第131話 会議 其の二
「アーニャ
「うん。リリはそっちのお皿を持っていってね」
「はーい」
「少し辛すぎたかなぁ?」
キッチンでは四人の妻達が忙しそうに調理をしている。
俺達だけだったら朝の残りとかで適当に済ませようと思ってたんだが、セタとデュパがここで昼ごはんを食べるって言ってな。
急遽昼食を作ることになった。
本当は夜に作ろうと思っていた料理だがせっかくなので昼に作ってみることにしたのだ。
一応材料は雪が降る前に揃えていたのだが、配合が上手くいかずに思うような味にならなかった。
だがようやく納得出来るものがつい最近完成したのだ!
「グルル? この匂いは初めて嗅ぐな。何を作っているのだ?」
「まぁまぁ。出来てからのお楽しみってことで」
「酒を出しても構わないのだぞ? ミライ、お前も飲むか?」
「あぶー」
セタさん、お酒は二十歳になってからです。
っていうか赤ん坊に酒を勧めるんじゃないよ。
ミライが飲めるのはおっぱいだけだ。
なんて冗談を言っていたら料理が運ばれてきた。
リディア達も完成品を作るのは初めてなので食べるのを楽しみにしているようだった。
コタツの上に置かれた料理とは……。
平皿に盛られた艶やかな白いごはん。
そしてごはんを半分以上覆いつくす茶色いソース。
トッピングにカツなんかも乗ってるじゃないの!
そしてそして! 付け合わせには赤い福神漬けも!
ここまで再現出来たか!
もう言うまでもないだろう。
カレーである。とうとう異世界でカレーが食べられる日が来ようとは……。
感無量である。
「どれ、それでは頂こうか……!? んぶっ! か、辛い!」
「グルルッ! だが美味いな!」
フライングしてセタとデュパが食べ始めてしまった。
俺達がカレーにスプーンを入れたところでお代わりを要求してくる。
嬉しいんだけどさ、久しぶりのカレーをゆっくり味合わせてくれよ。
リディア達は試作品として作ったカレーの味は知っているがこれは別物のようだ。試作品はあんまり美味しくなかったしねぇ。
美味い美味いと次々にお代わりをしていく。
むぅ、俺が一杯目を食べ終える前に鍋の中が空になってしまった。
まぁカレーは固形ルーにしてあるから簡単には作れるからな。
「ふぅ……。美味かったな。私はおでんより好きかもしれん」
「ははは、お気に召したようで何よりだよ」
少しだけ食休みを挟んでから会議の続きとなる。
次の話題は魔王セタからだった。
「では話そう。ライトよ、お前は異形を倒したらラベレ村を私に譲渡すると言った。その気持ちは変わらぬのか?」
俺は黙って頷く。
リディア達もようやくだが納得してくれた。
この村は異形に襲われ自我を失ったかつての王都に住む民だった。
そしてセタは多少問題はあっただろうが、数千年もの長い期間王都を治めてきた名君でもある。
なら彼女を中心にして新しい国を作ってくれればいい。
「そうか。しかしだな、今すぐにとはいかん。このままかつての法を流用しても上手くはいかないだろう」
これについてはセタも俺も頭を悩ましてきた。
セタが言うには法とは民が幸せに生きるためのもの。既に幸せいっぱいのラベレ村の民には必要ないものばかりだった。
確かに特に生活に困ることとかないしなぁ。
「しかし今のラベレ村は所詮共同体の域を出ていない。このままでは国として機能することは困難だろう」
「だな」
それは俺も考えていたことだ。
このまま民の数が増え続ければより発展していかなければならない。
そのためには法と秩序が絶対に必要になる。
一応大学は出たが、特にその手の勉強はしてこなかった俺には到底出来ないことだ。
「なので少しずつだが民には自立していってもらう。商売を始めるのだ。そこでこれを用意した」
――チャリンッ
セタがコタツの上に置いたもの。
それはコインだった。金色に輝いている。
金か? モース高度を変えれば鉄壁を様々な金属でも変化させることが出来る。
だが俺は今までに金を作り出したことはないぞ。
「オリハルコンだよ。お前の壁を使わせてもらった。リリが溶かし方を教えてくれてな。それを加工したものだ。これを流通させてみようと思う」
「へぇー。よく出来てるな。でも硬貨なら偽造の心配がある……いや、そんなことはないか」
自分で言ってなんだがそう簡単に偽造なんか出来る訳がないことに気付く。
だってオリハルコンで作ってあるんだからな。
王都で一番の天才と言われたリリがようやく加工方法を見つけた程だ。
「そうなの。オリハルコンの硬貨を作れるのは私しかいないからね。簡単に作れないからこそ価値は安定するはずだよ」
「なるほど。ならリリは造幣局の局長になるってことか」
その後セタは民に商売を始めてもらい、この中で負担にならないよう税を払ってもらうことにしたそうだ。
その税金を使って自分が雇った部下の給料に充てたり、公共事業の資金にするんだと。
こうして経済は回っていくらしい。
「村民からは商売をやりたいという者の声も出始めている。もちろん全ての村民が独自に商売を始めることは出来んが」
今までラベレ村でやってきた仕事をする者は公務員として給料を払うんだそうだ。
他に独立したいものは自由に商売を始めても構わないと。
うん、それでいいんじゃないか?
「分かったよ。俺も異形がいなくなった後のラベレ村の未来が見えてきた」
「ははは、いきなりは上手くはいかんさ。だがやってみる価値はあるだろう? それでお前はラベレ村を譲渡した後はどうするのだ? 出来るなら新しい国を作った折りは私達を支えて欲しいのだが」
うーん、実は先のことはあまり考えていないのだ。
セタが言う通り宮仕えをするのもいいけど、出来るならリディア達とゆっくりまったり暮らしていきたいんだよな。
「まだ考えてないんだ。少し時間をくれるか?」
「分かった。良い返答を待っているぞ。それとなんだがもう少し詰めた話がしたい。付き合ってくれ」
税率や防衛のための義務など細かい点はセタがやってくれることになった。
やはり長年政治に携わっていた者は心強い。
「よし、それじゃこんなものにしておくかな。他に何か言い忘れた者はいるか?」
「グルルッ。私からだ。女衆がいる前で話すことではないのだがな。村民……いや男達がまたコンニャクを譲って欲しいと言ってたぞ」
コンニャクって? コンニャクなら食堂に行けばいくらでも食えるぞ。
自宅で料理でも……。いや分かった。
何故男達がコンニャクを欲しがってるかをな。
オ◯ホとして使うんだろうなぁ。
「うーん、まぁいいけどさ。そんなに困ってるのか?」
「グルルッ。分からん。だが直接ライトにお願いするのが恥ずかしいと言ってな。何故か私に相談にくるのだ」
なるほどねぇ。聞けば1000人近い男性がコンニャクを欲しがっているそうな。
中には既婚者もいるらしい。
俺も男で人のことは言えないが……。
「男って馬鹿だな」
「グルル。それが真理というものだ」
最後に何かデュパがかっこ良く閉めてくれた。
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