第100話 毒

 ――カランッ


「グルルルッ! ライト、大丈夫か!?」


 デュパだ。リザードマンのデュパが俺を抱き起こそうとしている。

 視界は砂嵐のように霞みまともに見えない。耳鳴りもする。

 な、何が起こった? 霞む視界の中で目に入ったものがある。

 大穴だ。村の敷地の中にまるで抉られたような大きな穴が空いている。

 その周りには村民達が倒れて呻き声をあげていた。


「な、何が起こったんだ……?」

「覚えていないのか? 異形だ。倒したはずの異形の体が爆発してな。多くの者が巻き込まれたのだ」


 デュパの話を聞いて段々と記憶が戻ってきた。

 そうだ、四足獣のような異形が壁を飛び越えて村の中に侵入してきた。

 どうせ一匹だと思い囲んでから槍で串刺しにしてやった。

 異形はあっさりと息絶えたと思ったのだが……。


 そこで異変を感じた。何か体からガスのようなものが噴き出したと思った次の瞬間、大爆発を起こす。 

 幸い俺は距離を取ったせいか軽傷で済んだ。


 だが爆発に巻き込まれた村民はかなり多い。

 しかもその中に……。

 アーニャがいる!?

 

「アーニャ! しっかりしろ! アーニャ!」

「う、うぅ……。ライト……様……?」


 彼女を抱き起こすと意識を取り戻す。

 全身傷だらけだが命に別状は無いようだ。

 このまま怪我をしたアーニャ達を自宅に連れていくことは出来ない。

 まともに看護出来ないだろうから。


「すまん! 手が空いている者は手伝ってくれ! 一旦怪我人を保護施設に移す!」


 ラベレ村では定期的に遭難者が訪れるようになった。

 最大で30名が寝られる一番大きな施設でもある。

 かつて王都で医療の仕事をしていたものや魔法が使える者に運営をお願いしているのだ。


「アーニャ姉、大丈夫ですか? ライト殿、手伝います」

「シャニ? 異形はどうなった?」


 気がつくとシャニが横に立っていた。

 

「終わりました。多少の被害は出ましたが私が知る限り死者は出ていません」

「そうか……。ご苦労様」


 半年に一回の大規模襲撃スタンピードは終わったか。

 死者が出なかったのは幸いだが、被害は出た。

 多くの怪我人がいるのかもしれない。

 

 リディアとリリも合流してくれが、アーニャの様子を見て絶句していた。

 

「アーニャ!」「アーニャねえ!」

「大丈夫だ。意識はある。今はゆっくり休ませてあげよう」

 

 俺はアーニャを担ぎ上げ保護施設へと向かう。

 動ける村民に他の怪我人を運んでもらうことにした。


 保護施設のベッドの一つにアーニャを寝かせる。


「うぅ……。ご、ごめんなさい。不覚を取りました」

「喋らなくていいよ。ゆっくり休んでくれ」

「ライトさん、私が治療します」


 リディアは前に出て精霊魔法を発動する。

 すると優しい光を放つオーブが現れアーニャを包み込んだ。

 簡単な怪我なら魔法で治せるからな。


 今は看護はリディアに任せよう。

 俺はシャニとリリを連れて一旦外に出る。

 二人にはやってもらいたいことがあるからだ。


「すまないが被害の確認を頼む。櫓、壁、村民だって全員の無事を確認したわけじゃないからな。今は現状を把握する必要があるだろ?」

「はい。リリ、行きますよ」

「う、うん……」


 二人は保護施設から去っていく。

 今日はもう異形の襲撃はないだろう。

 修復作業は明日被害を確認してからだ。


 俺はアーニャの様子を見るために再び保護施設に入っていく。

 ベッドには多くの怪我人が横になっていた。

 幸いなことに手足を失った者はいないようだ。

 よく戦争映画とかでは爆発に捲き込まれ手足を吹き飛ばされる兵士が描かれるからな。

 しかし村民自身も村が大きくなる度に力を増している。

 彼らが重症にならなかったのはそれが原因なのだろう。

 逆に言えば強くなれたからこその怪我で済んだのだ。

 

 担当する村民達は必死な顔で看護にあたっている。

 頼む、みんなを死なせないでくれよ。


 アーニャのベッドではリディアが魔法をかけ続けている。


「アーニャの様子は?」

「はい、怪我は治ったんですが……。でも具合がまだ悪いみたいです」


 確かに回復魔法のおかげで負った傷は消えている。

 しかし顔色は青く、まだベッドから出られないみたいだ。

 アーニャは息苦しそうにしていたが、俺の顔を見て安心したように。


「申し訳ございません……。ご迷惑をおかけして……。ご、ごほんっ!?」

「アーニャ! 大丈夫!?」


 とリディアは駆け寄ろうとするが……。

 俺は咄嗟にリディアの腕を掴む!


「リディア、それ以上は駄目だ」

「ラ、ライトさん、どうして……」


 アーニャは苦しそうに咳き込んでいる。

 しかし彼女の吐く息だが青い色を纏っていたのだ。

 村の中に侵入してきた異形を倒した時、その体から噴き出したガスと同じ色だ。


 リディアを後ろに下がらせ、今度は俺がアーニャに近づく。

 まずはアーニャのステータスを確認してみることにした。



名前:アーニャ

年齢:???

種族:ラミア

力:230(+50) 魔力:0

能力:薬の知識

配偶者満足度:0/1000000

状態:感染性疾患 猛毒



 これで分かった。新しいタイプの異形が一匹で村に侵入してきた訳が。

 毒だ。奴ら村の内側からも攻撃を仕掛けてきたってことだな。

 しかも感染性疾患とある。つまりアーニャの毒は感染するということだ。


「みんな! 一度外に出てくれ! おそらく怪我人は毒に侵されている! しかも感染する毒だ!」

「毒ですって!? ならなおさらアーニャをこのままに出来ません!」


 リディアはその場を離れようとはしなかった。

 アーニャとは本当の姉妹のように仲が良かったからな。

 でも今はそんなことを言ってはいられない。

 少し強い口調で彼女を諭す。


「リディア! 君にはお腹の中に子供もいるんだぞ! 聞き分けてくれ!」

「…………」


 リディアは渋々ながら保護施設から出てくれた。

 他、看護にあたっていた村民も全て出たところで一人一人ステータスを確認していく。

 彼らは怪我人の看護にあたっていた。つまり最も感染のリスクが高い者ということ。

 

 リディアと俺を含めて全部で12名。

 一人一人ステータスを見ていく。

 


名前:アントン

年齢:???

種族:ドワーフ

力:90 魔力:0

能力:算術

村民者満足度:756/1000000

状態:感染性疾患 猛毒



名前:ドラン

年齢:???

種族:エルフ

力:78 魔力:100

能力:精霊魔法 弓術

村民者満足度:1085/1000000

状態:感染性疾患 猛毒



 今のところ感染は見られない。

 そして次はリディアだ。

 彼女は俺の子を妊娠している。

 母体が毒に侵されているなら、もちろん子供にだって影響があるだろう。

 頼む……。無事でいてくれ!



名前:リディア

年齢:???

種族:エルフ

力:200(+50) 魔力:270(+20)

能力:弓術 精霊魔法(敷地内限定)

配偶者満足度:685241/1000000

状態:妊娠 

付与効果:感度調整・改の影響により母子共に健康を維持



 よ、良かった。リディアは感染していなかったか。

 まさか地雷スキルである感度調整・改にこんな効果があったとは。


「リディアは無事だ。でも今は何ともないだけだ。感染しないとは限らない。すまないが看護は外れてくれ」

「そんな……。なら誰が怪我人達を看るんですか?」


「俺だ。実はな、どうやら俺も感染しているみたいなんだ」

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