第91話 今後に向けて

 ――ワイワイ ガヤガヤ


「大分増えたなぁ」

「そうですね……」


 俺とアーニャは屋上から村の中を見ている。

 村は新たに村民になった者達で溢れかえっていた。


 湖の畔に村を移動させてから二ヶ月が経つ。

 村民も新しい生活に慣れてきたかな。


「それじゃそろそろ始めようか」

「はい!」


 一階のリビングに向かうと人数分のお茶が用意されており、リディア達が座っている。

 今日は全員仕事を休んで会議をする。

 今後の方針についてだ。


 最初の議題としてまずはリリから話があった。

 彼女は王都最強と呼ばれた暗殺部隊の武具の製造を任されていた。

 それだけではなく有用な道具も彼女の発明によるものだ。

 そして彼女は対異形の切り札と呼べる兵器の開発者でもある。


「えっとね。前に話したと思うけど、異形にも巣があるはずなの。斥候の命がけの情報でね」

「巣か。場所は分かるのか?」


 ――パサッ


 リリは地図を広げる。

 世界地図だな。

 この世界は北と南の二つの大陸で成り立っている。

 そして南半分から下は森が広がっている。

 これが魔の森か。こんなにでかいのか。

 

「私達がいるのがここ。ほとんど森の入り口だね。そして巣がある可能性が高いのがここ、そしてここ。最後にここだね」

「三つか。結構多いな」


 縮尺からして一番近い場所はここから100キロ先ってところか。

 今の俺達のステータスでも移動だけで半日はかかる。

 もし徒歩で巣に向かい、そして巣を壊せなかったら直接異形に襲撃される。

 やるなら村を巣に近づけてからだな。

 そのためには森を切り開く必要があるだろう。


「巣を壊すには特殊な兵器が必要なの。でも作るのに材料が必要でね」

「材料か。そういえばどんな兵器なんだ?」


 リリは山を一つ消し飛ばせるって言ってたな。

 

「もちろん威力だって凄いんだよ。でもその兵器の本質はそこじゃないの。おそらくだけど異形っていうのはこの世界のモンスターじゃない。どこか違う世界から召喚されたか、あるいは作り出された新種のモンスターね」


 ほー、一応は異形がどんな存在か調べてたんだな。

 今度はリリに変わってシャニが説明してくれた。


「運良く塵に変わらなかった異形の体を調べたのです。隅々まで解剖したのですが、内臓は一つもありませんでした」

「マジか……」


 宇宙人かよ。解剖までしたのか。

 しかし内臓が無いということは……。

 

「生物ならば生命活動を維持するには何かを食べる必要があります。しかし異形には内臓がない」

「栄養は食べ物以外で摂取してるってことだよな。栄養だか魔力だか分からんが、その供給源を叩くってところか」


 つまり異形をスマホみたいな端末に例えるとする。

 そして俺達は電波塔や基地局を叩くってことだ。

 電波が無けりゃスマホは使えなくなるからな。


「大体のことは分かった。でさ、その兵器ってのはどんな名前なんだ?」

「空中魔素破壊兵器、マナブレイカー。私が作った中でも最高傑作だね! 完成してればだけど……」


 マナブレイカー。オキシジェン◯ストロイヤーみたいな名前だな。

 まぁ、名前はどうでもいいさ。

 それにリリも言っていたが、まだ未完成ってことだろ。

 理論は出来上がってるみたいだから、後は実物を作るだけか。


「製造についてはリリに一任する」

「うん! これは私にしか出来ないことだからね。任せて!」

「なら私達は何をすれば?」


 とリディアが尋ねる。

 さすがに特殊兵器を作るのは手伝えないだろうがやることは沢山あるぞ。

 まずはリリが必要とする材料の調達だ。これは最優先事項の一つ。

 探索班の人数を増員しよう。リーダーは今まで通りリディアにお願いすることにした。


 次はラベレ村の強化だ。

 先日リリを恋人に迎えたことにより、新しい力を手に入れた。

 それが遭難者誘導・改。これは一日にラベレ村に到達する遭難者が10人から30人に増えるというものだ。

 今ではラベレ村の人口は1000人を超えている。

 敷地が足りなくなってきたので拡張を考えているくらいだ。


 ちなみに今は人口が増えすぎたため、村の拡張を終えるまで効果をOFFにしている。

 食糧や武器の製造が追い付いていないのだ。


「村の拡張も必須だな。村民が増えるのは嬉しいが受け入れ体勢が整っていない状況では自分達の首を絞めることになりかねない」

「ですよね。調理の人も食材が足りなくなってるって言ってましたし」


 敷地を広げるのは簡単だ。

 壁を伸ばせばいいだけだし。

 でも武器が足りないということは防衛に回せる人数も増やせないということ。

 いくら鉄壁が丈夫だからといっても限界がある。

 しかも最近になって鉄壁が破られるまではいかなかったが、危ない場面も見かけるようになった。

 

「異形の種類も変わってきましたよね。私を襲った猪のような異形も……」

 

 とリディアが呟く。

 そうなんだ。異形も人型に獣型も混じってくるようになった。

 かつて石の櫓を一撃で破壊した異形が現れた。

 それも一体二体どころではない。襲いに来る異形の二割は獣型だ。

 これからは獣型だけじゃなくて違うタイプの異形も現れるかもしれない。

 その対策も取っておかなくちゃな。


「それについては私が」


 今度はシャニが手を上げた。


「弓や槍だけではなく他にも武器を作りましょう。一人一つの武器ではなく、一つの武器を複数人で運用出来ればいいのです」

 

 一つの武器を複数人で? 

 どういうことだろう?


「投石機です。私も図面があれば作れます。リリに設計をお願いしてそれを元に私が組み立てます。弾は石壁を使えばいくらでも用意出来るでしょうから」


 なるほどー。投石機か。

 石のような大質量を持った物質に運動エネルギーを加えて威力を高めるんだ。

 確かにそれがあれば武器不足は賄えるだろうな。


「分かった。シャニは牧畜の仕事もあるだろうが、平行して投石機の製造を始めてくれ」

「はい」


「それじゃやることは決まったな。まずは最優先で村の防衛強化。ダマスカス鋼の槍と弓を増やし投石機も作る。それが終わったら村を広げよう」


 他にも今の内に南側の森の木を切り倒しておかないと。

 異形の巣がある可能性があるのはここから南に進んだところだ。

 村を移動させる能力、XY軸移動は障害物があると使えないしな。


「そしてもう一つ。分かっていると思うが後二週間もすれば大規模襲撃スタンピードがあるはずだ。投石機はそこまでに間に合わせたい。俺も手伝うよ」

「分かりました」


 そう、二週間後の夜には二つの満月が夜空に昇るはずだ。

 大規模襲撃は二回目だな。前回はリディアが襲われるというピンチもあったが、俺達だって戦力は整いつつある。

 今回もきっと勝てるさ。


「さぁ、時間が無いぞ! みんな仕事に向かってくれ!」


 俺の声にリディア達はにっこりと微笑んでくれた。



◇◆◇



☆次のスタンピード大規模襲撃まで残り14日。


☆総配偶者満足度:345021/1000000

リディア:86524/1000000

アーニャ:83324/1000000

シャニ:84652/1000000

リリ:90521/1000000


☆総村民満足:857425/1000000

・総村民数:1005人


☆現在のラベレ村

・鉄壁

・敷地面積:60000㎡



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