第108話 冬に向けて 其の一
――ビュオォォッ
うぅ、木枯らしが吹いてるじゃん。
寒いと思ったよ。
俺は今壁の修繕をやっている。
っていうかさすがに広くなりすぎたので村民に傷んでいる箇所を教えてもらい出向くわけだ。
でも一日に某ネズミの王国と同じ広さの土地を行ったり来たりするので動く距離はかなり長くなった。
「村長、ありがとさん。これでこの区画はもう大丈夫そうだね」
と髭の生えたドワーフが礼を言ってくれた。
この人、これでも女性なのである。
これがこの世界での一般的なドワーフの姿らしい。
リリとはずいぶん違うなぁ。
そんな彼女がこんなことを話してきた。
「うぅ、寒くなったねぇ。私は寒いのが苦手なんだ。毛布だけじゃ耐えられそうにないよ。服を着てエッチするのは好きじゃないんだ」
「それ聞いてないから。でもそうだなぁ。この世界の冬は日本よりずっと厳しそうだし」
多少下ネタを盛り込んでくるのは止めて頂きたい。
温度計はないのだが体感としてはもうすぐ氷点下になるのではないかという気温だ。
秋を通り越していきなり冬になりやがったな。
しかも彼女達が生きてきた時代より今の方がずっと寒いらしい。
異形に囚われている間に気候変動とかがあったのかもしれんな。
「よし、大切な村民のためだ。何とかしてみるよ」
「さすが村長! 頼りになるね! お礼は私の体でいいかい!?」
それは遠慮しておく。
彼女は大切な村民ではあるが髭のおばちゃんとベッドで仲良くなるつもりはないのだ!
っていうか、あんた旦那がいるんだろ?
軽く突っ込んだら彼女はガハガハ言いながら去っていった。
そして去り際にがっちりと俺のアソコを掴んでいったのだが。
なんかうちの村民は下ネタ大好きだな。
自宅に帰るとリディアだけではなくアーニャも戻っていた。
アーニャは椅子に座って毛布を膝……っていうか蛇の部分にかけている。
寒そうだなぁ。
「お帰り。早かったんだね」
「ラ、ライト様もお帰りなさいませ」
「お帰りなさい。冷えたでしょ。今お茶を用意しますね」
リディアはお茶を淹れるため台所に向かう。
その間寒そうなアーニャと話をすることに。
「やっぱり他の種族とは違って下半身に着られる服がありませんから。余計に寒く感じるんです」
ラミアだしねぇ。それは仕方ないよな。
蛇の部分は地肌な訳だし、寒さも余計に感じる。
いかん、このままではアーニャが冬眠してしまうかも。
「そういえばさ、みんな冬ってどうやって過ごしてたんだ?」
「そうですね。とりあえず暖炉に火を入れるのとなるべく厚着するだけでした」
それだけなの? 魔法がある世界なんだから魔道具の暖房器具とかありそうなんだけど。
しかしアーニャが言うには基本的には王都付近の気候はそこまで寒くならなかったらしい。
やっぱり自我を失っている間に気候変動が起きたのだろう。
近年の状況を知っているのは滝の洞窟で隠れ住んでいたデュパ達リザードマンだけのようだ。
なら来るべき冬に向けて色々と対策を練らねばなるまい!
体の外側と内側の両方から暖めるのだ!
「外側は分かるんですが内側って?」
とアーニャは聞いてくる。
寒い時には体を暖める食べ物が必要になってくる。
俺はお茶を用意してくれたリディアとアーニャに説明する。
まずはココアだ。日本でも寒い時に余計に美味しく感じられる代表的な飲み物だ。
先日探索班がカカオのような実を見つけてきたのだ。
今の畑は広大な敷地を持つ。以前は村にとって有効な作物のみを選別してきたが、土地が余っちゃってる今では気軽に何でも植えることが出来る。
しかも敷地内成長促進の効果もありすぐに収穫出来る仕様となっているのだ!
倉庫からカカオの粉を貰ってきてお湯で溶いてから楓のシロップで甘味をつける。
自分の分も含め三つのココアを用意してみた。
カップを手に取り匂いを嗅いでみる。
うん、ココアだね。地球で飲まれているものと寸分変わらぬ香りがした。
「うわぁ、いい香り……」
「飲んでみてもいいですか?」
「もちろん。熱いから気をつけてな」
三人でココアを頂くことに。
ほろ苦い味に香ばしい匂い。
シロップの甘味も加わり寒い日にはぴったりの飲み物となっていた。
俺としてはコーヒーの方が好みなんだけどね。
「美味しい! すごく美味しいです!」
「本当に美味しい……。こんな飲み物があったんですね。確かにライト様が言う通り体の中から暖かくなっていきます」
二人はココアの味が気に入ったようだ。
これは村民達にも広めてあげよう。
「リリとシャニが帰ってきたら作ってあげよう。お湯を沸かして溶かすだけだしな。簡単なもんだよ。よし、暖まったところで次だな」
リディア達を連れて再び倉庫に向かう。
倉庫番のコボルトが出迎えくれた。
「村長? また来たんですか?」
「あぁ、悪いけど唐辛子と葉野菜、ミンゴの実もだ。それと塩を少し分けてくれないか?」
「はい! 村長のご要望でしたら一番良いものを持ってきます!」
コボルトは種族の特性なのか目上に対しては敬語で話すことが多い。
シャニも未だに敬語だしな。
まぁそれはアーニャも同じなのだが。
「これで何を作るんですか?」
「まぁまぁ。それは明日のお楽しみということで」
ついでにポータルを通り魚の養殖場に向かう。
相変わらず便利だな。
養殖場があるのは50㎞先の湖の畔だ。
一瞬で到着するんだから、俺の力の中でも特別にチートと言わざるをえまい。
魚を干したりさばいたりする作業小屋に入るとデュパが出迎えてくれた。
「すまん、牡蠣を少し貰えないか?」
「グルル、あそこにある。好きなだけ持っていけ」
と素っ気なく指を指す。
「ありがとな。これが完成したらお裾分けするよ」
「これとは?」
むふふ、まだ秘密にしておこう。
ポータルを通り居住区に戻る。
自宅に着くと物置から壺を出して野菜や果物、牡蠣、調味料を入れておく。
敷地内成長促進・改は常に発動している。
明日には完成するだろう。
美味しく漬かってくれよ。
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