第11話 大切なもの
男の足が止まる。
着いたのは、古びた家。
建物としては、骨董品店より新しい印象を受ける。
が、扉が外れていたり、外壁がボロボロになっている。
「ここは俺の親父が亡くなるまで使っていた家だ」
主なき今は空き家になっている。
その中に入っていく。
「俺が出ていってからは、空き巣が立ち寄ってひどい荒れ様だがな」
中は、ガランとしていた。
男が言うように、空き巣が何もかも持っていったのかもしれない。
「どうして……あなたはここに住まないの?」
妖精の疑問は至極まっとうだ。
あんな森に住むよりも、この町中に住む方が便利で安全だ。
「人と付き合うぐらいなら、化け物と付き合う方がまだましだ」
その言い方は、明らかに何かを隠していた。
しかし、妖精もそれを察してあえて訊かなかった。
「よし、ここだ」
男がなにかの部屋の扉を開ける。
「うっ……!」
そこはトイレだった。
妖精がうめき声を上げるほど、ひどい臭いを放つ。
「ここは、まだキレイだな」
さすがにトイレまでは空き巣も手を付けなかったようで、便器もそのままだ。
「なにするのよ……!?」
まさかトイレをするためにここに来たわけではあるまい。
「実はな、ここの壁」
便器の奥の壁に手をつく男。
「よっ」
力を込めると、回転する。
奥には隠し部屋がある。
「動くんだよ」
「す、すごいわ!」
中に入ると、そこには小さな棚がある。
「大事なものは、全部ここに隠してある」
「でも、ここに何しに来たの?」
突然ここに来た理由とは。
「売りに行く」
「え、大事なもの何じゃないの!?」
もちろん妖精は驚いた。
こうまでして隠しているのに、あっさりと売ってもいいのかと思ったはずだ。
「そうだが、俺はいつか手放す覚悟もしていた」
「……」
「お前の大事なものが手に入るんなら、コイツラも満足だろう」
すっかり黙ってしまった妖精。
男はそれに構わず、家に隠していた売れそうなものを持ち、家を出た。
――――――――――――――――――――
「これだけあれば、アレをやらんこともないな」
骨董品店の主人は、鑑定を終えて、そう呟く。
「だが、まだ足りん」
「そんな……」
これ以上、売るものはない。
妖精が悲痛な声をあげたときだ。
「その銃を売るなら、考えてもやってもいいぞ」
店主の目がギラリと輝く。
狙いははなからこれだったのかもしれない。
「これは……俺の……」
打って変わって、男の顔に困惑が現れる。
「嫌か? それじゃあ、売れんな」
「くっ……!」
男の顔が歪んだ。
どうやらこれだけは譲れないようだ。
「……いいのよ。無理しなくて」
妖精は見かねて、そう語りかけた。
「早く決めたらどうだ?」
「俺は……」
男は震える手で、銃を下ろす。
「……これもやるよ」
「うむ、交渉成立だな」
妖精は、執拗に男の銃を欲しがる店主を憎らしげに睨んだ。帽子の中から。
「ほら、持っていけ」
店主が放り投げた箱をすかさず受け止める。その衝撃でホコリが舞った。
「ゴホッゴホッ……なんてやつだ」
捨て台詞に近い言葉を吐いて、店を出た。
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