第110話 冬に向けて 其の三

 間も無く冬がやってくる。

 村民に快適に暮らしてもらうため、俺は各家庭にとある暖房器具を取り付けることを決めた。

 まずはコタツだ。用意するものは足の低いテーブルと毛布が一枚あればいい。

 問題はどうやってコタツの中を暖める熱源を確保するかだ。


 悩んだ俺はシャニと風呂に入っている時にあることを思い付いた。

 地球でもそれなりに有名な暖房器具だな。

 一応試作品としてまずは俺達の自宅にその暖房器具を設置することにした。


「ライトー。図面が出来たよ。必要な材料も書いておいたから」

「ありがとな。リリ」


 ふむふむ、まずは材料の用意からだな。

 この暖房器具は大量の竹が必要だ。

 しかも節を抜いておく必要がある。ちょっとめんどくさい。

 俺の壁には竹も含まれている。

 材料は出したい放題なのだ!

 

 自宅を出て地面に向けて発動する!


【壁っ!】


 ――ズシャッ!


 地面から竹壁が飛び出す!

 俺が出せる最大限の高さまで竹壁を伸ばした。

 5メートルってところかな。

 根元を消すと竹壁は支えを失いただの竹に変わる。


「ここで手分けしてかかろう。リディアとデュパは竹の節を抜いておいてくれ」

「はい! 任せて下さい!」

「グルル。ナチュラルに指示をするんじゃない。呼び出されたと思ったら勝手に仕事を押し付けよって」


 そう言いながらもデュパは作業に当たってくれた。

 まあいいじゃないの。成功したらデュパの家にもこれをつけてやるからさ。


「それじゃ次だな。少し力がいる作業だ。アーニャとシャニにお願いしたい。いいかな?」

「もちろんです!」


 自宅の裏に空きスペースがある。

 そこに一辺が3メートル程の凹型の壁を地面の中に建てる。

 しかし水路を作る時と同様に内部の土を除去するにはマンパワーで掘り出すしかない。

 

「ここを掘ればいいのですね?」

「すまん、俺はリリとここに水路を繋げてくるよ」


 シャニとアーニャはザクザクと土を掘り始めた。

 水路は地下に埋めてある。これも壁を利用したものだ。

 一応村長特典として個人的に水路を引かせてもらっている。

 そこからシャニ達が掘っている穴に水路を繋げるのだ。


 30分もすると水路は繋がる。

 アーニャ達も作業が終わったようで、地面には大きな穴が空いていた。

 彼女達に手を貸して穴から出してあげる。

 よし。少し泥は残ってはいるが早く実験したいしな。


 ――ザクッ! ドバーッ!


 鍬を一振りすると水は勢い良く穴に流れ込む。

 

「ふう、後はこの貯水槽に水が溜まるまで待つだけだな」

「なら休憩しようよー」

「駄目よ。リディアさん達を手伝いにいかなくちゃ」


 アーニャはリリを諫める。

 こっちの作業はとりあえず終了だ。

 リディア達のもとに向かうと、彼女達も全ての竹の節を抜き終わるところだった。


 こっちも順調そうだ。

 でもリディア達の作業はここからが大変なんだ。

 

「手伝うよ」

「グルル、当たり前だ」


 デュパの憎まれ口を聞きながら竹同士を繋いでいく。

 

「シャニねえ、それじゃ水が漏れちゃうよ」

「細かいことを言ってはいけません」

「ねぇアーニャ。これが終わったらお茶にしない?」

「ふふ、いいですね。ココアを淹れますね」


 なんてことを話しつつ作業を進める。

 これで竹を繋いだ長い筒の出来上がりだ。


 まずは竹の先端を先ほど作った貯水槽に差し込む。

 次は筒を床下全体に。

 そしてさらに壁伝いに家の中全体に通していく。

 最後にもう一つの先端をさらに貯水槽に入れて完成だ。


 試しに家の中にある竹を叩くと鈍い音が響く。

 竹の中に水が入っている証拠だ。

 うん、上手い具合に循環しているな。


「どう? 上手くいってる?」

「あぁ。もう完成したも同じだな。リリ達は家の中にいてくれ。俺は仕上げをしてくるよ」


 俺は一人貯水槽に戻る。

 そして貯水槽の前に手を伸ばして……。


【壁っ!】


 ――ズシャッ!


 貯水槽の中にオリハルコンの壁が現れる。

 そしてそのすぐ横に新たな壁を建設する。

 

【消えろ!】

【壁っ!】


 ――ジュォォッ ブクブクッ……


 水中で壁同士が擦れあう。

 摩擦熱で水をお湯に変えるのだ。

 しかもオリハルコンっていうのは鉄に比べて熱がすぐに冷めることがない。

 オリハルコンが水中にある限りは、朝沸かしたお湯が夜まで温度を保っている程だ。


 むふふ、これで大丈夫だろ。

 俺も効果を確かめるため家の中に戻るとリディア達がキャーキャー騒いでいた。


「何これ、すごーい!」

「足元が暖かいです!」

「それだけではありません。室内の温度も上がっています」

「すごい……。これが異邦人の知識なのね」

「ははは、暖かいだろ?」


 沸かしたお湯は竹の中を通り、床から壁を伝い家全体を暖めるのだ。

 地球でも寒い国では温水暖房を利用して暖を取っている。

 

 よし、せっかくだ。床が暖かいのであればコタツも機能しているだろう。

 リディア達は床に座る文化で育っていないので少し抵抗があるようだが。


 まぁカーペットも敷いてあるし、一度入ってしまえばコタツの魅力に屈することになるだろうさ。

 まずは俺からコタツに入る。

 

 おぉ……。足元から暖まるこの優しい熱……。

 なんだこの天国は? 入って一瞬で出たくなるコタツマジックに引き込まれてしまった。


「な、なんかすごく気持ち良さそうだね」

「私達も入ってみますか?」

「私はライトの膝に座るー」


 なんてことを言いつつ妻達もコタツに入ってくる。

 リディアは俺の横に座り、リリは膝の上だ。

 アーニャは対面に座ったと思ったらゴロンと横になってしまった。

 シャニはコタツの中で丸くなっている。


「気に入った?」

「最高です! もう出たくありません!」

「こんないいものが存在していたのですね……」

「家の中だってすごく暖かくなったよ!」

「ライト殿、今夜はコタツで寝ましょう」


 コタツで寝ると低温ヤケドになるぞ。

 よく母ちゃんに怒られてたんだ。


 さらにデュパもコタツに入り……。


「グルル。ライトよ、今夜は泊まっていってもいいか?」

「帰れ」


「グルル! 横暴だ! 我々はコタツを求めている! 全ての村民にコタツを!」

「分かった分かった。俺の家でシュプレヒコールをあげるんじゃないよ」


 デュパの家にもコタツと温水暖房システムを作る約束をすると、ようやく帰ってくれた。

 

 しかしデュパはコタツの噂を村民に流したようで俺は全ての仕事をキャンセルして村民のためにコタツを作るはめになった。


 そして一週間後、とうとう雪が降り出した。

 その光景を村民達はコタツに入りながら……。


「がはは。暖かいところで見る雪は綺麗なもんだな」

「だな! 雪見酒でもするか!」

「コタツさえあればもう冬は怖くないわ!」


 なんてお気楽なことを言っていた。



◇◆◇



☆次の大規模襲撃スタンピードまで残り88日。


☆総配偶者満足度:10148230/10000000


☆総村民満足:6035660/100000000

・総村民数:3011人


☆現在のラベレ村

・各敷地はオリハルコンの壁で囲み、ポータルでの移動が可能となっている。

・居住区:500,000㎡

・農地:500,000㎡

・養殖場:500,000㎡

・牧草地:500,000㎡

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