎるのと暖かくなったからねぇ。野菜が育ち過ぎて困ってるんだよ。腐らせるよりはいいのさ」
なるほど、豊作過ぎるということか。
ならばお言葉に甘えて貰って帰ることにした。
村を歩きながら道行く村民を見て思う。
皆思い思いの店で楽しそうに買い物をしていた。
うーん、僅か三ヶ月でここまで発展するとはなあ。
もう自分の村じゃないみたいだ。
これはセタが金を流通させてくれたおかげでもある。
今まで俺に依存してきた村民が自分の足で立ち上がり、自分達の力で生きていこうとしているのだ。
嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあるなぁ。
そしてマーケットには様々な店が軒を連ねている。
魚屋、肉屋、家具屋に服屋。
この中で一際多くの客で溢れかえっている店がある。
俺もその店の様子を見てみることにした。
「グルルルッ! そ、そんなに押すな! もうコンニャクは品切れだ!」
「そ、そんなー!」
「うぅ、今夜の楽しみにしてたのに……」
「次の入荷はまだなのか!?」
店主はデュパだ。っていうか無理矢理俺がやらせることにした。
デュパは俺を見つけるや否や店を飛び出してくる。
「グルル! こいつらを何とかしてくれ! 忙し過ぎて身が持たん!」
「うーん。やっぱり古今東西エロいものは売れるんだなぁ」
俺が考案したコンニャクオ◯ホだが独身男性だけではなく妻帯者の間でも口コミとなりラベレ村では大人気となってしまった。
オ◯ホ使用者の村民満足度だけで壁レベルが上がる程に。
なのでこれは商売になるかもとアダルトショップを開いてみた。
今のコンニャクオ◯ホは竹にいれ、そしてローションもセットにして販売している。
要は異世界TE◯GAである。
一応俺がここのショップのオーナーでありTE◯GA職人として数名村民を雇っている。
デュパは試験的に出した店の売り子をしてもらっているので正規職員ではなくアルバイトさんなのだ。
「グルル、もう帰ってもいいか?」
「売れるものがなくなったんだろ? なら仕方ないよ。生産はなるべく急ぐからさ、また明日も頼む!」
デュパは渋々店を畳みに向かう。
今日の売上は15万エンだった。一つ千エンのTE◯GA150個全てが売れてしまった。
税金で10%は持っていかれるが、それでもかなり高い額だ。
村を譲渡した後はアダルトショップのオーナーとして生計を立てていくのも面白いかもしれん。
なんてことを考えながら自宅に戻ると……。
「お帰りなさーい」
「あぶー。ちちー」
リディアに抱っこされた愛娘のミライが俺を見て嬉しそうに笑っている。
彼女が産まれて5ヶ月が経つ。そして先日、単語ではあるが話せるようになったのだ!
でも話せるのはママと父だけなのだが。
っていうかパパではなく父なのが気になるところだ。
「ただいまミライ。パパだよ」
「ちちー」
「パーパ」
「ちーち」
はぁ……。もうちちでいいや。
リディアに野菜を渡すと同時にミライを受けとる。
これから異形が攻めてくるまで少しだけ親子水入らずの時間を過ごすのだ。
「それじゃ私は夕ごはんの準備をしてきますね」
「あぁ。ミライは俺が見てるから。よーし、ミライ。たっちの練習をしような」
「あいー」
彼女はまだ歩けないが掴まり立ちが少し出来るようになった。
ふふ、もうすぐ歩けるようになるだろうな。
「ほう。もう掴まり立ちが出来るとは。ミライは成長が早いな」
「ライト殿、今戻りました」
「ばぁばー。まーま」
振り向くも魔王セタとシャニが玄関に立っている。
珍しい組み合わせだな。
セタはミライを抱っこして本当のおばあちゃんのようにミライを可愛がる。
「ふふ、ミライは本当に可愛いな。やはり大きくなったら私に仕えるといい。魔族のみに伝わる闇魔法の全てを教えてやるぞ。いや、ミライなら新しい魔王にしてやらんでもないぞ」
「んきゃー」
うーむ、これはミライの就職先が見つかったということで喜ぶべきなのだろうか?
それにしても魔王って。うちの子はエルフなんですが。
「ははは、そんな顔をするな。冗談だよ。しかしミライが望めば考えてやらんでもないぞ」
「んー。それはミライが大きくなってからの話だな。うちの子は自分で就職先を探すよ。多分」
なんて世間話をしているとシャニがセタに耳打ちをする。
そうそう、珍しい組み合わせだから何か俺に言うことがあると思ってたんだ。
春になりコタツはもうしまってあるので、ソファーに腰をかける。
ミライはそのままセタが抱っこするようだ。
リディアが人数分のお茶を用意してくれたところで……。
「すまんな、リディア。お前も聞いて欲しい。最近になってだがようやく異形の巣の場所が分かり始めたのだ」
「本当ですか!?」
「んきゃー」
リディアが驚いている。
実は俺もなんだがね。
今のラベレ村は森の入り口から100㎞程度奥に進んだ場所にある。
そこを拠点として異形の巣の捜索を続けていた。
探索班には俺達にとって有用な植物の採取、遭難者の保護と同時に異形の巣を探してもらっていた。
しかし雪のせいもあり、思うように成果があげられなかったのだ。
「でも春になっても巣は見つけられなかったじゃん。今になって見つかったのは何か理由が……?」
「リリだよ。彼女がこんなものを作ってくれてな」
――トンッ
セタは懐から水晶玉のようなものを取り出す。
しかし中にはキラキラと金色の粒が舞っているように見えた。
「あぶー」
「ミライ、触ってはいけません。セタ様、私から説明します」
「うむ。頼んだ」
セタに代わり今度はシャニが語りだす。
これは水晶玉ではなく液化したオリハルコンをガラス玉に入れているのだとか。
「これは負の魔力を感知する道具です。中央はラベレ村に設定してあります。ライト殿、ここを見て下さい」
シャニは玉の上を指差す。
「北です。ここに大きな魔力溜まりがあるのです。おそらくここから北に20㎞離れた場所に異形の巣があるはずです。作戦を実行する時が来ました。まずは私が北に向かい異形の巣を見つけてきます」
シャニからかつてない決意が感じられた。
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