第10話 図書館

「ここが図書館だよ」


 好青年が大きな建物に二人を連れて行く。その高さは見上げるほどで、周りの民家の何倍もありそうだ。威圧感すら感じさせる。


「さあ、入ろう」


 入口をくぐると、中は何階だてにも分けられていて、いくつもの本棚が並んでいる。


「こんなにあるのか」


 若干呆れ気味な男。


「そうだよ〜」


「大変だわ」


「うん、まずはここの人に訊いてみよう」


 好青年は近くにいた司書を捕まえる。


「すみません、ここにムラクモソードについての本はありますか?」


「ムラクモ……ソード?」


 顔を見るに、知らないようだ。


「ここにある一番古い本を訊いてちょうだい」


「ここで一番古い本はなんだ」


「ええと……五百年前の歴史書ですね」


「五百か……」


 妖精が生まれたのは、千年前。

 どうやらここには求めているものはなさそうだ。


「帰るか」


「お力になれず、申し訳ございません」


 本当に申し訳無さそうに、頭を下げる司書。


「いえいえ、いいんですよ」


「古い本をお探しなら、骨董品店はどうでしょう?」


「骨董品店?」


 これまた馴染みがない名前。

 一堂首を傾げる。


「たまに昔の人間が使っていたモノが売られています」


「ほう」


「古い本もあるかもしれません」


 骨董品店なのだから、そうだろう。

 千年前のものもあるかもしれない。


「そうですか」


「どこにあるんだ?」


 どうやら男は本当に知らないようだ。


「この町では……ここから二百メートル行って、右に曲がるとありますよ」


 司書は、親切にも教えてくれた。


「ありがとう」


「感謝するわ」


「どういたしまして」


――――――――――――――――――――


「ここ……かな?」


「そうだな」


 一言で言えば、ボロい建物。古さだけなら図書館よりも年代物に見える。店前に出ている看板には確かに「骨董品店」と書かれているのでここで間違いないだろう。


「こんにちはー……」


 好青年は少し脅えながら入る。


「誰もいないのか?」


 中には大量の壺や置物、それからよくわからない代物が所狭しと並んでいる。


「誰だ」


 薄暗い部屋に低い声が響いた。


「うわ!」


 好青年の近くにあった彫刻が動き出す。

 どうやら店主だったようだ。


「僕達、買い物に来たんです」


「ふん、好きにしろ」


 店主はそっけなく返す。


「わかりました……」


 まずは店をぐるりと見渡す二人。

 しかし、どうも本なんてありはしない。


「う〜ん」


「……」


 来たからには、とりあえず物色するが。


「そろそろ……」


 帰るか、と言いかけたときだ。


「あ、あれ!」


 妖精が叫ぶ。


「ん?」


「奥の棚の一番上!」


 誰も触れないからか、ホコリが厚く積もっている。


「黒い箱!」


 よく見ると、漆黒の箱が置かれていた。


「あれがどうした」


「大事なモノなの……お願い」


「……」


 しばし黙って、考える男。


「ガザル、もう帰ろうか」


「おい」


 男はいつもの調子で店主に声をかけた。


「あれを売ってくれ」


 先ほどの箱を指差す。


「あ〜、あれか」

「あれはここで一番古いな」


 案の定、長いときを経たもののようだ。


「売るなら、三万だな」


「三万?」


 男はあまりの値段に驚く。

 三万というのは、男の食費一ヵ月分。

 その日暮らしの男には貯金もない。


「なんだ、ないのか」

「それなら帰った」


 そう言って、店主は再び椅子に座り込んだ。もうなにも話してくれそうにない。


「……」


「か、帰ろうか」


 押し黙る男を店の外まで引っ張る好青年。


「昨日の稼ぎがあるだろ?」


 昨日の熊はあのあとすぐ売った。

 状態が良かったので、高値がついた。

 しかし、そうはいっても。


「あれだって、一万だ」


 足りない。


「あとは、コツコツと……」


「そうだな」


「あ、おい。ガザル!」


 男は好青年を置いて、走り去っていった。

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