第98話 プロポーズ
「赤ちゃんが出来たんです……」
ベッドで横になるリディアがお腹に手を当てて発した言葉。
それを聞いて頭の中が真っ白になった。
嘘でしょ? 日本では結婚すらしたことがない俺が?
異世界で父親になるってこと?
しかも相手はリディアであり人間ではない。
エルフって人間の子供を妊娠出来るの?
多分種族が違うから例え可能だとしても出来にくいとばかり思っていた。
しかし今を思い返せばリディアだけではなく全員に中だ……ごほん。遠慮無く出してきた気がする。
「あ、あのさ、間違いないのか?」
「はい。アーニャに確かめてもらいましたから。これを見て下さい」
リディアは中心が紫色をしている紙を差し出す。
「これは?」
「おりものをつけると色が変わるんです。妊娠していない場合は色が変わりませんから」
異世界の妊娠検査キットか。こんなものがあるんだな。
リディアの話では九割の確率で妊娠の有無が確認出来るらしい。
しかし九割って。かなり高い確率じゃねえか。
ということは朝にリディアが戻してたのって。
「はい、つわりだと思います」
「ですよねー……」
「それにもしかして出来たかもって前から思ってたんです」
「ほう、そんな兆候があったのか。例えば?」
「ライトさんと楽しんでる時になんですが、私のお尻を叩きながら『おらっ、孕め!』って言ってくれたじゃないですか」
「リディアさん、それ以上は言わないでいいです」
いやいや、それはプレイの一環でしょ!
それにしてもいきなり妊娠とは。
とてもめでたいことではあるが、まだ実感が湧かないなぁ。
――ピコーンッ
ん? 何か満足度が上がったのか?
【感度調整・改がパッシブのままです。アクティブに戻しますか?】
ん? 感度調整は発動した覚えがないけど。
もしかしてリディアと楽しんでる時に勝手に発動したとか?
そういえば詳しく確認したことがなかったな。
どうせ地雷スキルだと思って特に気にしてはいなかった。
ちょっとステータスを見てみるかな。
現在のステータス
名前:前川 来人
年齢:40
種族:ヒューマン
力:300(+100) 魔力:0
能力:壁レベル6(オリハルコン)
派生効果①:敷地成長促進・改
派生効果②:遭難者誘導・改
派生効果③:感度調整・改(感度を1~3000倍まで調整可能。改を発動すると着床率UP。丈夫で可愛い赤ちゃんが出来ます)
派生効果④:A/P切り替え
派生効果⑤:モース硬度選択
派生効果⑥:XY軸移動
配偶者:リディア、アーニャ、シャニ、リリ
うおぃっ!? これが原因じゃねえか!?
どうやら無意識に発動した感度調整・改でリディアは俺の子を妊娠してしまったのだ。
しかし出来ちゃったものは仕方ない。
それにリディアとはいつかは結婚しようと思っていた。
俺も年貢の納め時がきたってだけだ。
それが今日なのか一年後か十年後かの差でしかない。
――ギュッ
リディアを優しく抱きしめる。
そして軽くキスをした。
「ん? ライトさん?」
「あ、あのさ。多分順番が違うんだろうけど。俺と結婚してくれないか?」
「結婚……」
「そうだ。いつかは言おうとしてたことなんだ。本当は異形を全部倒して平和になったらって思ってたんだけどさ。でもそうも言っていられないだろ。だからさ……。リディアを絶対に幸せにする。もちろんお腹の子もだ。だから……。俺と結婚して下さい」
答えを聞く必要はなかった。
リディアは涙を流しながらキスをしているからな。
「ぐすん……。私こんな胸だから一生結婚なんか出来ないって思ってました。異形に襲われ自分を見失ったまま朽ち果てていくだけ。そんな死に方をするんだって。でもライトさんと出会って赤ちゃんまで……。私って世界で一番幸せかもしれません」
「違うよ。幸せなのは俺の方さ。リディアみたいな綺麗な人と結婚出来るなんてさ。で、でもさ、リディアと結婚するならアーニャ達にもプロポーズしなくちゃいけないと思うんだけど……。リディアは許してくれるか?」
重婚が当たり前の世界のようだが、やはり俺の本質は日本人なわけですし。
今でさえハーレム状態だが、全員真剣に愛している。
リディアを嫁さんにするなら、やはり全員にプロポーズするべきだと思った。
きちんと筋は通しておかないとな。
「もちろんです。ふふ、でもみんなに悪いですね。一番に恋人になったのは私、そして赤ちゃんも。それにプロポーズも私からだなんて」
もちろん彼女達への愛に差は無いつもりだ。
だがリディアの言った通り彼女は俺が初めて会った異世界人であるし、初めての恋人でもある。
思い入れが無いと言えば嘘になる。
だからこそ彼女が最初の嫁さんでいいんだろうな。
「よし! もう大丈夫ですから! いっぱいご馳走を作ってお祝いしなくちゃですね!」
「おいおい、無理するなよ」
リディアはベッドから出て一階に向かう。
そしてアーニャと楽しげに話す声が聞こえてきた。
「言っちゃった! ライトさんに赤ちゃんが出来たよって!」
「ラ、ライト様はなんて言ってくれたんですか!?」
「ふふ、まだ内緒」
ははは、今だけでも優越感に浸っていたいのだろう。
だが妊娠したことはアーニャも知っているし、一緒になって喜んでくれた。
そしてシャニ達が帰ってきてから大宴会となる。
その際こっそりアーニャ達のステータスを確認したが、彼女達はまだ妊娠してはいなかった。
やはりリディアの時に力が暴発してしまったのかもしれん。
もしかして『おら、孕め!』がトリガーになったのかも。
あれは禁句としよう……。
なんてことを考えていると、テーブルには様々な料理が並んでいく。
分厚いステーキに色とりどりの前菜、そして艶々と白く輝く米がお茶碗によそってあった。
「もう収穫出来たのか?」
「ふふ、実は無理を言って少しだけ分けてもらったんです。今日はお祝いだって」
うーむ、本当は種籾を増やさなくちゃいけないのだが。
しかしアーニャが言う通りお祝いだしな。
「リディア
「いいなー。私もライトの赤ちゃんが欲しいよー。今から作らない?」
とリリは言うが、さすがに今は早いって。
三人とはもう少しだけ時間をもらうことにした。
「残念です。ですが楽しみです。私とライト殿の子供。名前は何とつけましょう。シャナなんていかがでしょうか?」
「私ならリーナとかかな?」
「私はアナにします!」
「全部女の子の名前じゃない? ふふ、男の子かもしれないわよ。でも私だったらフィーネとかかしら」
なんてまだ見ぬ子供の名前で大盛り上がりをする。
だけどさ、その前に言っておかないと。
「ごほん。盛り上がってるところ悪いけどさ。まずは筋を通しておきたい。リディアが妊娠したのがきっかけなんだけどな。それでも言わせて欲しい」
まずはリディアの前に。そして伝える。
「リディア。さっきも言ったが俺と結婚してくれ。俺がこの世界に来て初めて出会ったのが君だ。そして俺の子供まで妊娠してくれた。もう運命なんだろうな。俺はリディアと出会うために産まれてきたのかもしれん。今までもそうだが、これからもずっとそばにいてくれ。愛してるよ」
「ライトさん……。私も愛しています……」
今度はアーニャの前に。そして伝える。
「アーニャ。いつも俺の面倒を見てくれてありがとう。二番目に出会ったのは君だ。種族は大きく違うが、そんなことは関係無い。俺は今のままの君が大好きなんだ。だから……。俺と結婚してくれ。ずっと一緒にいような」
「ラ、ライト様……。私なんかをお嫁さんにしてくれるんですか? うぅ、今までお仕えしてきて良かった……。死ぬまでライト様のお側にいさせて下さい……」
今度はシャニの前に。そして伝える。
「シャニ。俺の恋人になってくれてありがとう。これからは嫁さんとして俺を支えてくれ。でも危ないことはなるべくしないでくれよ? もう一人の命ではないんだ。シャニは俺の大切な人だ。これからは俺達と自分のために生きてくれ。シャニ、愛してるよ」
「はい。私もライト殿を愛しています」
――ブンブンブンブンッ!
シャニの尻尾は今まで以上に大きく動いた。
そしてリリの前に。そして伝える。
「リリ。君が最後の恋人だ。前にも言ったがリディア達に比べて君との時間は少ないかもしれない。だが愛に差はないから安心してな。これからも楽しい思い出をたくさん作っていこう。俺の嫁さんとしてな」
「ライトォ……。も、もちろん私も愛してるよ。絶対に離さないんだから……」
最後に五人で抱きしめあった。
これも言っておかないとな。
「あのさ、異形との戦いはまだ続くだろうが、けじめとして大規模襲撃が終わった次の新月の日に結婚式をしようか。いっぱい酒を用意してさ、ご馳走もたくさん作るんだ。そして村民達に祝ってもらおうぜ!」
「「「「はいっ!」」」」
みんな笑顔で応えてくれた。
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