第129話 お出かけ 其の三☆

 俺はカマクラの中から氷上ワカサギ釣りをするリディア達を見つめている。

 まぁ釣れるのはワカサギかどうかは分からんがね。

 

 それにしてもカマクラの中は暖かいな。

 風除けも出来るし、焚き火も燃えている。

 意外と中の雪は溶けないもんなんだな。


「んん……。フニャー」

「あらら、起きたのか? ほら、ミライ。抱っこしてあげるからな」


 ミライが目を覚ましてしまった。

 ママ達がいないのが寂しいのかな。それともお腹が空いたのかもしれん。

 俺はミライを抱いてリディア達が釣りをしている氷上に向かう。


 さぁ、みんなの釣果はどんなもんかな。

 近づくにつれリディア達の楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「すごい! シャニ、それって何匹目!?」

「ちょうど百匹です」

「あはは、これでお昼のおかずには困らないね」


 百匹って……。予想以上に釣れてたみたいだな。

 氷の上には釣れたワカサギに良く似た小さな魚がピチピチと跳ねている。


「あれ? ライトさん、戻ったんですね」

「あぁ、ミライも起きちゃったからね。悪いけどおっぱいをお願い出来るかな?」


 リディアにミライを渡し、一度みんなでカマクラに向かうことにした。

 

「ほら、ミライ。ごはんにしましょうね」

「あぶー」


 リディアはミライとカマクラに入りおっぱいを飲ませ始める。

 それじゃ俺達も昼ごはんの準備をするかな。


 とはいっても魚を小麦粉に付けてから油で揚げるだけだからな。

 小魚なので頭を落とすこともハワラタを取り出す必要もない。

 とても簡単なのである。


 他にお茶を沸かし、朝作ってきたおにぎりを用意する。

 雪の中での野外料理だ。魚は次々に揚がっていく。

 俺は揚がったばかりの魚を皿に並べていった。


「うわぁ、美味しそう……」

「ははは、先に食べてていいぞ。どんどん揚がるからな」

「あーん、私の分もとっておいてくださーい」


 とリディアはカマクラの中からお願いしてくる。

 もちろんリディアの分もあるから安心していいぞ。


 先に食べていたリリがミライの面倒をみてくれるようだ。

 俺も魚を揚げ終ったのでようやく食べることが出来る。

 どれどれ? ちょっとお行儀が悪いが箸を使わずに魚を頭から一口。


 ――サクッ


 おぉ、いい歯触りだ。

 頭とワタを取っていないので少し苦いがそれがいい。

 大人の味だ。


「うふふ、美味しいですね」

「アーニャねえ、お茶はまだありますか?」

「今沸かすわね」


 妻達も獲れたばかりの魚のテンプラに満足しているようだ。

 こうして楽しい昼食を終える。

 

 午後はみんなで雪合戦をしたりミライをソリに乗せたりと楽しく過ごす。

 そしていつの間にか夕方になっていた。

 次の休みは一ヶ月後か。やっぱり早めに異形を何とかして村民達にはきちんと休日をとってもらいたい。

 それは俺達も一緒なんだけどね。


「よし、それじゃそろそろ帰ろうか」

「フニャー」

「ミライはまだ帰りたくないそうです。外が気に入ったのでしょう」


 でもこれ以上は駄目だって。少し暖かくはなったが、雪も残ってるし夜になれば気温も下がる。

 ぐずるミライを抱いて俺達はラベレ村に戻ることにした。

 でも疲れたんだろうな。ミライは自宅に到着する前に眠ってしまった。

 

 リディアはミライを寝かせてくると二階へと向かう。

 シャニとリリは早々にコタツに潜りこんでしまった。

 

「うー、結構冷えたね。足がジンジンするよ」

「私も尻尾の毛が凍ってしまいました」

「ははは、ならコタツよりも風呂に入ろうか。みんなで入るか?」

「私は夜ご飯の準備をしてますね。ライト様は二人と一緒に入ってきて下さい」


 さすがに人数も増えたので全員で風呂に入るのは困難となった。

 なので時間が合う者同士で風呂に入ることが多くなったな。

 リディアはミライを産んでから、アーニャは俺と結婚してから俺に甘えてくる時間が減った。

 その代わり妻達の中で妹分であるシャニ、リリとの時間は増えたかな?


 風呂は毎朝沸かしてあるのですぐに入れる状態にしてある。

 貯水槽にある水をオリハルコン同士を擦り合わせる熱を利用して湯にしてあるのだ。

 しかもオリハルコンは保温性が高いようでほとんど熱が冷めることがない。

 

 しっかりと体を洗ってから三人で風呂に入る。

 すると二人は俺の膝に乗って正面から抱きついてきた。

 二人は代わる代わる俺とキスを交わす。

 そしてまずはリリが俺に背を向ける。

 風呂の縁に手をついて切なげな顔で振り向いた。


「ねぇ、ライト……。すぐにじゃなくてもいいの。でもやっぱり私もライトとの赤ちゃんが欲しいの……」

「リリ……。もちろん俺も同じ気持ちさ」


 後ろからリリを抱きしめつつ愛を交わす。

 シャニはその様子を黙って見つめていた。


 果てを迎えたリリは顔を縁で支えるようにして肩で息をしている。

 今度はシャニの番だ。


「ライト殿、私を母にして下さい」

「ああ、少し時間がかかるかもしれないが、約束する。シャニ、おいで」


 シャニとは正面からお互いを抱きしめつつ愛し合う。

 風呂から上がるとすでに夕食は準備されていた。

 シャニとリリもアーニャに礼を言い、夕食の時間となる。


「ごめんなさい、私も疲れてたので少し手を抜いてしまいました」

「これで? いつも通り豪華じゃないの」


 食卓にはごはんに味噌汁、野菜サラダにレバニラ炒め。他にさっき食べきれなかった魚のテンプラが乗っている。

 アーニャが言うには家を出る前に下ごしらえだけは済ませておいたそうだ。

 ちなみにレバニラ炒めは俺が作り方を教えた。

 うん、レバーはきちんと牛乳で洗っているようだ。

 全く臭みがない。これはごはんが進むなぁ。


『がははは! 異形め、いつでもかかってこい!』

『おうよ! こっちには村長とセタ様がいるんだ! もう負ける気がしねえ!』

『ねえあんたー。私達も子供を作ろうよー』


 酒が入ってるんだろうな。外からは楽しそうに話す村民の声が聞こえてきた。


 大丈夫だ。俺達はきっと勝てる。

 異形のいない世界をこの手に取り戻すんだ。


 でも一つ気になったことがある。 

 もし本当に異形がいない世界になったとする。

 その時はセタに全ての権利を渡して村長を辞めるつもりだ。

 問題はその後だ。その後は何をして生きていこうか。


「異形を倒した後ですか? ふふ、ライト様となら何をしてもいいですよ。土地を買って農業でもしますか?」

「でもたまには町に遊びに行きたーい」

「私は皆と静かに暮らせれば何でもいいです」


 ははは、みんなも特に考えてなかったか。

 まぁ、それは全てを終わらせてからゆっくり考えればいいさ。


 こうして貴重な安息日は終わりを告げる。

 そしてまた明日からいつもの戦いの日々が始まるのだ。

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