第101話 おでん
異形の襲撃によりアーニャを含めた10人の村民が毒に侵されてしまった。
しかも感染性の毒らしく、アーニャ達は青く染まった咳をしている。
幸いリディア達には感染していないようだが……。
「リディアは無事だ。でも今は何ともないだけだ。感染しないとは限らない。すまないが看護は外れてくれ」
「そんな……。なら誰が怪我人達を看るんですか?」
「俺だ。実はな、どうやら俺も感染しているみたいなんだ」
「え……?」
今のところ俺は異変を感じない。
だが自分のステータスにはこう書かれてあった。
名前:前川 来人
年齢:40
種族:ヒューマン
力:300(+100) 魔力:0
能力:壁レベル6(オリハルコン)
派生効果①:敷地成長促進・改
派生効果②:遭難者誘導・改
派生効果③:感度調整・改
派生効果④:A/P切り替え
派生効果⑤:モース硬度選択
派生効果⑥:XY軸移動
配偶者:リディア、アーニャ、シャニ、リリ
状態:感染性疾患 猛毒
アーニャ達と同じ状態ってことだ。
このままリディアのそばにいれば俺自身が感染源になってしまうだろう。
「すまないがしばらく離れて暮らすしかない。リディアは家に戻ってシャニ達に知らせてくれ。なるべくアーニャ達は俺一人で看護するが、サポートは必要だ。感染しない距離からアドバイスとか頼むよ」
「嫌です! ライトさんと離れることなんか……!」
リディアは構うことなく近づこうとする。
「来るな! もう一人の体じゃないんだぞ!」
「…………!?」
リディアにこんな乱暴な言葉をかけるのは初めてだ。
ショックだったんだろうな。
その緑色の瞳からは涙が零れ落ちた。
「大声を出してすまん。でも必要なことなんだ。しばらくは俺はここから出られないかもしれない。リディア達が村民を導いてあげてくれ」
「ぐすん……。分かりました。わがままを言ってごめんなさい。でも私達にそんなこと出来るでしょうか?」
自信無さそうだな。
でも村民達はリディア達をリーダーの一人だって思ってるはずだ。
言葉は分からないが村民の顔を見れば分かるさ。
「大丈夫だよ。リディアは立派なリーダーだ。みんなリディア達を信頼してるはずだよ」
「はい……。そうですよね。やってみます! でもライトさんもすぐに良くなって下さい! 全力でサポートしますから!」
リディアは涙を拭いて笑顔になる。
そうそう、君には笑顔が似合ってるよ。
「それじゃ俺は看護に向かう。すまんが薬を大量に用意しておいてくれ。アーニャ程じゃないが、茶葉を煎じれば作れるはずだからな」
「はい! みんな、戻りましょう!」
リディアは村民を連れて自宅に戻っていった。
頑張れよ。彼女の背中を見送り、俺は保護施設に戻る。
「ゴホッ……」
「うぅ……。苦しnnenp……」
ベッドに横になる村民達は呻き声をあげている。
すまん、絶対に治してやるからな。
少しだけ耐えててくれ。
「ラ、ライト様……。私はどうなるのでしょうか……?」
アーニャは弱々しく手を伸ばす。
正直に言うしかないだろうな。
彼女の手を取って、いつものように髪を撫でる。
「大丈夫だよ。すぐに良くなる。今アーニャ達は毒に侵されている。しかも感染するみたいなんだ」
「感染……。ライト様、すぐにここから離れて下さい……。近づいてはいけません……」
その必要は無い。俺はすでに感染してるみたいだからな。
「もう遅いんだ。俺も毒に侵されている。まだ症状は出ていないみたいだが、遅かれ早かれ症状が出て悪化していくかもしれない。その間だけでもアーニャ達を看られるのは俺だけなんだ」
「ライト様……」
アーニャはシクシクと泣き始めた。
こら、気持ちで負けてちゃ良くならないぞ。
「アーニャ、こういう時は元気になった後に何をするか考えようよ。半月後には安息日になるだろ? 俺達の結婚式をしなくちゃ。他にしたいことはあるか?」
「うふふ……。ならライト様との赤ちゃんが欲しいです……」
そう言ってアーニャは眠ってしまった。
彼女の額の汗を拭い、他の村民の看護に向かう。
その後薬が届いたので、起きている村民に飲ませることにした。
◇◆◇
そして俺が保護施設に籠って三日が経つ。
幸いなことに俺には未だに症状が現れない。
今日も元気に村民達の看護にあたる。
「大丈夫か? 何か欲しいものがあったら言ってくれ」
「ありがЛscga……。喉が渇εμaicra……」
とエルフの男性は言った。
彼らも何となく俺の言葉が分かるようになってきたみたいだな。
絶対に『ありがとうございます。喉が渇きました』っていう感じのことを言っているはずだ。
しかし何故今になって言葉が分かりつつあるのか。
謎は深まるばかりだ。
いかん、今やることは病で苦しむ村民達を助けること。
それ以外は考える必要はない。
『ライトさーん、食事と薬を持ってきましたー』
とリディアの声が外から聞こえる。
保護施設から出るとリディア、シャニ、リリが差し入れを持って立っていた。
うん、偉いぞ。しっかりと距離を取っている。
「うぅー、ライトー。さみしいよー。そっちに行きたいよー」
「私ももう限界です」
「ライトさんはまだ元気そうですね。もう治ったんですか?」
とリリとシャニはわがままを言ってくる。
俺だって同じ気持ちだっての。
「悪い! まだ駄目だ! 症状は出ていないが、ステータスでは感染したままなんだ! そっちの様子はどうだ? 報告を頼む!」
「では私が」
シャニの報告では異形の数はいつも通り減ってきたようだ。
襲ってくる異形は人型のものばかりで毒を放つ厄介な異形は現れなかったと。
しかもオリハルコンの壁は今までの壁より頑丈で、特に修繕の必要は無いと。
雨が降らなければしばらくは建て直さなくても大丈夫だな。
少なくとも次の
それまでにアーニャ達が治ればいいのだが。
「アーニャの様子はどうですか?」
「…………」
答えられなかった。日に日に悪化しているなんて言えるわけないよな。
リディア達は友人という枠を超え、姉妹のように仲がいい。
もし本当のことを言ったら感染の危険を承知でも保護施設に入ってきてしまうかもしれん。
「少しだけ元気になったかな。ここは俺に任せてくれ。何かあったらいつでも報告を頼むよ」
「はい!」
リディア達が戻り、近くに人がいないことを確認。
差し入れを持って保護施設に戻る。
さてと、今度はアーニャ達に食事を食べさせなくちゃ。
この世界でも病人食はあるようで、柔らかく炊いたお粥のようなごはんがあった。
まずはアーニャからだ。
彼女の口にお粥を運ぶ。
「食べられるか?」
「はい……」
アーニャはゆっくりとお粥を食べ始める。
「あんまり美味しくありません……」
「こら、病人なんだからわがまま言わないの」
「ふふ……。ごめんなさい……。でも昨日みんなと話したんです。何か美味しいものが食べたいねって……」
アーニャが言うには深夜に目が覚めた時に村民達とそんな話をしたそうだ。
ここに来てから病人食と薬だけの生活だからなぁ。
このままでは気が滅入ってしまうだろう。
「へぇ? 良かったら作ってあげるよ」
「ならおでんを食べたいです……」
おでんですか? あれって消化が良かったっけ?
でも少量なら食べても問題ないだろ。
ちなみに食堂では気軽におでんが食べられるようになっている。
デュパの養殖場が成功したので、ちくわなどの練り物とさらに俺の壁から作ったコンニャクを使ってある。
ラーメンに続き人気トップ3の商品となっている。
「よし、アーニャは何が食べたい?」
「大根……。がんも……。コンニャクをお願いします」
よし、かわいいアーニャと村民のためだ。
美味しいおでんを作ってあげるとしよう。
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