第15話 今後

「で、これからどうするんだ?」


 目的のムラクモソードは、手に入れた。

 次なる目標を決めねばならない。


「ボスよ」


「ボス?」


 聞き覚えのない単語だ。


「奴らの中には、変異種がいるの」

「そいつらは、死体だけでなく生きとし生ける者全てを化物にする」


「……」


 男はしばらく黙り、妖精の言葉を噛みしめる。


「そんなのが世界各地に何体かいるの」

「そして、ここ日本にも」


「日本?」


 男はその名称を知らない。

 今では、使われないからだ。


「ああ、知らないのね」

「千年前、ここはそう呼ばれていたの」


「そうか」


「話を戻すわ」

「その変異種を倒すことができれば、少しはましになるはずよ」


 倒すことができれば。

 それがどれだけ難しいことか。

 彼らの表情を見ればわかる。


「……つまり」


 男が沈黙を打ち破るように、口を開いた。

 妖精もそちらを見る。


「アーシャは俺に掃除をしろと」

「世界中の」


「世界とは言わないわ」


 少し慌てて、言葉を続ける。


「それに、やらなくってもいい」

「私は恨んだりしないわ」

「だって、こんな危険が伴うことを……」


「やってやるよ」


 男は、感情の読み取りにくい声でそう言った。


「え?」


「親父の敵でもあるしな」


「……」


 妖精は、ますます気になってきた。

 先ほども、いや、以前から気になっていた。


「ねぇ、親父さんについて聞いてもいいかしら?」


「……聞きたいのか?」


 鬱陶しそうに聞き返される。


「ええ」


「楽しい話じゃないぞ」


 今度は警告。


「わかったわ」


 妖精の返事からしばらくして。

 男はゆっくりと、しかしとめどなく話し始めた。

 妖精も、それを黙って聞く。


「あれは数年前、俺がまだ子供だったときだ。俺と親父は町に住んでいた。母親は俺が産まれてすぐに亡くなったらしい。子供の俺は、ろくにお金を稼ぐこともできないから、もっぱら親父が仕事をしていた。仕事といっても、この森に来て、奴らを狩ることだがな。なんとかそれで、生活できていた。だが、ある日、どこかの町だか村だかから来た身分の良さそうな奴がこう言った。『大物を倒すのに、付き合ってくれ』とな。もちろん親父はためらっていた。俺も、危険を冒してほしくなかった。しかし、報酬金が馬鹿みたいにあった。俺思いの親父は、そいつらについていってしまった。それからしばらくして、あの銃だけが戻ってきた」


「……」


 妖精は、なにを考えているのか。

 神妙な顔で、うつむいている。


「まあ、その銃ももうないがな」


「ごめんなさい」


 彼女の声は、震えている。


「アーシャが謝る必要はない」

「あれと引き換えに、これを手に入れた」


 男は、テーブルの上の箱を軽く叩く。


「……」


「これ、お前の親父のなんだろ?」

「よかったじゃないか」


「……」


 完全に沈黙した妖精に、男はこう語りかける。


「さて、それじゃあ準備をするか」


「準備?」


「倒しに行くんだろ?」


 男は、妖精の顔を見て、当然のことのように言う。


「でも、なにもそんなに急がなくても!」

「それに、奴らの場所がわからないんじゃ……」


「いや、わかる」


「え?」


 完全に予想外の答えに、驚く妖精。


「あのとき、俺の親父はこの森の奥深くに進んでいった」

「町とは反対方向の、誰も寄りつかない化け物の巣窟だと言われている場所」

「おそらくそこに、奴はいる」


「本当に?」


「絶対とは言えないが、一つ気になることもあるしな」


「なに?」


「この森の化物は、一向に減らない」

「俺が毎日狩っているのに」


 それは、男が昔から考えていた疑問。


「……」


「きっとなにかが関係してるはずだ」

「明日、行ってみよう」

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