第104話 新たなる拡張計画 其の二

「第一回! ラベレ村の拡張計画会議を始めます!」

「わー」「すごーい」「早く始めましょう」「お茶が冷めちゃうよー」「グルル」


 なんか適当な感じでいつものメンバーが集まる。

 リディア達は種族の代表みたいなもんだ。

 村民達も種族特有の悩みや要望を彼女達に伝えてくるようになったからな。

 デュパはリザードマン代表として参加してもらっている。

 今日は最初に言った通り村の拡張についての話し合いだ。


「ごほん。では始めよう。オリハルコンの壁になってから防御力が格段に上がった。みんなも知っているだろうが大規模襲撃スタンピードに充分に耐えられる程にな。そこで久しぶりに村の拡張をしようと思う。シャニとリリ、二人に意見を聞きたい。オリハルコンの壁と今の装備、そして今後半年で村民は5000人まで増えると仮定する。それらを考慮してどれくらいの広さまで村を大きく出来る?」

「はーい、計算は得意だからね。ちょっと待っててねー」


 リリはカリカリと計算を始める。

 数字に強い理系女子がいるのは心強いなぁ。

 自分、文系でしたし。算数、数学は早々に諦めたタイプなのだ。


 少しするとリリは答えを出したようだ。

 シャニの意見も取り入れラベレ村の軍事力を考慮した結果……。


「50万㎡だね」

「広……。そこまで大きく出来るのか」


 50万㎡ってのは野球場10個分の広さであり、某ネズミの王国遊園地と同じくらいの広さだと聞いたことがある。

 ドーム10個分だとか何とかパンフレットに書いてあったような無かったような。


「しかしこれは一人辺りの生活空間を考慮した数字です。快適に暮らすのであれば何かを犠牲にしなければなりません」


 とシャニは言う。

 あくまで5000人まで村民が増えたとして彼らが快適に暮らすのであれば畑や牧場の面積を犠牲にしなければならない。

 その逆もまた然りだ。

 

 参ったな。しかし広くして多くの村民を受け入れるのであれば生きるのに一番必要な食を安定的に供給する必要がある。

 それにせっかく米を手に入れたが、今の案だと畑や田んぼに敷地は使えないということだ。


「なら村を分けるというのは?」

「ん? どういうこと?」


 今度はリディアが案を出してくれた。

 でも村を分けるって?


「あ、あの、王都でもやっていたことなんですが、人が住む街と作物を育てる場所を分けるんです」

「へぇ、でも異形対策とかはどうしてたの?」


「最初は護衛として兵を配備してたみたいですけど、やっぱり柵が破られて襲われる人が出てきたんです。それで思うように作物は採れなくなって王都は衰退していったって……」


 なるほどねぇ。でも考え方は間違いではないよな。

 人が住む場所と作物を育てる場所を別の敷地に用意するのだ。

 日本における都会と農村みたいな感じかな。

 問題は異形対策だろう。それならオリハルコンの壁があるし、防御なら王都より安心だろう。

 しかしあまり遠いところに第二のラベレ村を作ってしまえば万が一の時に備えられない。

 戦力を分散させるのも危険だ。


「しかし悪くない案だと思います。異形は人がいない場所を襲うことはありません。いっそ農業専用の土地に人は住まないようにすればいいのです」


 今度はシャニが発言した。異形は人が住まない土地を襲うことはない。

 つまり農地に毎日通う必要があるってことね。

 でもそれにも距離の問題が……。


 うーん、煮詰まってきたな。

 少し休憩しよう。


「三十分休憩だ。みんな疲れただろ」

「はい、お茶のお代わりを用意しておきますね」


 アーニャは台所に向かう。

 それぞれソファーに横になったりとリフレッシュすることにしたようだ。


 そんな中リディアがこんなことを言った。

 

「あーぁ、こんなことになるんだったら瞬間移動とかがあったらいいのに」


 ん? 瞬間移動だと?


「そんな魔法があるのか?」

「うふふ、実は本で読んだだけの知識なんです」


 リディアの話では異邦人……つまり転移者が主人公の小説で、とある登場人物が瞬間移動の魔法の使い手だったそうだ。


「リディアさん、私もその本持ってましたよ!」

「私もです」

「私もー! 空間の魔術師キース・ウインドウでしょ!? かっこよかったよねー!」


 なんだ、ラノベの話かよ。

 ちなみにその手の小説はこの世界では大人気だったらしい。

 シャニとリリもこっそりと買い集めていたそうな。


 しかし実際にはそのような魔法は存在しないと。

 だよな、そう上手い話は……?

 あれ? そういえば何か忘れているような。


 そうだ! 思い出した!

 先日アーニャの快気祝いで四人とベッドでプロレスした。

 その時にちょうど配偶者満足度が上がり新しい派生効果をゲットしたんだった。

 たしかポータル何とかって言ってたよな。


「あ、あのさ、もしかしたらなんだが、瞬間移動に近いことなら出来るかもしれないんだ」

「ほ、本当ですか!?」

「さすがライト様! 小説の主人公よりすごいです!」


 ま、まぁまだ試したこともないんだけどね。

 そこまで期待しないで欲しい。

 だがポータルっていうぐらいだから想像した能力に近い力だと思う。


「少し試してみようか。みんな外に出てくれ」

「はーい!」「グルル。なんでも有りになってきたな」


 ははは、俺もそう思うよ。

 リディア達を連れて外に出る。

 広場に向かいとある一角で念じ始める。


(ポータル作成発動)

【ネガティブ。ポータルを作るには拠点が最低二つ必要になります】


 あちゃー、そういうことか。

 でも使い方が分かったぞ。

 

「ごめん、ちょっと待っててくれ」


 俺は皆を残し一人で村の外に向かう。

 村から100mくらい離れた場所だ。

 ここならいいかな。

 

「壁っ! 壁っ! 壁っ! 壁っ!」


 ――ズゴゴゴッ


 四方に壁を建て村と同じように敷地を囲う。

 これで一応だが拠点が二つ出来たことになる。

 これならどうだ?


(ポータル作成)

【受付完了。第一拠点に転送します】


 ――ブゥンッ


 おぉ、敷地の中に渦のようなものが現れる。

 天の声の言葉の通りなら渦はラベレ村に通じているはずだ。

 ちょっと怖いが渦に向けて飛び込む!


 ――ブゥンッ


「あ、あれ? ライトさん、いつの間に……」


 渦から出て目を開けると、俺はラベレ村に戻っていた。

 やっぱりね。ポータル作成ってのは拠点同士を繋ぐ門の役目があるってことだ。

 

「みんなも試してみてくれ!」

「え? もしかしてこの渦に入れば……」

「は、入ってみましょう!」


 リディアとアーニャがポータルに入る。すると一瞬で二人の姿が消えた。

 おぉ、外から見るとこんな風に見えるんだな。


 リディア達は帰りはポータルを使わず外から歩いて戻ってきた。

 

「すごいです! これなら新しい村を作ってもすぐに戻ってこられますね!」

「あぁ! 土地の問題も解決しそうだな!」

「なら農地はどこにしますか?」


 それなら目星はついている。

 

「ここだ。ラベレ村を農地専用の村にする」

「えー? ここから引っ越さなくちゃいけないの?」


 とリリは少しがっかりした顔をする。

 確かにここは水も豊富だし環境も良い。

 だが恐らく異形の巣はさらに森の奥深くだ。


「異形を倒すにはもっと奥に行かなくちゃだろ? それに農業には豊富な水が必要だ、だから新しく村を作る必要があるんだよ」

「なるほど、確かにその通りです」

「グルル、ならば仕方ないな。新しい村はいつ作るのだ?」


 そりゃもう今日からだって始めたいさ。

 だがその前に森を切り開いて平坦な土地を用意しなくちゃ。


「しばらくは無理だな。まずは森を切り開く。村民に伝えてくれ! 明日からもっと忙しくなるぞ!」

「はい!」

「かしこまりました!」

「グルルッ!」


 これで次の方針が決まったな。

 今は次の村を作るために森を切り開くぞ!



◇◆◇



☆次の大規模襲撃スタンピードまで残り180日。


☆総配偶者満足度:52110/10000000

リディア:13580/10000000

アーニャ:13857/10000000

シャニ:12691/10000000

リリ:11982/10000000


☆総村民満足:795260/10000000

・総村民数:1105人


☆現在のラベレ村

・オリハルコンの壁

・敷地面積:60000㎡

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