第13話 起動

「それじゃあ、帰る」


 翌朝早く、男は家を出る。


「ええ〜、もう帰るのかい? もっと泊まっていってもいいんだよ?」


「俺はあそこが落ち着く」


「そっかぁ……」


 好青年は諦めたようだ。


「また僕に会いに来てね〜!」


「ああ」


 男は森に向かって、歩き出す。


――――――――――――――――――――


「おい、起きろ」


 男はまだ眠っている妖精を起こす。

 どうしても起きないので、寝たまま頭に載せてきたのだ。


「ふにゃ?」


「もうすぐ門だ」


 思えばこの帽子は借り物だ。


「これ、ありがとな」


 男は門番に帽子を返す。


「どういたしまして。気をつけるんだよ〜」


 門番の言葉を背中で聞いて、森の闇に足を踏み入れる。


「あれ、銃は?」


 門番がそう言ったときには、もう姿が見えなくなっていた。


――――――――――――――――――――


 深い森の中。

 異形のものがはびこる森の中。

 どこか不穏な森の中。


「グゲェーーーーーーーーーーーー!」


 甲高い、耳をつんざくような叫びが森の静寂を打ち破る。

 森の暗闇に慣れてきた目を凝らすと遠くになにかが見える。


「あいつは……」


 来るときに仕留めた化物だ。

 ただ、姿形が変わっている。

 まるで先日仕留めた熊が化物になったときのように。


「なぜだ?」


「倒したはずよね?」


 確実にコアを撃ち抜いたはず。

 蘇るはずがない。


「まずいな」


 銃なき今、男は隠れることしかできない。

 弓はあるが、焼け石に水だ。

 こんなものは、そこらの獣にしか効かない。


「あいつ、こっちに来てるわよ」


「ますますまずいな」


 最初に見たときよりも禍々しくなっている化物はゆっくりとこちらに歩み寄る。

 まだ気づいてはなさそうだが。


「このままだとバレるぞ」


「でも、弱点もわかるわよ」


「そうだな……」


 男は来たときとは違い、少し苦しげな顔。


「グオ! ガー!!」


 気づかれた。

 巨体が木をなぎ倒しながら迫りくる。


 しかし、妖精は冷静だ。

 男のように。


「そこよ!」


 以前とは違う位置にあるコアを指し示す。


「どうだ」


 男は矢を放った。

 一直線に飛んでいき、刺さる。


「グアー!!」


「なに!」


 だが、足が止まらない。

 矢を受けてもなお向かってくる。

 やはりあの銃でなければ倒せないのだ。


「もうダメだわ!」


 妖精が目をつぶる。

 男ももはや逃げもせずに箱を抱えて立ち尽くす。


「ピー!」


 そんなとき、箱から聞き覚えのある電子音がした。


「半径五十メートル以内にDAMの生体反応を確認。非常事態として、ムラクモソードが起動します」


「なんだ!?」


 男が箱を開けると、そこにある棒は光り輝いていた。


「ムラクモソードを持ってください」


 言われたとおり、手に持つ。


「データ計測中、しばらくお待ち下さい」


「ゴガー!!」


 もうあと数十メートルだ。


「早くしなさいよ!」


「了解しました。ムラクモソードのパーソナライズを一時中断します。汎用モードで使用しますか?」


「なんでもいいからなんとかして!」


「了解しました。ムラクモソード起動。こちらは汎用モードです。一般的には……」


「ギャー!」


 化物……ではなく切羽詰まった妖精が下品な悲鳴を上げる。

 それもそのはず、もう目前にいるのだから。

 このまま潰されておしまいかと思ったその時だ。


「うおっ!」


 男の手の中の剣が勝手に動く。

 先端からは、まっすぐに閃光が伸びている。

 それに釣られて、男も動く。

 というか、動かされる。


「……このように、DAMのコアをスキャン、さらに超高密度レーザーを使用することにより、一撃で破壊することができます」


「ガ……ア……」


 的確に急所を貫いたムラクモソード。

 化物は即座に絶命した。


「DAMの消失を確認。ムラクモソードは休眠モードに移行します」


「「……」」


 二人はあっけにとられている。


「ピー!」

「ムラクモソードを専用ケースに戻してください」


「あ、ああ」


 男は我に返り、すでに光を失っているムラクモソードを箱に放り込む。


「すごいわ、それ」


「そうだな」


 男は適当な相槌を打って、歩き出した。

 化物の死体を踏み越えて。


「ピピピ!」


「今度はなんだ?」


「DAMの死体を放置することは、次の個体の発生に繋がり、大変危険です。今すぐに解体などを行い、発生を防ぐことを推奨します」


「解体か……忘れていた」


 男はナイフを取り出して、解体を始めた。

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