第111話 冬に向けて 其の四

 ――シンシンッ


 なんて音が聞こえてきそうだ。

 先日とうとう雪が降り始め、今ではラベレ村は真っ白に染まっている。

 これは積もるだろうなぁ。畑の作物も収穫を急がないと駄目になってしまうかもしれん。

 まぁ俺の嫁達はすでにコタツの中で駄目になっているのだが。


「ふぅ、やっぱり冬はコタツよね」


 なんて言いつつリディアはミカンのような果物を剥いて食べている。


「もうテーブルはしまってしまいますか。今夜はここでごはんにしましょう」


 アーニャはうつ伏せになりつつココアを飲んでいるし。


「リリ、そんなに足を伸ばしてはいけません」

「シャニねえだってもっと向こうに行ってよー。横になれないじゃーん」


 シャニとリリは対面に座り自分の快適な場所を探りあっていた。

 うーん、和み過ぎてる。

 とても平和な光景なのだが、これでも毎晩異形と命をかけての死闘を繰り広げてるんだけどなぁ。


 いかんな、これでは彼女達だけではなくラベレ村の村民全てが駄目になってしまうかも。

 コタツのせいで労働生産性を下げるわけにはいかん!


「ねぇみんな。そろそろ外に出て仕事しよっか?」

「「「「…………」」」」


 誰も答えないんだが。

 聞こえていないふりをしているのだろう。

 可愛い嫁達だがここは心を鬼にせねば!


 ――ガバッ! ヒョイッ


 コタツを持ち上げ寝室にしまう。


「あーん、コタツー!」

「ライト様の意地悪ー!」

「意地悪でもいいの。ほら、みんなやることがあるだろ?」


 妻達はしぶしぶと外着を着て仕事に向かっていった。

 なんだよ、まるで俺が苛めてるみたいじゃないか。


 家には俺とリディアが残された。

 リディアは妊娠してるからな。

 妊婦さんに森歩きはさせられん。

 それでも軽くでいいからで何かしら運動をした方がいいだろう。


「そ、そうですね。それじゃお掃除からしようかな」


 リディアはホウキを取り出し床を掃き始めた。

 そしてとあることに気付く。

 リビングの角に壺が置いてあるのだ。


「ねぇライトさん。そういえばあの壺って……」

「壺? あぁ、すっかり忘れてたよ。ちょっと試してみよう。リディアもキッチンに来てくれ」


 俺は壺を持ってリディアと一緒にキッチンに向かう。

 昨日食べてみようと思ってたのだが、コタツと温水暖房が成功したのでテンションが上がってしまいすっかり忘れていたよ。


「確か野菜とか唐辛子なんかを入れてましたね。食べ物ですよね?」

「あぁ。食べてみる? 上手く漬かってるといいんだけど」

 

 壺の蓋を開けると、中には真っ赤に染まった葉野菜が。

 匂いを嗅いでみたが、特に腐敗臭もしない。

 むしろいい匂いだ。


「うわぁ、真っ赤ですね。辛そう。これ、なんて食べ物ですか?」

「キムチだよ。俺の世界では寒い国で食べられてる漬物でね。食べると体が暖まるんだよ。保存も出来て美味しいしね」


 せっかくなのでちょっと食べてみることにした。

 リディアは妊婦さんなので刺激的な食べ物は避けた方がいいだろうから少しだけね。

 昨日の夜に炊いたごはんが少し残っていたので、お茶碗によそいキムチを添える。


 まずは俺から味見してみよう。

 もし酸っぱかったり、変な味がしたら困るしな。


 キムチと一緒にごはんを一口!

 ん? 思ったより辛くない。辛いことは辛いが、野菜、果物の甘味。そして牡蠣を入れたことで独特なコクを感じる。

 おぉ、今まで食べたどのキムチよりも美味しいぞ。


「ど、どうですか?」

「リディアも食べてごらん。きっと気に入るよ」


 彼女も勧められるままに一口食べてみた。

 最初は恐々も咀嚼していたが、一気に笑顔に変わる。


「美味しいです! 辛いだけじゃありません! これはごはんが進みますね!」

「ははは、そうだろ。農地では葉野菜も栽培してたはずだ。もうすぐ本格的に雪が降ってくる。そうなれば春が来るまで野菜は育てられないからな。今のうちに葉野菜はキムチにしておいてもらおうか」


 リディアと一緒に食堂に向かいキムチの作り方を村民達に伝える。

 他にもピクルスの作り方も教えておいた。


 そしてその夕方……。


「うぅー、寒かったですぅ……」

「ただいま戻りました」

「コ、コタツ……」


 三人が震えながら帰ってきた。

 雪はさらに積もり気温もドンドン下がっている。

 この寒い中頑張ったな。ご褒美としてコタツは出しておいた。

 三人は喜びながらコタツに潜りこむ。

 よほど気に入ったようだな。あまり駄目になる場合はしまうことも必要だが、しっかり暖を取るためだ。

 でもコタツで寝ちゃ駄目だぞ。


「分かってます。もうコタツをしまわれるのは辛いですから」

「程々に楽しむことにします」

「よし、約束だぞ。なら頑張ったご褒美に今夜はここでごはんを食べようか」


 少しするとリディアが夕食を運んできた。

 ホカホカのごはんと鍋だ。

 人数分の器を並べたところで蓋を取る!


 ――ホワッ グツグツ……


 立ち上る湯気、そして香る唐辛子の香り。

 具材は猪肉とたっぷりの野菜。汁は真っ赤だ。


「こ、これなんて料理?」

「キムチ鍋だよ。食べると暖まるぞ。さぁ食べようか」


 キムチ鍋を器によそい彼女達の前に置く。

 リディアはもう味は分かっているので抵抗は無いが、アーニャ達は恐る恐る食べ始めた。

 

「うわぁ、辛そう。スープが真っ赤ですね」

「でも美味しそうな香りです」

「い、いただきます……。ん? これ美味しいよ!」


 最初はリリが声をあげる。

 そしてアーニャ、シャニと続き、彼女達は黙々とキムチ鍋を食べ始めた。


「お、美味しいけど汗が出てきました」

「だろ? 食べると体が中から暖まるんだよ。寒い日にピッタリだろ」


 俺も含め汗だくになりつつキムチ鍋を食べる。

 みんな食欲に火がついたのかあっという間に無くなってしまった。

 あらら、すごい勢いだな。スープも無くなっちゃったよ。


「ふぅ。お腹いっぱいです。ライト様、キムチ鍋って本当に美味しいですね。尻尾の先まで暖まりました」

「ははは、それは良かった。また作ってあげるよ。でもスープまで無くなるとはなぁ。せっかくしめのラーメンを用意したんだが」

「ラーメン!? ねぇ食べようよ!」

「私はまだ入ります」

「私もです!」


 ん? しかしスープすらないのだぞ?

 しかし嫁達は期待の眼差しで俺を見つめている。

 ははは、分かったよ。

 俺は鍋を持って台所に向かう。

 余った野菜や肉を少しだけ鍋に入れてキムチスープを作った。

 その中にラーメンを入れて少し茹でれば完成だ。


「出来たぞ。キムチラーメンだ」

「いただきまーす!」

「リリ、一人占めは駄目です」


 リリとシャニはラーメンが好きだからなぁ。

 競うように器に盛り始めた。

 リディアとアーニャは満腹に近かったようだが、やはりラーメンは別腹なのだろう。

 丼いっぱい程度のキムチラーメンを平らげるのだった。


 こうしてラベレ村での冬対策は決まったな。

 温水暖房にコタツ、そしてキムチ。

 体を内と外から同時に暖めることで寒い冬を乗り切るのだ。



◇◆◇



☆次の大規模襲撃スタンピードまで残り87日。


☆総配偶者満足度:1,024,849/10,000,000


☆総村民満足:6,235,684/100,000,000

・総村民数:3,025人


☆現在のラベレ村

・各敷地はオリハルコンの壁で囲み、ポータルでの移動が可能となっている。

・居住区:500,000㎡

・農地:500,000㎡

・養殖場:500,000㎡

・牧草地:500,000㎡

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る