◯◯◯◯◯の壁の章
挿話 極秘ミッション! 来人のお気に入りを作れ!☆
リリが来人の恋人になってから二週間後。
彼女は来人と朝を迎えた。
愛する者の隣りで目を覚ます幸せ。
その喜びを噛み締めていたのだが。
「ライト様……」
「アーニャ……」
「ちょっとー!? ずるーい! 私も交ぜてー!」
昨夜はリリの日だったが、なんかアーニャも交ざりたそうな顔をしていたので突如参戦してきたのだ。
そのまま三人で寝ることにしたが、二人は朝からイチャイチャしてるし。
朝から三人でプロレスをすることになった。
戦いを終え、リリはちょっとお冠だ。
「もう、私の日だったのにー」
「うふふ、ごめんなさいね。今度私の日に来てもいいから。それでは私は朝ごはんの準備をしてきますね」
――シュルルッ
アーニャは怒るリリのおでこにキスをしてから、着替えを終え来人の寝室を出ていった。
ちょっと怒ってはいたが、リリはアーニャを羨ましく思う。
(アーニャ姉ってすごくおしとやかだよね。大人の女性って感じ。私もああなりたいな……)
とリリは幼く見える自分の体を見つめる。
自分の体とはいえ、いつ見ても幼女のようだ。
しかし来人はそんなことは気にしない。
彼女達を平等に愛しているのだから。
――ゴロンッ
リリは横になる来人の上に乗り、キスをしながら聞いてみる。
「ねぇ、ライトはアーニャ姉みたいな人が好みなの?」
その問いに来人は笑顔を返す。
「いや、アーニャが好きなのは間違いないけど、それはアーニャだから好きになっただけだよ。別に胸の大きさとか綺麗な顔とかは関係無い」
その言葉を聞いてリリは胸が暖かくなった。
言い方を変えればリリがどんな姿をしていようとも来人は自分を愛してくれているということだから。
しかしリリは少し焦っている。
なぜなら恋人達の中で自分が最も来人と一緒にいた時間が少ないからだ。
来人は愛に差は無いとは言ってくれたものの、自分の中では納得出来ていない部分もある。
なのでリリは来人のために何かしてあげたくなった。
しかし来人は無欲な男である。特に欲しいものは無いと言うのだ。
でもあっちの欲は旺盛なようだが。
来人はそのままリリを抱きしめ、もう一度イチャイチャし始めてしまった。
「だ、駄目だよ。今はライトが欲しいものを聞いてるの」
「んー。今はリリが食べたいかなー」
「もう……。仕方ないなぁ」
とは言うがリリは嬉しくて仕方がない。
戦いを終え、ベッドに横になりながら二人で話していると、来人はこんなことを言ってきた。
「そうだな……。もし出来たらなんだけど、人を駄目にするソファーが欲しいかも」
「何それ?」
ソファーくらいなら村に家具職人がいるし、いくらでも作ってくれる。
だけど人を駄目にするって。
「ライトの世界の家具なの? でも人を駄目にするって……」
天才の呼ばれるリリですら、考えても理解出来ない家具であった。
何でも来人が言うには一度そのソファーに座ってしまえば、その心地よさから中々立つことが出来なくなるらしい。
その不思議なソファーにリリは興味が出てきた。
「分かったよ。少し時間をもらえれば作れるかも。もう少し詳しい話を聞かせて」
「マジで!? さすがはリリだ! 天才!」
王都では神童、天才などの言葉を言われ過ぎており、食傷気味であったが、来人に言われると不思議と心地好い。
リリはベッドを出て自分の工房に向かうのだった。
◇◆◇
工房にて、リリは様々な素材を前に考える。
(ライトの話だと、素材は衝撃を吸収しやすいもの。クッションのように反発性があるものは除外。そして体にフィットする特徴……。ならあれしかない)
――ゴトッ
リリは棚からある素材を取り出す。
水晶だった。
しかも特殊な水晶であり一度溶かしてそれを冷やすと小さな球状になる。
要はビーズのような形で固まるのだ。
しかし大きさにムラがあるので来人の言ったような心地好さは得られないかもしれない。
なのでリリは溶剤として特殊な薬剤を用意する。
これを混ぜれば大きさが均一なビーズが出来上がるはずだ。
その後もリリは実験を続け、そしてようやく納得出来る大きさのビーズを作り出すことに成功した。
それをリリは丈夫な布に詰めて結い合わせる。
後はシーツを被せて完成だ。
――シャリシャリ
ソファーからは軽やかな音が聞こえる。
リリは自分が作り出したソファーにだが、とても気持ち良さそうだったので興味が出てきた。
ということで一度座ってみることに。
――ポフッ シャリッ……
沈みこむ体。心地好い音。そして座った瞬間に訪れる眠気……。
(こ、これは……!? 気持ちいい……。駄目になっちゃいそう……)
すごく気持ち良かった。
成功だ。リリは異世界人ながらも人を駄目にするソファーを作り出したのだ。
(ふふ、ライトはきっと喜んでくれるよね……)
なんてことを考えつつ、リリはとあることを思い付く。
頭の中で計算を始めたのだ。
(この心地好さ。村民全てに出回ったとして村民の八割は駄目になる。一日二時間の労働生産時間が削られるとして村の発展は最低半年は遅れることになる。これは最低でのリスク。もっと酷いことになる可能性が高い)
天才であるが故に人を駄目にするソファーの危険性を察知した。
これは世に出してはいけない。
リリは村のために、この悪魔の発明品をそっと倉庫にしまうのだった。
しかし来人のリクエストに応えられなかったことを悔やむ。
せっかく愛する恋人のために作ったのに、完成したことを言えなかったのだ。
(ライト、がっかりするかなぁ……。でも今はこのソファーの存在を知られるわけにはいかない。みんなのためにも……)
リリは来人にソファーが完成しなかったと嘘の報告をしたのだった。
しかし来人は気にすることなくリリを抱きしめる。
「頑張ってくれてありがとな。その気持ちだけで嬉しいよ」
「ラ、ライトォ……」
「なら今夜はリリを抱き枕にしちゃおうかな?」
「もう……。ライトの馬鹿……」
ほんと馬鹿よね。
しかしこの一件を機に二人の仲はより深まるのであった。
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