第16話 解析

「言っておくが、ここからは俺も未知の領域だ」


 森の奥。

 緑がどんどん濃くなっていく。

 獣道すら、なくなる。


「……」


「なにがあるかわからない」

「それでもついてくるか?」


「……行くわ」

「きっと私も力になれる」


――――――――――――――――――――


 道中で出会う化物から身を隠しながら、彼らは歩を進める。


「ピー!」


 ムラクモソードが音を出した。

 立ち止まって、確認する。


「VDVを検知しました」

「電磁バリアを発動します」


「……なんだ?」


 聞き慣れない単語ばかりだった。

 妖精は頭を抱える。


「それ、えーと、たしか……」


「……」


「忘れたわ」


「……」


 男は、なにもなかったのかのように歩き出した。


――――――――――――――――――――


「なんか……匂いがきつくなってきてない?」


「そうだな……ひどい匂いだ」


 進むごとに、きつくなっていく。

 鼻を抑えながら草木をかき分けていく。


「なんだ、これ?」


 目の前に現れたのは巨大な建造物。大量の植物に覆われていて、周りに同化しているようにも見える。かなりの年月が経っているのだろう。


「これって……観測所?」


 妖精は、上を見上げながら呟く。


「おい、知ってるのか?」


「お父さんがいろんな場所のデータを解析するために日本中に建てた建物の一つよ」


「行かなきゃいけないか?」


 男は、顔をしかめている。


「ムラクモソードみたいな、当時のモノが残っているかもしれないし……」


「……」


「それに、この中に一際大きなコアが確認できるわ」


「親玉はここかもしれないと……」


「そうね……」


「……行くしかない……か」


――――――――――――――――――――


「おっと!」


 床のコンクリートが抜けた。

 その穴からは、地下の部屋が見える。

 どうやら建物は、下にも続いているようだ。


「気をつけてね」


 きっと辛うじて建っている。

 いつ崩れてもおかしくない。


 さらに、化物もどこに潜んでいるかわからない。


 慎重に進んでいく。


「あ、あれ!」


 妖精が指さした先にあったのは、地図だ。建物の全景を表している。見るだけでもうんざりするような、大きな地図。


「だいぶ……広いな」


 外から見ても、わかってはいた。

 しかし、改めて探索が難しいものであることを実感させられる。


「懐かしいわ」

「ここも、昔来たことがあって……」


 建物の最上階は、三階。

 どこに敵がいるかは、わからない。


「ああ!」


「なんだ、いきなり大声を出すな」


「だって、ヤタミラーがあるのよ!」


「ヤタミラー?」


「とりあえず、行くわよ!」


 妖精は、どこかへ向かい飛んでいく。


「おい!」


 男は、走って追いかける。

 床を踏み抜かないように。


――――――――――――――――――――


「ここよ」


「……」


 部屋に入ると、正面に巨大なモニターがある。

 もっとも、男はモニターなど見たことがなく、なにかも知らない。


「これが電源よ」


 モニターの下には、各種ボタンがついている。

 パソコンのキーボードのように。

 その一つを、妖精が押す。


「おねがい、ついて……」


 妖精が祈る。

 そのときだ。

 モニターが明るくなる。


「ハロー」

「私は解析AIヤタミラーです」


 画面上に、そう文字が表示された。

 同時に、天井のスピーカーからもかすれた声がした。


「やったわ!」


「ご要件はなんでしょうか?」


「親玉はどこにいる?」


 男が尋ねる。


「具体的におっしゃってください」


 親玉では、伝わらなかったようだ。

 妖精が言い換える。


「変異種よ、この近くの」


「それでしたら、あなた方の真後ろ三十メートル先にいます」


「「え……!?」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る