第97話 サプライズ
――シトシト
今日も雨は降り続いている。
夜には二つの満月が夜空に昇り、数え切れない程の異形が俺達を襲いに来るだろう。
壁は全てオリハルコンの壁に建て替えたが、やはり心配だ。
俺の能力である壁は地盤の強度に左右される。
長雨で地面がぬかるんでいる場合、強度が一気に下がるからな。
「うーん……」
「ライト様、考え事ですか?」
「ごはんが冷めちゃうよ」
食卓では恋人達が俺に構ってくれるが、三日後の襲撃を考えるとどうも食欲が。
まあ、腹が減っては戦は出来ぬと言うし。
ようやく朝食に手を伸ばし、みんなと今日の仕事について話す。
「あのね、もうすぐオリハルコンを溶かせる溶剤が出来そうなの! それを爆弾にいれて起爆すればマナブレイカーは完成よ!」
「マジか!? ならマナブレイカーを異形の巣で爆発させれば! でもさ、実際に作るのは初めてなんだろ?」
「そうよ。でも私の理論は完璧だから!」
うーん、リリのことは信用してるが、実戦投入したこと無いんだろ?
これも心配なことの一つだ。
それに異形の巣があると言われている場所は森のさらに奥深く。
その付近まで村を移動させないと。
「でも近すぎたら駄目だよ。マナブレイカーの効果範囲は半径1㎞はあるから」
「1㎞って……。すごい威力なんだな」
少なくとも数㎞は離れていないと危険だな。
爆発に巻き込まれては村に被害が及ぶだろうし。
だがそれは俺の仕事だ。リリとシャニには引き続きマナブレイカー作成をお願いしておく。
「任せて下さい。私はそのために産まれてきたようなものです。果たせなかった悲願、ここで果たせるのですから。そのためにはこの命投げ出しても構いません」
シャニは影で王都を守ってきたんだよな。
それが彼女の存在意義だったのだろう。
恋人としてシャニの願いを叶えてあげたい気持ちもあるが……。
「そんなこと言わないでくれ。シャニを失ったら俺は耐えられないよ。死ぬ覚悟は捨てて俺と生きる覚悟をしてくれ。村民と俺のためにな」
「はい」
――ブンブンブンブンッ!
すごく喜んでくれた。
「ふふ、シャニったら。尻尾の毛が飛ぶよ。ほら、片付けるから手伝って」
「はい、リディア姉」
朝食を終え、片付けをリディアが買って出た。
だが食器を手にした時……。
「うっ……」
「リディア、大丈夫か?」
リディアは膝をつき口を手で押さえる。
具合が悪いのだろうか?
「だ、大丈夫です。ちょっと気持ちが悪くって。や、やっぱり駄目……」
リディアはそう言うとトイレに駆け込んでいった。
彼女を追ってトイレに行くと朝食を戻している。
背中を擦り、落ち着くのを待つことにした。
「病気かな? アーニャに薬を作ってもらおう。それと今日は休むんだ。ゆっくりしてていいからな」
「はい……」
リディアを抱っこして寝室に連れていく。
ベッドに寝かせると、静かに目を閉じた。
リディアの寝室を出ると三人は心配そうにしている。
「リディアさん、どうしたのでしょうか?」
「風邪とか?」
「長雨の中探索をしていましたから。疲れが出たのかもしれません」
「そうかもな。アーニャ、悪いけど今日はリディアの看護を頼むよ。薬も作ってあげて欲しい」
この世界には回復魔法は存在するが傷の治りが早くなる程度のものだ。
それに病気は治せない。治すには薬を飲むしかない。
幸いアーニャは医学的知識はあるし、さらには彼女が作る薬を飲めば大抵の病気は治ってしまう。
「ほら、二人はやることがあるんだろ。仕事に行こうか」
「う、うん……」
「はい」
リリとシャニは名残惜しそうに兵器廠へと向かう。
俺も自分の仕事をこなすべく外に向かうが……。
――シトシト…… ポツッ……
ん? 空を見上げると、雨が止みつつあった。
ようやくか。今回の雨は長かったな。
しかし地面はすっかりぬかるんでいて、しばらくは水が引きそうにない。
三日後の襲撃は苦しい戦いになるだろう。
壁はオリハルコンのものに替わったが、根元から傾いているものもある。
しかし壁自体はほとんど傷が無い。新品同様だ。
オリハルコンの壁が破られることはないだろうが、圧倒的質量で来られたら根元から倒されてしまうかもしれん。
気休めかもしれないが、新しいものに建て替えておいた。
自分の仕事を終え家に戻ることに。
最近は異形の数が多く、建て替えや修繕だけで一日が終わることが多い。
それにしても久しぶりに夕日を見たよ。
一週間降り続くなんて日本の梅雨の時期でも滅多に無いことだろうな。
自宅に戻ると居間ではアーニャが薬を煎じているところだった。
だが何故か笑顔で。楽しいことでもあったのかな?
「ただいま。なんか嬉しそうだね」
「わわっ。びっくりしました。ライト様、お帰りなさい」
今日は一日リディアの看護をしていたはずだ。
そういえばリディアはもう大丈夫なのかな?
「あ、あのさ、リディアだけどもう治ったかな?」
「ふふ、それなんですけど……。やっぱりそれは直接リディアさんから聞いてください!」
――ガタッ
アーニャは席を立ち、俺の手を引いて二階へと向かう。
「さぁ! ライト様!」
「わわっ。強引だな……」
リディアの寝室に押し込まれてしまった。
ベッドではリディアが横になっているが、顔色は良さそうだ。
彼女の横に椅子を置いて視線を合わせつつ手を握る。
「もう良くなったみたいだね」
「うふふ。そうでもありません。ねぇライトさん、こっちにきて下さい」
リディアはそのまま俺をベッドに引き込んだ。
こら、病み上がりなんだからエッチなことは駄目だぞ。
だがリディアはそのまま俺の深いキスをしてくる。
「ぷはっ。駄目だって」
「うふふ、もちろん分かってますよ。だって……」
少し恥ずかしそうにお腹に手を当てて……。
「しばらくは出来そうにありません。この子がびっくりしちゃいますからね」
「ん? どういうこと?」
「もう。ライトさんって意外と鈍いんですね。赤ちゃんが出来たんです」
「…………」
リディアの言葉を聞いて頭が真っ白になった。
◇◆◇
☆次の
☆総配偶者満足度:713334/1000000
リディア:652542/1000000
アーニャ:28604/1000000
シャニ:15210/1000000
リリ:16978/1000000
☆総村民満足:30085/10000000
・総村民数:1032人
☆現在のラベレ村
・オリハルコンの壁
・敷地面積:60000㎡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます