第105話 安息日に向けて リディア達の気持ち
――コーン コーン バキキッ
ラベレ村の村民の多くが森の木々を斬り倒していく。
その手にはリリが作ったダマスカス鋼の斧を持っている。
その切れ味は凄まじく、素人の彼らでも職人以上の早さで木を斬り倒すことが可能だ。
その横で村長の来人は手刀で大木を伐採している。
「うわー、村長って相変わらずすごいな」
「あぁ、バケモンだよな」
「見た目は普通の人族なのになぁ」
「カッコいいなぁ。私も嫁にもらってくれないかしら?」
その会話を聞き、アーニャは誇らしい気持ちになった。
(ふふ、みんなライト様を見て驚いてる。あの人が私の旦那様になってくれるなんて)
アーニャは惚気たい気持ちを抑えるのに必死だった。
彼女はラミアであり、他の種族より強い膂力を持っている。なので伐採など力仕事は進んで請け負っているのだ。
ラミアは女性でも男性ドワーフ並みの腕力がある。
見た目は細くても実は力持ちな種族なのだ。
休憩時間となりアーニャは来人と昼食を食べることにした。
今日のお弁当はおにぎりだった。
「あれ? まだ米は出回ってなかったじゃないの?」
「ふふ、種籾は充分に確保出来たみたいです。少し余裕が出来たので伐採班は特別にって用意してくれたんですよ」
二人は並んで座りおにぎりを頬張る。
その様子を見て村民達は祝福とやっかみの声をあげた。
「結婚かー。羨ましいな」
「そういえば明日は安息日だよな?」
「村長達の結婚式でしょ!? 絶対に行くよね!」
「くそー、やけ酒をかっくらってやるわ!」
なんてことを言う者もいるが、基本的に全員が祝福していた。
この時点で来人は村民達の言葉のほとんどを理解している。
その事実を村民達も知っても尚軽口が叩けるのは信頼の証ということだろう。
そんな村民達を見て来人は笑う。
「ははは、みんな楽しみにしてるみたいだな。そういえばドレスってどうなってるの?」
「うふふ、秘密です」
アーニャは秘密にはしているが、ドレスはほとんど出来上がっている。
今頃リディア達が仕上げをしている最中なのだ。
そのリディア達は自宅で自分達が着るドレスのチェックをしていた。
◇◆◇
――村長宅にて
「どう? きつくない?」
「はい。ちょうどいいです。リリはどうですか?」
「うぅ、胸がユルユルだよぅ……」
とリリは悲しそうに自身の胸に手を当てる。
彼女は
合法ロリなのである。
そんな彼女もやはり胸に対するコンプレックスはあるようで、ほとんど膨らんでいない胸を気にしているようだった。
しかし恋人である来人は全く気にしていないのだが。
「ふふ、大丈夫よ。少しコルセットをきつくするね」
「わわっ。ちょっと谷間が出来たかも」
リディアが腰ひもを締めるとちょうど良い具合にドレスが締まる。
そして短いリリの髪を結わえ、少し大人っぽい幼女が完成した。
「ほら鏡を見て。すごく綺麗だよ」
「うわぁ、自分じゃないみたい。リディア
リディアは緑色のドレス、シャニは黄色、リリはピンクのドレスを着ている。ここにいないアーニャは紫色のドレスだ。
それぞれ好きな色を選んだ。リディア達はお互いの姿を見てとうとうこの日が来たのだと実感するのだった。
「私が結婚など、想像すらしていませんでした」
「私も……。一生彼氏なんか出来ずに一人でおばちゃんになっていくって思ってたよ」
「ふふ、私だってそうだよ。でも人生って分からないものよね」
彼女達は同じ種族の中では醜女と呼ばれる容姿をしている。
しかし来人はそんなことは全く気にせず彼女達を愛していた。
リディアに至ってはそのお腹の中に新しい命を宿している。
「ふふ、もうすぐ会えるよね」
そう言ってまだ膨らんでもいない自分のお腹を撫でるリディア。
その姿を見てシャニ達も次は自分が母になるのだと思っている。
「いいなー。リディア姉は男と女、どっちが欲しいの?」
「名前は決まっているのですか?」
「ふふ、まだよ。ライトさんとゆっくり決めるわ」
一人の夫に四人の妻。現代では考えられない状況だが、ここは重婚が当たり前の世界だ。
彼女達は特に気にしてはいなかった。
いや、気にしていないどころか今では本当の姉妹以上に仲良くなっている。
来人だけではなくお互いに出会えたことを神に感謝するほどに仲良くなったのだ。
「明日が楽しみだね……」
「はい。ライト殿が私の旦那様になるのですね。これからなんとお呼びすれば良いのでしょうか?」
「いつも通りでいいんじゃない?」
とリリは言う。来人の性格を考えての答えだ。
聞けば来人は今まで結婚から逃げてきたという。
呼び名を変えるのは彼にとって負担になるだろうと考えた結果だ。
「なるほど、ならばしばらくはライト殿でよいでしょう」
「ふふ、シャニ姉らしいね」
「そうだね。それじゃみんなドレスを脱いで。明日の準備も始めなくちゃ」
リディア達は食堂に向かい、翌日振る舞われるご馳走作りの手伝いに向かった。
千人以上が参加する結婚式は祭りのようなものだ。
大量の食事と酒を用意しなければならない。
準備が終わる頃にはすっかり日が落ちていた。
「ふー、これで大丈夫そうだね」
「疲れました。そろそろライト殿が戻ってきます」
「もうここでごはん食べようよー」
夕食を作る気力も無いので食堂でごはんを食べることに。
来人達が戻ってきたところで各々好きなものを頼んだ。
ラーメンを啜りながら来人はこんなことを呟く。
「あー、独身最後の晩餐か……」
「あら? がっかりしてるんです?」
「あー、ライトさん、ひどーい」
「心外です」
とみんな本気にはせず来人をからかう。
「ははは、違うよ。リディア達と結婚出来るのは本当に幸せだと思う。でもさ、やっぱり結婚ってのは重みがあるよね。それでも俺は君達と一緒になりたい。一緒に幸せになりたいんだ」
その言葉を聞いてリディア達は涙がにじみ出てくるのを感じる。
夜が更けて、いつも通り異形を倒し寝る時間となる。
今夜は四人でベッドに入ることにした。
来人はそのまま寝るつもりだったが、彼女達は自然と寝間着を脱ぎ始める。
「するの? 明日早いと思うんだけど」
「今夜は多くは求めません……」
「一度だけ私達を愛して下さい……」
「ライト殿、愛しています」
「ずっと一緒にいようね……」
それぞれが自身の体を使って愛を表現する。
一人一人、一度だけ愛を確かめあった。
来人達は重なりあうように眠る。
そして安息日……。彼らが夫婦として結ばれる日がやってきた。
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