第99話 三回目のスタンピード

 リディア達に結婚を申し込んでから三日が経つ。

 そして夜が来て空には二つの満月が昇る。

 禍々しい程真っ赤な月だ。

 雰囲気としてはおもいっきりダークなんだけど。


「θrrahy! おめでとうごscirga!」

「Aivnis! お父crasfξ! urrrry!」

「私も嫁にもらkkkvЛ!」


 なんか広場に集まった村民のテンションがやけに高い。

 いつもの謎の言語なのだが、時折理解出来る言葉、単語が混じるようになった。

 ちなみに最後に声をかけたのはかっぷくのいいラミアのおばちゃんだ。

 割りと長い付き合いで、下ネタが大好きな人だ。

 ジェスチャーでなんとなく理解はしていたが、きっと私も嫁にしてくれって言いたかったんだろうな。

 最後におもいっきり俺のキノコを握られたんだが。


 これってなんなんだろ? なぜ今になって言葉が少しだが分かるようになったのか。

 そして何故彼らは俺が結婚することを知っている?


「ねぇミァンさん! 聞いて! 私ね、実は赤ちゃんが出来ちゃったの!」

「Nεsdiとう! それじゃライト様と結nebkh!」


 リディアが言いふらしてるからだろうなぁ。

 あんまり広めて欲しくないんだけど。

 結婚式はするつもりだけど、今度の安息日のサプライズ演出にしようかなんて考えてた。

 でもここまで知られては安息日は結婚式がメインになりそうだな。


 まぁ、今は戦闘に集中しなければ。

 これから数え切れない数の異形が俺達を襲いにくるのだから。


「みんな! 配置についてくれ! 雨は上がったが地盤はまだ不安定なままだ。オリハルコンでもどこまで耐えられるか分からない。だから今回も攻めの守りで村に到達するまでに数を減らすぞ!」

「はいっ!」


 とリディアは元気良く返事をして櫓に登っていく。

 って、リディアさん、ちょっと?


「お、おーい。リディアは妊娠してるんだから戦う必要は……」

「大丈夫です! 無理だけはしないようにしますから! それに私はこの村では最強の一人なんですよ! 私が戦わないでどうするんですか!」


 櫓の上から大声で話すリディア。

 確かに彼女の言う通りではある。

 リディアは最初期のメンバーであり、俺と共に常にレベルアップしてきた。

 力も魔力も三桁を超え、敷地内限定ではあるが魔法も使える。

 彼女から弓から放たれる矢は魔力を纏っており、その一撃はまるでスナイパーライフル並の威力なのだ。

 戦力としては充分過ぎる程……いや、彼女無しではラベレ村の防衛は成り立たないだろう。


「ライト殿、では私達も配置につきます」

「私も行ってくるねー」


 シャニは近接戦闘部隊を。

 リリは投石機ならぬカタパルト砲台の指揮をお願いしてある。

 今日までに用意した砲台は100台。一台につき5人の村民で運用してもらう。

 

 今のラベレ村の戦力はこんな感じだ。

 

☆弓矢部隊

・射手:300名

・櫓:150基


☆近接戦闘部隊

・暗殺者:100名


☆砲撃部隊

・カタパルト砲:100台

・操者:500名


☆防衛部隊

・槍兵:150名


 最初はリディアと二人で始めた村がいつの間にかこんなに大きくなったんだな。

 しかしまだまだこれからだ。

 もっとラベレ村は大きくなる。


 そのためにも異形を倒して安心して暮らせる生活を取り戻さないとな!


「各自! 構えろ! そろそろ来るぞ!」


 ――ドドドドドッ……


 半年振りに聞く地響きだ。

 とっくに陽は落ちているが、異常な程明るい月の光が森を照らす。

 だから見える。森の奥から津波のように押し寄せる異形の姿がな!


「撃てぇ!」


 ――バシュッ! ドゴォォォッン……


 百のカタパルト砲から放たれる砲弾。

 明らかに敵の射程外からの攻撃だ。

 異形の悲鳴は聞こえず、響くのは大質量の砲弾が着弾した轟音のみ。

 

「可能な限り撃ちまくれ! 壁にすら近づかせないつもりでな!」

「はーい! みんな頑張って! 次弾装填よーし! 撃てー!」


 ちょっと気が抜ける指揮ではあるが、手際よく装填、発射を繰り返す。

 カタパルト砲台はラベレ村で一番威力の高い兵器ではあるが、いかんせんその構造から連射が出来ない。

 とうとう異形達の声が聞こえる程に接近を許してしまった。

 だがここからはリディアが率いる弓矢部隊の出番だ。


「せいっ!」

『ウルルォォイッ……』

『ウバァァッ……』


 ――ビュンッ! ドシュッ!


 ダマスカス鋼の矢は次々に異形を撃ち抜いていく。

 櫓自体も攻撃を受けているようだが、あいにくオリハルコン製でね。

 そう簡単には崩されはしないさ。

 

 櫓に纏わりつく異形を櫓の上から数を減らしてはいるが、やはり今回は数が多い。

 数千体……いや数万体はいるだろうな。


 シャニ達は木に隠れながら異形を翻弄してはいるが、引いたヘイトは一割といったところだろう。


 そしてとうとう異形達はラベレ村の外壁まで辿り着く。

 ここからが俺の出番だ。


「アーニャ! デュパ! 行くぞ!」

「はいっ!」「グルルルッ!」


 壁には覗き穴が空いている。

 そこに向けて槍を突き立てる!

 穂先はもちろんダマスカス鋼。異形を二体、三体まとめて貫いていった。


 今のところ順調、壁に大きな被害は無い。

 このまま数を減らしていけば俺達の勝利だな。


 しかしそこで異変が起こった。


「ライトさん! 気をつけて! 新しい個体がいます!」


 リディアの声が聞こえてきた。

 新しい個体? 異形には様々なタイプがある。

 人と同じ大きさのごく一般的な異形。

 それよりも体の大きい巨人タイプ。

 最近になって猪型の異形にも出会ったことがある。

 

 覗き穴から外を見ると、確かにこちらに全速力で向かってくる異形の姿が。

 四つ足だ。獣タイプか? しかし猪より明らかに体が小さい……。


 ――ダダダダダッ! バンッ!


 新しいタイプの異形は壁の前で大きく跳躍する!

 ま、まさか壁を飛び越えて侵入するつもりか!?


「気を付けろ! 入ってくるぞ!」


 ――ドスッ!


 大きな着地音を立てて異形が敷地内に入ってきた。

 

『ウルルォォイッ』


 奴は威嚇するように一声鳴いた。

 だが単身で敵陣に乗り込んでどうにかなるとでも思ってんのか?


「囲め!」

「はい!」


 円陣を組むように異形を囲む。

 侵入を許してしまったが、即倒してしまえば問題無い。

 村民達は異形に槍を突きつけてから……。


 ――ドドドドシュッ


『ウバァァッ……』


 多数の槍に貫かれ、異形は絶命する。

 なんだよ、大して強い相手じゃなかった……。


「ラ、ライト様、何かおかしいです」


 アーニャ? おかしいって何が……。

 いや、確かに違和感を感じる。異形の死体がいつまで経っても消えないのだ。

 普通異形は死ぬ時はその体を塵に変える。

 だがこの個体は原型を留めたままだ。


 そればかりか……。


 ――プシュッー


 体からガスが噴き出した!? これはヤバいやつかも!?


「離れ……!」


 ――ドゴォォォッン!


 俺が声を出しきる前に異形の体は爆発四散した。

 

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