第130話 会議 其の一
安息日の一週間後、雪は溶けつつあり大分暖かくなってきた。
なので新しい季節が来る前に会議をすることにした。
自宅にはリザードマン代表としてデュパが来てくれた。
そしてかつて王都を治めていた魔王、セタも出席してくれる。
「そらミライー。高い高ーい」
「んきゃー」
そのセタは愛娘のミライに夢中のようだ。
来てからずっとミライを離さないのでリディアが苦笑いをしている。
可愛がってくれるのは嬉しいんだけどねぇ。
そろそろ会議も始めたいしさ。
「えーっと、みんなそろそろ始めようか」
「うむ。ミライも首が座ったようだ。私の膝に乗せてあげよう」
「あぶー」
なんかミライも参加することになったぞ。
まぁ赤ん坊代表として貴重な意見をもらえるかもしれん。んきゃーかあぶーだけしか言えないだろうけど。
各自席……っていうかコタツに入ったところで本日の会議を始めることに。
まずは俺からだ。
「冬の間も俺達は森の奥に進み続けた。かつての湖の拠点から100㎞は南に進んだことになる。ここで一度ストップして異形の巣の探索を続けよう。シャニ、進捗はどうだ?」
シャニは探索班のリーダーとして毎日森の中にあるであろう異形の巣を探している。
しかし以前は積もった雪が進行を邪魔して思うように探索が出来なかったのだ。
「まだ成果は出せていません。しかし一つ良い方法があります」
シャニは語りだす。まだ巣は見つけられていない。ならば襲撃後に異形の跡をつけるのだと。
それってもし途中で気付かれたら危ないんじゃないか?
「もちろん危険はあります。なので尾行するならば新月の後の初日を狙います」
「なるほど」
ラベレ村を襲う異形の数は月の満ち欠けに応じて数が変わる。
満月が最も多くそして年に二回ある二つの月が同時に満月になる夜には
その逆で新月であれば異形は襲ってこないのだ。
これが俺達の唯一の休みである安息日となる。
「だが無理はしないようにな。危ないと思ったら……」
「分かっています。もちろん準備と訓練はしてから挑みます。それに雪が溶けないとこれは実行出来ません。なるべくなら次の大規模襲撃の前に巣を特定したいのですが」
次の大規模襲撃までおよそ四ヶ月ある。
ならば三ヶ月後の新月の後までに成果が出せればいいのか。
シャニには引き続き探索をお願いしつつ作戦を実行出来るよう準備を進めてもらうことにした。
次だ。兵器担当のリリから報告があった……というか彼女は自室からとあるものを持ってきた。
これは剣だ。鞘もついてあり刀身は反りが入っている。
日本刀そっくりだな。
「えへへ、実は武器はもうかなり余裕があってね。時間が余ったから作ってみたの。それってライトの世界の剣なんでしょ? イメージだけで作ったんだけど間違ってないかな?」
「あ、あぁ。これをもらってもいいのか?」
「もちろんだよ! 素材はダマスカス鋼じゃなくてオリハルコンなの! もー、溶かすのに苦労したよ……」
オリハルコンは現在のラベレ村の壁と同じ素材だ。
しかし硬すぎてそう簡単には加工出来ないようで槍や矢じりなんかはダマスカス鋼を使っている。
なのでこの刀は試作品として俺に使ってもらいたいそうだ。
――スラッ
少しだけ刀を鞘から抜いてみる。
その刀身は金色に輝いており、刃はまるでカミソリのようだ。
「すごいな……。リリ、ありがとな。で、でもさ、俺達って基本的に壁の内側から戦うだろ? なら槍の方が良かったんじゃないか?」
「もう、ロマンが無いんだから。男ならやっぱり剣を持たなくちゃ!」
ロマンの問題だったんかい。
まぁ愛しの妻が俺のために作ってくれたんだ。
ありがたく頂戴しよう。
でも刀を使うのって基本的に近接戦闘の時だしなぁ。
なるべくなら離れて戦いたい。だって怪我とかしたくないし。
他にもカタパルト砲の生産も順調であり、今では1000台を超える数が配備されていると。
もう鉄壁の要塞だな。いやオリハルコンの要塞か。
槍も矢じりも潤沢にストックがあるようだし兵器については……。
いやもう一つ聞くことがあったな。
「マナブレイカー。準備は出来てるんだよな?」
「うん。もちろんだよ。これがあれば……」
「マナブレイカーだと!? 完成したのか!?」
「フニャー!?」
セタが叫んだことでミライがビックリしたみたいだ。
彼女は困ったようにミライをあやし始める。
「よーし、よしよし。ミライ、すまんな。大声を出してしまった」
「フニャー」
「ふふ、セタ様、ミライを貸して下さい。私が抱っこしてますから」
ミライをリディアに渡してからセタはリリと向かい合う。
そういえばもともと彼女がリリにマナブレイカーの制作を依頼したんだっけか。
「完成したのか?」
「はい。後は巣を見つけて起爆するだけです。起爆すれば理論上は大気中のマナは1000年は消えるはずです。そうすれば異形は死滅……するかはまだ推測の段階ですが、数を減らすことが出来るのは間違いありません」
異形とはセタが作り出した化物らしい。人に対する恐怖、恨み、嫌悪をもとに産まれた闇の存在だ。
つまり人間がこの世界にいる限りはまた異形は産まれてくる可能性がある。
しかしその数を減らせるだけでも次の一手を考えることが出来るからな。
「すまん、私のせいで苦労をかける……」
「そんなことはないさ。確かに南の大陸は異形のせいで滅んだかもしれない。だがそのおかげで北の大陸からの侵攻を防げたのも事実だ。だから悪いことばかりじゃないさ」
そう、俺達の敵は異形だけではないのだ。
北の大陸にはかつてセタの仲間であり俺と同じ転移者であるヨーゼフなる男がいるという。
そしてヨーゼフは虎視眈々と南の大陸の支配を狙っていたそうだ。
もし異形を倒す……とまではいかないが、動きを止めたとする。
セタが言うには絶対に北の大陸にある人間の国、アーネン……。なんだっけ?
「アーネンエルベだ」
「そうそう、そのアーネン何とかは絶対に攻めてくるだろ?」
異形を倒してもまだ戦いは続くということだ。
「くそ、ヨーゼフめ。一体何を考えているのだ……」
とセタは苦虫を噛み潰したような顔をする。
かつて共に世界を救った仲間だったんだ。
きっと複雑な気持ちなんだろう。
だがもしヨーゼフとやらがラベレ村……いや南の大陸を狙うのなら容赦をするつもりはない。
「セタさん……。聞くまでもないだろうが、覚悟は出来てるんだよな?」
「あぁ。もちろんだ。だが異形がいる限りは奴も南には手出しが出来ないはず。それにアーネンエルベからここまでかなりの距離があるからな。異形を退治してもすぐにここにやってくることはないさ」
だな。しかし警戒はしておかなくちゃな。
ここで小腹が空いたので昼休憩とする。
続きは午後に行うことになった……んだが、デュパとセタは動こうとしない。
「あ、あのさ、休憩なんだから食堂に食べに行ってもいいんだぞ」
「グルル。ここの飯が一番美味いからな」
「その通りだ。アーニャ、今日の昼ごはんはなんだ?」
最初から食べるつもりだったのかよ。
仕方ないのでみんなでごはんを食べることにした。
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