第6話 出発
「ガシャ!」
大きな音をたてて、銃に弾を込める。
「それは……?」
「親父の形見だ」
「古い型だが、使いやすい」
妖精には、それが銃であることしかわからない。軍人でも、専門家でもないのだから当然だ。ただ一つわかるのは、それが一般的なイメージよりも大きいことだ。
「よいしょ」
男は自分の身長よりも大きな銃を肩に担いだ。腰には弓を携えている。
妖精は単純に気になったので訊いてみる。
「その……銃と弓は使い分けてるの?」
鹿を取りに行ったときは弓だった。
きっとそうだろう。
「ああ」
「獣を狩るときは弓だ」
「どうして?」
「こんなバカでかい銃で仕留めたら、バラバラになって食うところがなくなるぞ」
「うげ……」
妖精が顔をしかめた。
そろそろ男には、妖精がこの手の話を苦手としていることに気づいてほしい。
「これはアイツラ専用だ」
「親父もそう言ってた」
また親父だ。
「あなたのお父さんはどんな人だったの?」
「……」
男は質問に答えずに、ドアを開けた。
「行くぞ」
「あっ! 待ってー!」
――――――――――――――――――――
「ねぇ!」
無言で獣道を歩く男。
妖精はその後ろを飛びながら声をかけた。
「あなたは……」
「静かにしろ」
押し殺した声。
いつもより、数倍低く聞こえる。
「へ?」
「ヤツラは音でも寄ってくる」
どうやら警戒しているようだ。
「でも、そのときはあなたが……」
「弾にだって、限りがある」
「……」
それきり、妖精は黙ってしまった。
――――――――――――――――――――
「……いるな」
男が小声で呟いた。
「え?」
妖精が目を凝らすと、はるか百メートルほど先になにやら森の木々とはまったく異色なうごめくなにかがいるのが見えた。
「どうするの?」
「やるしかない」
「迂回するのは……」
「この深い森で僅かな道を外れて、戻れる自身があるか?」
「……」
妖精が沈黙している間に、男は銃を構えた。スコープを覗き込む。
「待って」
「なんだ」
「かわいそうだとでも言うのか?」
「違うわ」
「それじゃあ……」
「もう少し近くに行けば、コアの位置がわかるわ」
男はその言葉に驚き、スコープから目を離し、妖精をじっと見据える。
「私にはわかるのよ」
「そういえば、昨日も……」
「ええ、そうよ」
「ただ、昨日のアレ。動きを止めるやつは今日はできないわ」
「そうか」
男はあえて、深い理由を聞かなかった。
「もう少し、近づいてくれるかしら」
いくら敵の弱点がわかるとはいえ、近づくのはあまりにもリスキーだった。
しかし、男は覚悟を決めているようで、ゆっくりと歩み寄っていく。
――――――――――――――――――――
「……あともう少し」
蚊の鳴くような声で妖精が言ったときだった。
化け物の首が突然こちらを向いた。
妖精の声が聞こえたからか?
それとも、野生の勘か?
「グゲェー!!!」
鳥類を思わせる、甲高い声が森に響いた。
そいつは明らかに必要以上に生えている脚を気味悪く動かしながら、高速でこちらに駆けてくる。
「おい!」
瞬く間に距離を詰めてくる化け物とは対照的に、二人は硬直していた。
恐怖で動けないわけではない。
「わかった!」
「右の羽よ!!」
怪物が一歩歩くたびに左右の羽が揺れる。
それに慎重に狙いを定める。
「ズドォン!!!」
弾丸は正確にコアを貫いた。
「カ……!」
小さな断末魔を残して、怪物は地面に倒れる。
「危なかったわね」
「……」
男は黙って、歩き出した。
今撃ち抜いた怪物の死体を避けて、道を進む。
「ちょっと! あれどうすんのよ!」
「今日はそんな暇はない」
「町に行くんだろ?」
「そう……ね」
急がなければ、日が暮れる。
妖精もそれをわかっていたので、黙ってついていく。
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