第15話 皮の加工

 ――ズズズッ


「やっぱり重いな……」

「も、もうすぐです! 頑張って下さい!」


 森の中を猪を引きずって進む。

 こいつは俺達を襲おうとした猪だが、壁を利用したトラップの前に命を散らすことになった。

 

 せっかく狩った獲物だ。そのまま捨てておくにはもったいない。

 何とか拠点まで持って帰ろうと頑張っているのだ。


「それにしてもライトさんって力持ちなんですね。人族ってそんなに強かったかな……」


 一人で猪を引きずる俺を見てリディアが呟く。

 俺も最初は無理だと思ったのだが、先日リディアの村民満足度が上がったことで俺のステータスも上がったのだ。

 

 確か最初にステータスを確認した時は俺の【力】という項目は5だったが、村民満足度が上がったことで10まで上がった。

 単純に倍の力があるはずだ。

 成人男性の倍の力があれば、猪くらいなら持って帰れる……と思ったが、まだ引きずるのがやっとだな。


 腕時計を見ると午後2時を回ったところだ。

 ようやく俺達は森を出て拠点に戻ってきた。


 猪を離し、ドカッと地面に座る。


「疲れたー……」


 筋力が上がったとはいえ無理するもんじゃないね。

 明日は筋肉痛だろうな。まともに動けるだろうか?


「どうぞ……」

「ありがと」


 リディアがミンゴと茶葉を使ったジュースを用意してくれた。

 俺はそれを一息に飲み干す……。

 ふー、生き返った。


「もう、無茶して。野生の猪は危険な獣なんですよ」

「ははは、ごめんな。でもさ、リディアだって悪いんだぞ。自分が犠牲になって俺を逃がそうとしたろ?」


「そ、それは……。私は弓を使えますし、人を守るよう聖職者としての教えがありましたから」

「人を守りたいってのは俺も同じだ。リディアは大切な仲間だ。だから自分を犠牲にするんじゃなくて、どうすれば一緒に危機を切り抜けられるか考えて欲しい」


 と真剣に伝える。

 もちろん美人ってのもあるが、右も左も分からないこと状況で頼れるのはリディアだけなんだ。

 今彼女を失っては俺も生きる手段が一つ減ることになる。


「わ、分かりました……。そ、それじゃ肉が痛む前に解体しておきますね」

「手伝うよ。何をすればいい?」


 魚をさばくことしか出来ない俺だが、獣の解体も覚えないとな。

 これも生きるための知識だ。

 ウサギは首を落とし、黒曜石のナイフで皮を削いでおく。

 

 うぅ、まだ暖かい。

 これが命を奪うってことなのね。

 腹を裂いて内臓を取り出す。

 モツを食べる文化は無いようなので、拠点の外に捨てることにした。


 ウサギは小さいのですぐに終わったのだが、猪はねぇ……。 

 もうなんかスプラッタ過ぎる光景に参ってしまい、ちょっと気持ち悪くなってしまった。


「リ、リディアさん……。今日はお肉は食べたくありません……」

「ふふ、大丈夫ですよ。今食べても美味しくありませんから。一日血を抜いておく必要があるんです」


 拠点の中にあるミンゴの木にウサギも猪を吊るす。

 やっぱりお肉はスーパーで買うもんだよなぁ。

 首を失った猪とウサギを見て、そんなことを思っていた。

 

 夕食はミンゴを齧るだけで済ませておいた。


 その翌日。解体済みの猪の毛皮を利用して、とあるものを作ろうと思う。

 

「何をするんですか?」


 リディアは興味深そうに寄ってきた。

 

「んー、今は秘密」

「ずるーい。教えてくださいー」


 なんてカップルみたいな会話を楽しむ。

 

「もう、後で教えてくださいね」

「はいよ。リディアは今日は何をするんだ?」


「洗濯です。解体で汚れてしまいましたから。ついでに水浴びをしてこようかな。ライトさんも行きますか?」

「水浴びか。リディアが帰ってきてから行くよ」


「ふふ、一緒でもいいですよ」


 と俺をからかうように笑った後、リディアは川に向かった。

 ついでに俺の服も洗うと、パンツだけを残し半裸に剥かれてしまった。


 さぁ、俺も仕事をするか。

 半裸だけど。

 

【壁!】


 ――ズシャッ


 小さめの壁を利用して工作をする。

 小さいと言っても二メートル四方の枠だけどな。

 剥ぎ取った猪の皮に穴を開け、蔓を使って枠に固定する。

 こうすることで皮が縮むのを防ぐのだ。

 

 次だ。枠を裏返し、皮についている肉片や脂肪を削ぎ落とす。

 これは腐敗防止だな。

 

 黒曜石のナイフを使ってゾリゾリと皮を削っていく。

 ふふ、中々楽しいぞ。割りと地味な作業は好きなんだ。


「なんだか楽しそうですね?」

「リディア? 戻ったのか……。ってリディアさん!?」


 振り向くとリディアがいたのだが、その姿は……。

 下着姿だった。

 ブラはつけていないせいか、キャミソールっぽいシャツにパンツだけとかなり目に毒な格好だ。

 特に上着なんだが、先っぽがツンッて立っている。

 

 見ちゃいけないとは思うのだが、目が離せない。


「もう、ライトさんのエッチ。そんなに見ないでください」


 と言いましてもなぁ。

 いや、むしろリディアは聖職者なんだろ?

 人前で肌を晒すのはどうかと。


「し、仕方ないじゃないですか。着るものは限られてますし」

「だね……」


 これは今後衣服も作ることも考えないと。

 毎回洗濯の度にドキドキしてしまうことになるぞ。


「す、すまん。水浴びに行ってくるよ」


 俺はちょっと前屈みになりつつ、川に向かうのだった。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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