秋から冬の章
第106話 新しい季節
――コーン コーン ズバァッ
村民は斧を振るい、そして俺は手刀を大木に振り下ろす。
うーん、やっぱり腕力が化物じみてきたな。
俺の一撃を受けて大木はメキメキと地面に倒れていく。
残った切り株もめんどくさいのでそのまま引っこ抜いてしまった。
最近では手刀で木を斬り倒すことの出来る村民も増えてきたので伐採作業はかなり効率的に進んでいる。
村から南に向けて森を伐採し続け、ようやく50㎞ほど切り開いたことになる。
大分進んだなぁ。そりゃ一日に500mは伐採してるからな。
「村長ー。そろそろ定時ですぜ。もう少し続けますかい?」
と流暢な日本語……のように聞こえる異世界語でマッチョなエルフのおじさんが話しかけてきた。
彼は初期から伐採班で頑張ってくれている一人だ。
グレイだったかな。村を拠点と呼び竹壁で囲っていた頃のメンバーでもある。
「いや今日はおしまいにしよう。我がラベレ村は残業無しがモットーだからな!」
「ははは、いつも通りってことか。なら先に上がらせてもらうよ。おーい! お前ら飲みに行こうぜ!」
村民達はぞろぞろと村に戻っていった。
村はすぐ近くにある。伐採する度にXY軸移動を発動し村自体を動かしているのだ。
そろそろあの計画を実行に移してもいい頃だろうな。
俺も村の門をくぐるとデュパに出くわした。
「グルル、お前も終わったか」
「あぁ、デュパもお疲れ様。すまんが明日俺の家に集まってくれ。人も増えてきたし湖も遠くなったからな」
「つまり?」
「忘れたか? 村の拡張だよ。農業専用の村、漁業専用の村、牧畜専用の村を湖の側に作るんだ」
まぁ村って言っても働くだけで住む訳じゃないけどね。
「詳しくは明日話す。忘れずに来てくれよ!」
「グルル! 分かった!」
デュパは犬のように尻尾をバタバタさせている。
今のラベレ村は湖からかなり離れてしまったので養殖場を運営するデュパには苦労をかけてしまった。
村を移動させる度に水路を伸ばしたり、新しい魚を養殖したいと日が昇らぬうちに村を出たりと文句の一つも言わずに働いてくれていたからな。
彼の苦労に報いるためにもこの計画は完遂させてあげないと。
決意を胸に自宅に戻るとリディアが出迎えてくれた。
「あら、早かったんですね。お帰りなさい」
「ただいまリディア」
彼女を抱き寄せキスをすると少し大きくなったお腹が当たる。
リディアはそんなこと構わないとばかりに熱烈なキスをし続けているんだけど。
「ぷはっ。こら、赤ちゃんがビックリしちゃうだろ」
「ふふ、いいんです。きっとこの子も早くパパに会いたいはずですから」
と愛おしそうにお腹を撫でた。
ちなみにこの世界でも安定期という概念はあり、妊婦さんには無理をさせないようルールがある。
だからリディアとは最近ご無沙汰なのだ。
「あーぁ、久しぶりにリディアとしたいなぁ」
「うふふ、私もです。で、でももうすぐ安定期ですから……。その時は可愛がって下さいね。それに最近胸がはって痛いんです。ラ、ライトさんさえ良ければ……」
そう言ってリディアは片方だけ胸を……。
ん? その先端からは白い液体が滲み出ているぞ。
イチゴミルクだ! これは食べるしかないな!
「きゃんっ。そ、そんなに飲んじゃ赤ちゃんの分が無くなっちゃいます……」
うーん、甘い。コクがありますなぁ。
愛しの妻がイチゴミルクを差し出したのならそれを飲むのは夫の義務だ。
よし、これをラベレ村の法律の一つに加えよう。
なんて馬鹿なことを考えているとぞくぞくとみんなが帰ってきた。
「あー! ライトがエッチなことをしてる!」
「駄目ですよ。リディアさんに無理をさせては」
「リディア
と次々に胸を差し出してくる。
桃やメロンやプリンに囲まれた生活。うーん、この世界に転移してきてよかった。
◇◆◇
なんて馬鹿なことをした翌日、デュパが家にやってきた。
今日は大事な会議の日だからな。
というか各種族の代表が俺の嫁なんだけどね。
「よーし、それじゃ会議を始めようか。この三ヶ月俺達は森を切り開いてきた。目的はもう言う必要はないだろう。異形の巣を潰すためだ。シャニ、異形の巣の場所は分かったか?」
探索はリディアに代わり現在はシャニに担当してもらっている。
森歩きはエルフが得意とするところだが、さすがは元王都最強の暗殺者。
ジャングルのように密集する木々をものともせずに探索を続けてくれている。
だがそのシャニをもってしても巣の場所の特定には至っていないそうだ。
「申し訳ございません。この付近は洞窟が多く、魔素も濃いため思うように結果が出せません。しかし巣に近づいているのは間違いありません」
「分かった。引き続き巣の特定を頼む」
村を移動してきたのは異形を巣ごとぶっ潰すためだ。
リリは対異形用兵器、マナブレイカーを作り終えている。
後は異形の巣の中で起爆するだけだそうだ。
「でも油断しちゃ駄目だよ。爆発の威力はどの魔法よりも強力なの。山一つが塵に変わるくらいの爆発が起きるはずだよ」
「分かってる。そのための対策も用意してあるから安心してくれ。それじゃ探索は続けるとして次の話しに移る。村の拡張だ」
現在ラベレ村の村民は3000人近くいる。
一応ギリギリ毎日の食事に困ることはないが、これ以上増えると食糧生産が追い付かなくなる。
そこで農業、水産、牧畜の新たなる村を作るのだ。
「シャニ、異形ってのは人がいるところだけを襲うんだよな?」
「はい。それは間違いありません」
「グルル。ようやくポータルの出番が来たのだな」
デュパに言いたいことを先に言われてしまった。
彼の言う通り最新の派生効果であるポータル作成は拠点と拠点を繋ぐ門のような役割を果たす。
要は人が住まなければ問題無いということだ。
ポータルを通り毎日各村に出勤してもらえばいい。
「それでは明日からラベレ村は四つに分ける。村民が住むこの村、そして明日は農業、漁業、牧畜専用の村を作る。各担当に伝えておいてくれ! これから忙しくなるってな!」
「グルル! 任せろ! それにしても冬が始まる前に着手してくれて安心したぞ」
ん? 冬って?
「え? この世界にも冬ってあるの?」
「何を馬鹿なことを言っている。当たり前だろう。後三ヶ月もすれば雪が降って作物が採れなくなるぞ」
「そうです。うぅ、私寒いの苦手で。想像したら鳥肌が立っちゃいます」
とアーニャは震えていた。
あちゃー、それは考えてなかったな。
村を拡張するのも大切だが来る冬に向けて準備しておかなくちゃな。
◇◆◇
☆次の
☆総配偶者満足度:1007790/10000000
リディア:258024/10000000
アーニャ:241238/10000000
シャニ:266520/10000000
リリ:242008/10000000
☆総村民満足:5985245/100000000
・総村民数:2958人
☆現在のラベレ村
・オリハルコンの壁
・敷地面積:500000㎡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます