第8話 獣狩り

「いや〜、珍しいね」


 男が来た方とは反対……とはいうものの、こちらにも森が広がっている。しかし、そう深くはない。木漏れ日がキラキラ差し込んで、全体的に輝いている。


「ガザルがギルドに来るなんてさ。それも一人で」


「……」


 男は不機嫌そうに黙っている。


「でも、僕は昔を思い出して楽しいよ」


「昔か……」


 なにかありそうな雰囲気。

 しかし、好青年は楽しそうに話し続ける。


「それで、どうしてギルドに……」


「いるな」


「いる? なにが?」


 男は問いかけには答えず、弓を構える。


「あ! 本当だ!」


 好青年は遅れて気づく。

 そう、遠くには漆黒の毛並みを持つ一匹の熊がいる。こちらには気づいていないようで、ウロウロしながら食べ物を探している。


「ガザル、君は……」


「ヒュ!」


 風切り音がする。


「おー! すごい!!」


 ガザルの放った矢は脳天に直撃し、熊は断末魔もあげず倒れる。


「すごいわ!」

「あんなに大きいのに!!」


 帽子の中からも歓声が聞こえる。


「うんうん、僕もそう思うよ」

「ガザルの腕は衰えてないみたいだね」


 深くうなずいて賛同する好青年の様子から、男の狩りの腕は以前から熟達していたことが伺える。


「昨日もこんなに大きな鹿を……」


 妖精が勢い良く帽子から飛び出して、自慢げに大きく手を広げる。


「え?」


 好青年が目を丸くして、妖精を見つめる。


「あ」


 妖精がなにかに気づいた。


「おい」


 男も妖精を見る。


 三者が硬直して、刹那沈黙が流れる。


「グオー!!!」


 それを打ち破る、森の木々を震わせる叫び。


「なんだ!?」


 男が声の方を向くと、そこには今しがた仕留めた熊……よりも一回り大きい熊が。


「別の熊ね!」


「いや、違うよ」

「額を見てごらん」


 そこには先ほど刺さった矢が。


「アイツは熊じゃないな」


「オオオオォォー!!」


 気が狂ったように虚ろな目で、木をなぎ倒しながら迫りくる巨体。


「アーシャ、コアは?」


 しかし、男は変わらず冷静。


「コア?」


 まだ状況がよくわかっておらず、首をかしげる妖精。


「アイツは化け物なんだよ!」


 銃を構える男の横に立つ好青年は少し焦っている。


「あぁ!」


 やっとわかったようだ。


「見えたわ!」

「胸にある模様のところよ!!」


 その鋭い爪を振るうために、片手を上げた熊の胸には白い模様がある。


「ズドォン!!!」


「グオ……!」


 熊の巨体は、フラフラと揺れる。


「倒れるぞ!」


 急いで距離を取る。

 すると、次の瞬間大地が揺れる。


「こいつ……化け物にしては上物だな」


「なんでだろうね」


 毛皮を剥ぎながら不思議がる二人に妖精が目をつぶって答える。


「さ、さっきなったんじゃない?」


「さっき?」


「あなたには言ったでしょ。アイツラは特殊な病原菌を持っていて、死体を同じ化け物にするのよ。きっとあの熊はどこかで菌をもらってたんだわ。だから、死ぬと同時に化け物になったのよ」


「へ〜、よく知ってるね」


 好青年は感心しながら妖精を仰ぎ見る。


「ところで……君は誰だい?」


「こいつは……」


「アーシャよ」


 食い気味に名乗る。

 きっとこいつと呼ばれたのが気に食わなかったからだ。


「見たところ、普通の人間じゃないみたいだね」


「私は……」

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