第93話 長雨

 ――シトシトッ


 雨音を聞いて目が覚めた。

 隣で眠るアーニャを起こさないようベッドを出て窓を開ける。

 朝だというのに空はどんよりとした雨雲に覆われていた。


 ――シュルルッ


「ライト様、冷えますよ……。こっちに来て下さい……」

「ごめん、起こしちゃったか」


 アーニャは蛇の尻尾を俺に巻き付けベッドに引き込む。

 

「雨ですか?」

「あぁ。ヤバいな。大規模襲撃スタンピードまでに止めばいいんだが」 

 

「…………」


 アーニャは言葉を失った。

 そうだよな。彼女は雨の恐ろしさを知っている。

 

 アーニャを保護した時も雨には苦しめられた。

 俺の壁は万能ではない。

 強度は壁を支える地盤に左右される。

 水分が多かったり、水捌けが悪い土地だと壁の防御力は下がるのだ。

 

 今の壁は鉄壁であり、アーニャを保護した時のような竹壁ではない。

 もちろんこれまでに雨が降ってる中の襲撃もあった。

 だが強固な鉄壁を前に俺達は連戦連勝してきた……のだが、最近になって異形の力が増してきたように思える。

 

 気を抜いていると例え鉄壁であっても破られる危険があるわけだ。

 

「ライト様……」

「大丈夫だよ。アーニャは俺が守るから」


 と震える彼女を抱きしめる。

 なんだか気分が盛り上がってしまったので朝から楽しんでしまうことにした。

 これで少しはアーニャの不安は解消されたのであれば良いのだが。


「うふふ、ライト様、ありがとうございます。私はもう大丈夫です」

「そうか、ならそろそろ起きようか」


 二人で寝室を出るとリディア達は既に起きており朝食を作っていた。

 

「もう、ライトさんったら。声が聞こえてましたよ」

「ははは、ごめんな」

「ライトのエッチー」


 なんてことを言いつつもみんなだって目が覚めたら求めてくるじゃん。

 シャニは表情を変えずにチラチラと俺を見てくる。

 今日はシャニの日だったな。夜はいっぱい可愛がってあげるとしよう。

 だがそれは今日の仕事を終えてからだ。


「みんな、そのまま聞いてくれ。この雨がいつ止むか分からん。例え今日止んだとしてもかなり強い雨だ。最近気温が低いから地面の水が乾くか分からない」

「はい。壁の力が弱くなるってことですよね?」


 リディアも壁の弱点は知っている。

 シャニとリリは初めてだったので説明をしておいた。


「そ、それじゃ鉄壁が破られることもあるの?」

「その可能性があるってだけだ。だが危険は可能な限り排除する。今日から大規模襲撃スタンピードまで臨戦態勢に入る。宛がった仕事は最小限、残った時間は武器製造、櫓の建設、トラップ設置に使う」


 矢はいくらあってもいい。

 シャニが作った大砲は全部で十台。その倍は欲しい。

 村の外には櫓を建てているが、それも足りないだろう。

 何とか壁に辿り着く前に可能な限り数を減らすことが重要だ。


「ライト殿、私が鍛えた部隊が前に出ます」

「すまんが今回は駄目だ。シャニも壁の中で戦ってくれ」


 どうなるか分からない状況で遊軍としてシャニに戦ってもらうのは危険だと思った。

 シャニはちょっと怒っているようだ。

 尻尾の毛が逆立っている。


「何故です? 私達の力を信用していないのですか?」

「違う。シャニが大切な人だから」


 ――ブンブンブンブンッ!


「ならば仕方ありません。命令に従いましょう」


 めっちゃ喜びながら諦めてくれた。

 チョロいなぁ。

 とにかくだ。その日が来るまでに戦力をさらに強化する必要がある。


「ねぇライト。ちょっといい?」   

「リリか。どうした」


「あのね、それも大切なことだと思うの。でもね、戦力を整えるならもっと早い方法があるかもしれないよ。これを見て」


 リリは懐から紙を取り出す。

 そこにはなにやら数字がびっしり書かれていた。

 そして一番上には……。


☆総村民満足:875241/1000000

・総村民数:1005人


 村民満足度だ。昨日までの村民満足度が書かれている。

 確かリリは毎日ステータスとか村民満足度を俺に聞いてチェックしてたな。


「これは?」

「あのね、もうすぐ村民満足度が上がるでしょ? だったら先に新しい壁を建ててみたらどうかなって思って」


 なるほど、でも最近村民満足度って上がりにくいんだよね。

 リディア達の配偶者満足度は一気に上がることはあるが、一方村民満足度は地道に伸ばしていくしかない。

 この数値になるまで二ヶ月かかったからな。

 でも残り13万か。ならやってみる価値があるかもしれん。


「よし、ならやってみるか。みんなは村民の要望を聞いてきてくれ」

「はーい!」


 俺は村民と言葉が通じないから彼女達にお願いするしかない。

 仕方ないので降りしきる雨の中、俺は一人村の外に行き櫓の建設に取りかかった。


 今村民の数は1000人を超えている。

 南は湖に面しているので防衛の必要はないからな。

 南以外の壁の前に100基ずつ建てておくか。


◇◆◇


【壁っ!】


 ――ズゴゴゴッ


 ふー。これで最後の一つが終わった。

 さすがに300基の櫓を建てるのは時間がかかったな。

 空が暗いので何時か分からないが体感としては4時過ぎってところだろう。

 

 さてそろそろ戻るかな。

 自宅に戻るとリディア達もいて夕食の準備をしていた。

 

「ライト殿、びしょ濡れではないですか。先にお風呂に入って来て下さい」

「ありがとね」

  

 シャニがタオルを手渡してくれる。

 お言葉に甘えて風呂に入ることにした。

 何故かシャニも一緒にだが。 


「ふぅ、温かいです」

 

 なんて言いながら俺に体を預けてくる。

 こらシャニ。チュッチュしなくていいから、村民達の話を聞かせてくれって。


「残念です。ならば後でしっかりと可愛がってください」

「はいよ。でさ、村民はなんて言ってた?」


「現在衣食住はかなり整っています。ですが不満があると。これ以上お米が食べられないのは辛いと言っていました」


 米かー。

 よく異世界小説なんかでは米はメジャーな食べ物ではなく、主人公が米を食べるために奮闘するんだよな。

 だがこの世界の住人の食生活は朝はパンで夜はごはんらしい。

 リディア達も米が食べたいって言ってたしな。


「私も早く卵かけごはんが食べたいです」

「えぇ……」


 まさかTKGまで食べられているとは。

 異世界感が薄まったなぁ。


 とりあえず村民満足度を上げるためにも米を探してみるか。



◇◆◇



☆次のスタンピード大規模襲撃まで残り10日。


☆総配偶者満足度:363191/1000000

リディア:90051/1000000

アーニャ:88693/1000000

シャニ:87860/1000000

リリ:96587/1000000


☆総村民満足:875241/1000000

・総村民数:1005人


☆現在のラベレ村

・鉄壁

・敷地面積:60000㎡

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