第112話 冬の農業☆
静か過ぎる。音が無いことが気になって目が覚めることもあるんだな。
隣で眠るアーニャを起こさぬようにベッドを出て窓の外を見つめる。
雪が降っている。雪は音を吸収すると言うがその通りなのだろう。不気味な程静かだ。
もう膝下まで雪は降り積もり、村民はまともに仕事が出来ない状況となった。
なので今日は緊急的に村民達に夜までは休むように伝えてある。
夜にはどうせ異形の襲撃があるからな。
それまではゆっくりしていてもらおう。
ベッドに戻るとアーニャが目を覚ましてしまった。
いつものように優しく髪を撫でた後に軽くキスをする。
「んふふ、おはようございます」
「おはよアーニャ。そろそろ起きようか。村民は休みでも俺達は会議をしなくちゃいけないしな」
「はい。でも会議はお昼からですよね? ならもう少し甘えさせて下さい……」
アーニャは俺の胸に体を預けてくる。
だな、村民代表としてデュパ達がやってくるのは昼頃のはずだ。
それまでは少しくらいなら楽しんでもいいだろう。
「そ、そんなところ噛んじゃ……駄目です……」
どこを噛んだのかは想像して頂きたい。
アーニャはラミア特有の体をしているので後ろからでしか合体出来ない。
そのうち彼女とも顔を合わせながら愛し合えればどんなに素晴らしいことか。
まぁ無い物ねだりしても駄目だよな。
それにアーニャは今のままでも充分に魅力的なんだから。
「うふふ、ありがとうございます。朝から楽しんじゃいましたね。早く私もライト様との赤ちゃんが欲しいです」
「大丈夫だよ。そのうち出来るからさ。焦らず待とう」
まぁ感度調整・改を発動すればすぐに妊娠しちゃうみたいだけどさ。
もしアーニャが出来にくい体質で異形を退治したら発動してもいいのかもな。
ようやくベッドを出てリディア達と会議の準備に取りかかる。
今日はデュパだけではなく各仕事の責任者も来る予定なのだ。
そして昼が来て我が家にはぞろぞろと村民達がやってきた。
集まったのは農業、狩猟、調理、服飾生産、武器製造、探索、牧畜、研究、養殖、村の整備、伐採の各代表者。
こうして見るとラベレ村の仕事ってこんなに多かったんだな。
ちなみに服飾生産はアーニャが担当しており武器製造はリリ、そして探索はシャニが担当している。
デュパは養殖を。俺は村の整備と伐採担当だ。
この中で村民が代表を勤めるのは農業、狩猟、調理、牧畜、研究の五つだな。
各担当が席についたところで会議の開催となる。
「えー、これより会議を始める。分かっているとは思うがとうとう冬が来てしまった。この中で仕事に支障をきたしてしまった者は報告を頼む」
――バッ
村民達の多くが手を上げた。
農業、狩猟、そして探索か。
まずは探索担当のシャニが口を開く。
「雪が邪魔をして思うように森を進めません。効率は半分程に落ちています」
「それは仕方ないさ。探索範囲を小さくしても構わない。村を移動させれば探せる場所はまだ増やせるからな」
探索は重要な仕事だ。
村にとって有効な植物の発見や遭難者の保護、そして一番重要なのは異形の巣を見つけることだ。
危険が及ばない程度で構わないので冬の間も続けてもらうことに決定した。
「ごめんなさいシャニ。私が動けないから苦労させてるわね」
「リディア
本来なら探索はリディアの仕事だったからな。
妊娠してからシャニと交代したのだ。
でもこれは仕方ないことだ。妊婦さんに森歩きはさせられないしな。
次は狩猟担当から話があったが、やはり雪のせいで獲物が減っていると。
それなりに干し肉のストックはあるし、猪だって牧場で数を増やしている。
すぐにタンパク源が枯渇するわけではない。
春が来るまで我慢だな。
それに冬でも獲物が全く獲れなくなるわけではない。
探索と同様に継続してもらうことにした。
次に農業担当から話があった。ちなみに農業担当はいつものラミアのおばちゃんであった。
今さらだが、言葉が通じるようになってから彼女の本名が分かった。ディースというらしい。
「村長の家に来るのは初めてだね。あそこがあんたの寝室かい? どれ、ちょっと見せてごらん」
「こら、今日は会議なんだからさ。先に報告してくれよ」
おばちゃんはガハガハ笑った後に真剣な顔になる。
「まずいね。雪が想像以上に早く降ったから畑は機能しなくなっちまった」
「だよなぁ。備蓄だけで春まで持ちそうか?」
ディースは顔を横に振る。
「駄目だね。人が増えすぎたんだ。このままだと三ヶ月後には全部無くなっちまうよ」
「グルル、魚ならまだまだ余裕はあるぞ」
とデュパはフォローしてくれるが冬の途中で魚と肉だけの食生活になるのはなぁ。
ビタミン不足になりそうだ。脚気になっちゃうよ。
それに米やパンなどの主食が無くなるのは避けたい。
「そうか、なら冬でも農業が出来れば問題ないんだよな」
「そんなことが出来るのかい? さすがは村長だ。やっぱり旦那と別れてあんたも一緒になろうかねぇ」
いやいや、もう嫁は充分間に合ってますから。
丁寧にお断りしておいた。
牧畜や養殖も多少は効率は落ちているようだが緊急というわけではないらしい。
無理をしない程度に仕事を続けてもらうことにした。
「それじゃ今日はここまでにしようか。おばちゃん、明日は俺達も畑に行くよ。冬でも作物を育てられるようにしなくちゃいけないからな」
「はいよ。なら綺麗な下着を着て待ってるかね」
何もせんて。
最後の下ネタを聞いて参加者は大笑いしていた。
村民が帰った後、リディア達が心配そうにしている。
まずはリリから質問があった。
「ね、ねぇライト。冬でも農業なんて出来るの?」
「うーん、多分。一応考えはあるんだ。みんな悪いけど明日は俺に付き合ってくれないか? 人手がいるんでな。それとリリの技術が必要なんだ。作ってもらいたいものがあってね」
俺の考えを話すとリリは笑顔で応えてくれた。
「すごい! それなら上手くいきそうだね!」
「だろ? やってみる価値はあるよな!」
明日は全員で農地に向かうことになった。
俺の考え通りならばきっと上手くいくはずさ。
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