第14話 設定
「わかったわ」
解体を終え、しばらく歩いていると妖精がこう切り出した。
「なにがだ?」
「あれはきっと行くときに倒したやつよ」
「それにしては、だいぶ凶悪になっていたが?」
男は信じられないといった声の調子だ。
それに対し、妖精は解説する。
「その、ムラクモソードも言ってたでしょ? きちんと処理をしないと、危険だって」
「ああ」
「死体を残してたから、菌が作用して……」
「なるほどな」
わかったような、そうでないような返事。
「そんなことより、こいつだ」
男は、箱からムラクモソードを取り出した。
「とんでもないものを拾ってしまったぞ」
「私のこと?」
妖精がにやけながら、問いかける。
しかし、男は受け流す。
「それもあるな」
「ちょっとー! どうしてそんなこと言うのよー!」
男は妖精の抗議を話半分に、ムラクモソードのボタンを押す。
「ピー!」
「ムラクモソードの起動には、パスワードを入力してください」
「おかしいな」
男は首を傾げた。
「さっきのは、たまたまだったのかしら」
腕組みをして、さっきの戦闘を思い出す。
「確か、ヤツが近くまで来たときに起動したよな」
「そう……だった?」
妖精は覚えていないようだ。
「パスワードがわからないから……」
「となったら……」
「え?」
「行くぞ」
男は足早にどこかへ向かう。
――――――――――――――――――――
「あれくらいなら大丈夫か」
今まで出会った中では、比較的小柄。
鹿よりも一回り小さい。
しかし、体の至るところに目玉がついている。
そんな化物が少し先にいる。
「ダメよ……! 危ないわ……!」
「しかし、こいつを起動させるためには」
「……本当にできるの?」
「いいから黙ってろ」
忍び寄る。
男が。
まだ気づかれていない。
「ピー!」
「半径五十メートル以内にDAMの生体反応を確認。非常事態として、ムラクモソードが起動します」
「お、起動したか」
しかし、それと同時に化物の目が一斉にこちらを向いた。
どうやら起動音でバレたようだ。
「キィーーー!」
甲高い声を発して、こちらに走ってくる。
「早く! 倒して!」
「いや、待て」
焦る妖精を頭に乗せて、器用に森の木々をかき分けて逃げる男。
なにか考えがあるようだ。
「計測中……」
「どうして倒さないの!」
「……」
ムラクモソードをチラチラ見る。
「計測終了。これよりムラクモソードをパーソナライズします」
場違いに冷静な声が、ムラクモソードから聞こえた。
「追いつかれるわ!」
もうあと数メートルといったところだ。
妖精は目を瞑る。
そのとき。
「おおっ!」
ムラクモソードの刀身が変化した。
以前よりも長く伸び、フォークのように先が割れている。
トライデントとでも呼べる代物になったのだ。
そして、持ち手にはスコープがついている。
「オートエイム機能を使用しますか?」
「オート……エイム……?」
男が疑問に感じている間に、妖精が答える。
「なんでもいいからやっちゃって!」
「ムラクモソードを対象に向けてください」
「こうか!」
男は真後ろに素早く向ける。
「ロックオン」
「発射しますか?」
「ああ!」
「ピーーーー、ズドーン!!!」
凄まじい爆発音がした。
後ろを向かなくともわかるほど強烈な赤い光があたりを包む。
「うわぁ……」
振り向いた妖精は、言葉を失った。
化物に開けた風穴は、男の持っていた銃よりも小さい。しかし、威力は絶大。的確にコアを貫いているからだ。
「これで安心だな」
男は額の汗を拭う。
役割を終えたムラクモソードはこう告げる。
「コアの消失を確認。スリープモードに……」
「待って!」
慌てて呼び止める妖精。
「……なにかご要件が?」
驚くべきことに、ムラクモソードは返事をする。
「パスワードをなくして」
妖精の考えは、わからなくもない。
このままでは、起動の際にいちいち危険を冒さなければならないからだ。
しかし、ムラクモソードの答えも至極まともだ。
「それはできかねます。セキュリティ上、大変危険です」
「へ、変更はできないの?」
食い下がる妖精。
すると、予想外の答え。
「はい、可能です」
「以前のパスワードをお忘れですか?」
「う〜ん、まあ、そんなところね」
「新しいパスワードはなんになさいますか?」
「そこまで考えてなかったわ……」
ここまで来て、迷う妖精。
「あなたはなにか、案がないの?」
「私は戦闘支援AIです。そのようなことには……」
「そんなこと言わずに決めてちょうだい」
「私は戦闘支援……」
武器に無理強いする妖精。
それに見かねて、黙って聞いていた男が口を開いた。
「バーナード」
「え?」
「ダメか?」
「問題ありません」
「設定完了です」
それだけ告げると、剣は再び沈黙した。
「ねぇ、バーナードってなによ?」
「俺の親父の名だ」
「……」
妖精は、黙り込んだ。
なにか、触れてはいけないことに触れた気がしたからだ。
男は気にせず、解体を始める。
「さぁ、帰るぞ」
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