第92話 投石機?

 いつものように壁の補修を終え、午前中の仕事は終わる。

 俺の仕事は終わりだがまだやることがある。

 新しい仕事を始めたシャニのお手伝いだ。


 昨日会議で決まったことだが、ラベレ村で投石機を作り防衛に利用すると。

 今の俺達は武器不足なのだ。主力武器は弓矢で矢じりにはダマスカス鋼を使っている。

 さすがは伝説の金属だ、異形を射抜いても矢じりは欠けることはなく鋭さを保っている。

 しかし矢本体は木製なので新たに作らなければならない。

 矢の本体もダマスカス鋼で作ることも考えたが、リリの技術力をもってしても製造までに時間がかかり過ぎるし、莫大な量が必要になる。

 

 槍は基本異形が壁の前に来た時にしか使えないからな。

 もちろん頼もしい武器ではあるが、やはり弓矢には負けるだろう。


 しかし投石機ならば弾の心配は無い。

 石壁を利用すればいいのだ。石壁ならば作り放題であり、ダマスカス鋼の刃物があれば簡単に加工出来る。

 適当な大きさに石壁を切って、それを弾として利用すればいい。


 問題は本体なんだよなー。

 やっぱり三國志の時代とか古代ローマ軍が使ってた投石機を連想するんだけど。

 人間相手なら充分だろうが、相手は化物だからなー。

 そこまで有効なのだろうか?

 

 そんなことを考えながらシャニの牧場に向かう。

 かなり大きな兵器なので屋内では作業出来ないそうだ。

 なので牧場の一角を借りて投石機の製造をするそうだ。


 体長3メートルはあろうかという大きな牛がモーモー言いながら出迎えてくれたが、今はお前らの相手をしている暇は無いぞ。

 さて、シャニはどこにいるかな。

 

 お、いたいた。

 畜舎の横で作業している。

 シャニの他に20人程の村民がノコギリやカンナを使い木材を加工していた。


「頑張ってるな」

「ライト殿、お待ちしておりました」


 ――ブンブンブンブンッ!


 シャニは尻尾を振って出迎えてくれた。

 

「よし、俺も手伝うよ。でも素人だから下手でも許してくれよ?」

「大丈夫です。図面通りに作れば問題ありません」


 シャニはリリが書いた図面を見せてくれた……んだけど、これってかなり大きくない?

 それに俺が思っていた投石機とはなんか形が違うんだけど。


「あ、あのさ、本当にこれで合ってる?」

「はい」


 投石機ってテコの原理とかで石を遠くに飛ばす兵器だと思うんだが、これはなんか筒型だ。

 しかも何故か水を入れる箱が下部についてるし。


「それでは始めましょう」 

「お、おぅ」


 シャニはさも当たり前だと言わんばかりに木材を切り始める。

 木材同士の接地面は隙間が出来ないようにするためかなり正確な作業が必要だ。

 

「ライト殿、それでは駄目です。蒸気が漏れてしまいます。もっと綺麗にカンナをかけてください」


 今蒸気って言った? やはり俺の知ってる投石機とは違うぞ。

 なんやかんや作業を続けること数時間、ようやくある程度ではあるが完成が近づいてきた。


 だが俺の目の前あるのは……。


「筒だな」

「はい」


 筒なのだ。巨大な木製の筒があるだけだ。

 これでどう石を飛ばせと?

 疑問に思ったが、もう夕方なので今日の作業は終わりだ。


 そして翌日も自分の仕事を終わらせてから投石機……のような何かの製造に向かう。

 今日は本体の強度を上げるために鉄板で筒をコーティングするらしい。


「なら全部鉄で作った方が良くない?」

「駄目です。錆びると中で石が詰まります」


 断られてしまった。

 でも何となくだが分かってきたぞ。

 俺達が何を作ってるのかをな。


 鉄で筒を包んだ後は水を入れた箱と筒を繋ぐ。

 これって投石機じゃなくて大砲だよな?


「大砲? いえ、そのような兵器ではありません。王都ではこれを投石機と呼んでいました」


 とシャニは言う。

 まぁ、名前が違うのは異世界だからしょうがないか。

 しかし大砲とは恐れ入った。しかも火薬ではなく蒸気の圧力で弾を飛ばすのか。

 これは完成が楽しみだな。


 そしてさらに翌日。

 とうとう完成し、十台もの投石機が俺達の前に並ぶ。

 

「では試し撃ちをしてみましょう」


 おぉ、演習か。

 実際には見たことがないが、自衛隊とかの部隊演習なんかは動画で見るのが好きだった。

 やっぱりこういうのってロマンだよな。

 年甲斐もなくワクワクしてしまう。


 壁の一部に穴を開け、そこから投石機……っていうか砲台の先を設置する。

 

「では始めましょう。弾は既に込めています」

「あ、あぁ」


 シャニは村民達に水の入った箱に魔法をかけるよう指示をする。

 どうやら内部で火を起こしているようだ。

 そして蒸気が筒の中に入りトリガーを放せば石が飛び出すという仕組みだ。

 いや、これって大砲じゃないな。

 カタパルトだ。空母から飛行機を飛ばす装置に近いと思う。


「準備が出来ました。ライト殿、引き金を引いてみますか?」

「え? やっていいの?」


「もちろんです」


 なんと試射する役目をもらってしまった。

 うぅ、アメリカ旅行の時に射撃場に行ったが、怖くて銃を撃てなかった俺が。

 まさか異世界にて大砲を撃つことになるとは。


 ちょっと怖いが村を守るためだ。

 力を込めてトリガーを引く!


 ――バチンッ! ドシュッ!


 轟音を上げ石が発射された!

 っていうか速い! 目で追えない程の速さだ!


 石はバキバキと木々をなぎ倒し、そして……。


 ――ズゴォォォンッ……


 遥か先で土煙が上がるのが見えた。

 す、すげえ威力だな。

 確かにこれは俺達にとって大きな戦力になる。

 しかも運用には一台につき最低5人は必要らしい。

 弓矢を持てない村民でも訓練すれば問題無く使えるだろう。


「満足頂けたようですね」

 

 とシャニが尻尾を振りながら聞いてきた。

 

「あぁ、俺の世界にも似たような兵器はあったが、それ以上の威力だろうな。でもさ、なんでこんな凄い兵器がありながら王都は異形に負けたんだ?」

「…………」


 シャニは黙ってしまう。

 何か理由でもあるのだろう。

 でもこれだけの威力の兵器なんだ。

 量産して配備すれば異形と充分に戦えたのでは?


「実は欠陥がありました。並みの力では引き金が重すぎて引けないということが分かったのです」

「馬鹿なの?」


 思わず突っ込んでしまう。

 しかし良く聞いてみると、村民の腕力が異常なんだそうだ。

 実際量産はしたが、まともに扱うことが出来ず欠陥品として倉庫で眠っていた。

 しかしラベレ村で生活している者は壁のレベルが上がると同時に謎のパワーアップを遂げている。

 だからこそ投石機を運用出来るとシャニは思ったそうだ。


 こうしてラベレ村には新しい兵器が加わることになった。

 そしてシャニが兵器にライト砲と名付けようとしたが、丁寧に断っておいた。



◇◆◇



☆次のスタンピード大規模襲撃まで残り11日。


☆総配偶者満足度:363191/1000000

リディア:90051/1000000

アーニャ:88693/1000000

シャニ:87860/1000000

リリ:96587/1000000


☆総村民満足:875241/1000000

・総村民数:1005人


☆現在のラベレ村

・鉄壁

・敷地面積:60000㎡

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