第111話 思惑を超えて
僕は今、魔国で魔族の人達からグロリオーサの船の状況を聞いていた。予め用意していた薬品により食料と船底の腐敗が進行し、浸水し始めているようだ。それによって偉そうな人が地団駄を踏んでいたらしいけど…そろそろやばいかな?
流れ人同士の戦いは臨時メンテによって相手側の不正が修正され、僕達が上空から投下しているデバフによって一気に王国側が優勢になった。飲み物として無効化薬を出発前に飲ませていたんだけど、最初は疑問に思っていた流れ人達であったが相手側を圧倒出来るようになると習慣として出発前に自主的に飲むようになった。
こうなってくるともう終盤というか終わりが見えてきているな…日数もあと2日しかないし仕掛けて来るなら今日中か…?準備は上々、仕掛けもきちんと発動したし退避かな?
「それじゃあ皆さん、避難先に移動しましょうか。今日中にでも相手が動くと思いますので。」
「そうですな。一方的に相手をいたぶるのは性に合いませんでしたがこれも国のため…」
「もう!今更魔族の気質を出さなくてもいいじゃない。ワタリくん、これで大丈夫よね?国は平気よね?」
夢魔のお姉さんが必死な顔をして聞いてくる。
「きちんと確約してもらっています。一度島はなくなる可能性がありますがロールバック…状態を戻してもらえます。神託を授ける存在が手を出した場合という条件ですが…相当相手も冠に来ているようなので確実でしょう。」
僕がそう答えると安心したのかホッと息を吐いた。
「よかった…それじゃ一刻も早く戻りましょ!流石に死んだ存在まで戻してはくれないでしょうし。」
リッチのお爺さん?と夢魔のお姉さんが部隊を引き上げ次々と転移していく。これで準備は終わったね。それにしても…AI管理者さんからのリーク情報では主犯とお供の2人か。イベント前のメンテナンスから有給を取っていたらしいけどゲーム内にいるのが確認され、不正を行っていたことからすでに補填や2名の処分について話し合われているみたい。
まぁ…不正を行っていたグロリオーサ側は敗戦側だから補填をしなくてもいいだろうって流れになりそうだったけど、管理者さんが僕の行動をきちんと言ってくれて処分待ちの2名がやらかした場合に対処してくれるって事になったんだよね。バランス取りをユーザーに任せるのは運営としてどうなんだろうってなるもんなぁ。
自分の思い通りにならなかったらどうするかは運営サイドも予測しているだろうし僕も撤退して高みの見物といこうかな。
「ちっ!どういうことだこれは!」
「いやぁ俺にもわかりませんって…てかあれだけ支援したのに負けるとかどうなってんだ…」
「君ぃ、大丈夫だって自信満々に言っていたじゃないか。どうするつもりだ!この責任は戻ったらとってもらうからな!」
「そ、そんな!?俺のせいじゃないっすよ…流れ人が状況を生かせなかっただけじゃないですか…」
「ったく…どうすっかなぁこの状況。」
2人を疑惑の目で眺めていた現地人達はひそひそと話していた。
「なぁ…ほんとにあの人ら神様なのか…?」
「俺達に把握できていないことも知っているから神様だとおもうけど…」
「あんだけ歓待しておいて負けて帰りましたじゃ教皇は納得しないぞ…?」
その声が波紋を呼び船員全員から批難の目を2人は向けられていた。
「どうしましょチーフ…なんか無事に帰してくれる気しないんですが…」
「いざとなったらログアウトすればいいんじゃね?ま、神様を疑うなら圧倒的な力を見せつければ黙るっしょ?」
「長い物には巻かれるのが人ってもんですし問題ないと思います…」
「島が見える所まで来ているしやっちゃいますか。」
「お、チーフ。あれをするんですか!?俺、すっごく楽しみにしてたんですよ!」
「ド派手なエフェクトにしといたぞ!流れ人達に知られていないのは残念だが現地人には衝撃的だろうな!島が跡形もなく消えるということはな!」
「流石チーフ、悪役が似合いますねぇ!俺、ずっとついて行きますよ!」
「ふっふっふ、そうだろ!よっしゃいくぞー!」
チーフは手を上に掲げた。魔族の島の上空には暗い雲で覆われ、次の瞬間…
轟音とともに光の奔流が降り注いでいた。
「うっは!チーフ、これは派手っすなぁ!」
眼前に広がる光の柱を見ていた船員達は度肝を抜かれ尻もちをついていた。
「これが神の力…この世のものとは思えない恐ろしさだな…」
「やべぇ…俺達さっきまで疑っていたし無事で済むのか…?」
そんな状況の船員達を冷めた目でチーフは見ていた。
「島も消せたみたいだし問題なさそうだな。それじゃ俺達も戻るか。」
「チーフ、もう戻るんで?」
「これ以上ここにいても仕方ないからな。やりたいこともやったし。」
「確かにそうですね。それじゃログアウトしますか、管理者権限で体がこっちに残らないからどこでもログアウトして問題ないのは助かりますな。」
そんな二人を呼び止める声がした。
「あ、あの…俺達は街まで送ってもらえるんでしょうか?」
「食料もなく船もこんな状況じゃ戻ることも出来そうにないんですが…」
チーフはめんどくさそうにして答えた。
「自分達でなんとかするんだな。さっきまで俺達を疑っていたくせに都合のいいこと言うな。」
「ほんとほんと!泳いで帰るんだ!」
そう言って2人の姿は徐々に消えていった。あとには茫然自失とした船員達が残っていた。
「ふぅ…久しぶりに現実に戻って来たなぁ。」
「あ、チーフも戻ってきましたね!見ましたか?あいつらの顔!すっごく絶望していましたね!」
「あれは見物だったな!よっし、打ち上げにでも行こうぜ!」
「どこに行こうとしているんですか?あなた達の行く場所はすでに決まっていますよ?」
打ち上げに行こうとしていた2人を呼び止める声がした。
「誰っすかこの人?ってチーフどうしました?」
「しゃ、しゃ…社長!?ど、どうしてここに!?」
「え、この人社長なんです!?こんなどこにでもいそうなおっさんが!?」
2人の話を聞いていた社長は青筋を浮かべてわなわなと震えていた。
「あなた達に処分を言い渡します。ゲームの著しいチート、改造行為により社の信用や風評に被害を与えたばかりか仕事を放りだしゲーム内に入り浸るというVRの連続使用時間の無視。警察は呼んでおきましたので後はお任せします。」
「な!?社長どういうことですか!?」
「言ったでしょう?あなた達の行動ログは全て確認しました。VR業界に大きな影を落とす可能性があったことから私が動きました。」
「っち!もはやここまでか…」
「社長!俺はチーフに言われてやっていたので無罪放免ってわけには…いかないですね、はい…」
すべての悪事が暴かれていたため、抵抗しても無駄と思い2人はおとなしく警察に連れていかれた。
「ふぅ…まさか運営を任せていたものがこうも暴挙にでるとは…君から知らされていなかったら気づかなかったよ、ありがとう。」
「いえ…私よりも早く気づいた彼に言ってあげてください。私はそれをただ伝えただけですので。」
「そうか…たしか彼の望みは2名のやらかした消去を戻して欲しいことだったか。」
「そうですね。ほんとにあの2人が魔族の国を消すとは…深読みしすぎ、とは今更言えませんね…ここまでくると予知に思えてしまいます。」
「それだけあの世界のAI達と絆を結んでいたということだろう。」
「そうだと開発した側としても嬉しいです。」
「彼の望みはイベントが終了したあとのメンテナンスで実行するとしよう。そう伝えてくれないかな?」
「分かりました。」
そう言い、2人も解散した。今回のイベントは王国側の勝利で終わる。ただ、その裏では戦いに巻き込まれた者達、抗った者がいたことは公表されないだろう。目立つ事を嫌い、自分達の周りの人達の幸せのために戦った者がいることを…
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