第110話 暗躍が相手にバレているのはどういう気持ち

戦況は一致団結した王国側にすぐに傾くと思われたが拮抗していた。理由としては相手側の修理素材に余裕がなかったため、慎重な航海に切り替えたからだ。そんな状況でも均衡を保っているグロリオーサ側の流れ人は流石攻略組と言えるだろう。



 魔国に向けて出発した船団の中に一際大きな船がある。そこには上品な服に身を包んだ2人組が貴賓室で話していた。


「船旅って暇だねぇ、憧れはあったけどこれは飽きるわ。」


「ずっと同じ景色ですもんね、最初のころはすげーってなっていたけどVRじゃなきゃ絶対船酔いしてましたよこれ。」


「こんな世界の船上でなにを楽しめばいいんだろか。君、あとでユーザーから船に関する意見をピックアップしといて。」


「了解ですチーフ!まぁ、このイベント終わってからで大丈夫っしょ。当分流れ人には船使えませんし入手するクエストも難易度高く設定してますからね!」


「ま、問題ないだろうなそれで。んで、イベントの状況って把握してる?」


「ログアウトして確認してませんが戦況はゲーム内からもできますね。今のところ拮抗状態です。」


「は?なんで拮抗してるの?圧倒的に勝つ要素しかないだろ?」


「ログアウトしていないから詳しいことは分かりませんって…今戻ったら遊んでた分の仕事に忙殺されちゃいますし。」


「君の仕事はイベントが終わってログアウトした時に今までの3倍振り分けるように言っとくな。」


「さ、3倍!?8時間労働でも終わらない仕事が3倍ってどうすれば!?だ、大丈夫ですよ!こっち側が不利になった時点で発動するバフが流れ人にかかってるんで負ける要素はないですって!」


「あー、君の設定した身体能力2倍だっけか。それなら問題ないな。やり過ぎたら他のやつらにバレるだろうが2倍くらいなら調子がいいとかで済むだろう。数値で管理出来ないのはこういう時助かるよな。」


「ほんとそうですよね!分からないように仕込めるのは楽すぎますって!この船のスピードも上げたいくらいなんですよねー。」


「俺らだけならどうとでもなるが、建前上あいつらに襲ってもらわんといけないからな。俺たちゃ御輿としてのんびりしようぜー。」


「それに飽きてきてるんですが…まぁ、仕事から解放されて気楽ではありますけど。」


「戦況が圧倒的に不利になったら俺達に分かるようにしてあるし、そしたら俺達の力で魔族を滅ぼせばいいっしょ。なーに簡単なことさ。」


「負けそうになったら圧倒的な力で滅ぼす!チーフもワルっすなぁ。イベント自体も流れ人用にポイント表示をしてグロリオーサVSルクリアになっていますが実際は魔国との戦争で、勝利条件は殲滅もしくは防衛ですもんね!ポイントなんて飾りっすわ!」


「それそれ!ま、流れ人も戦う場を整えてやれば動くってことさ!そこには個人の点数しか興味がないやつらしかいないってなる。グロリオーサが圧倒的に負けてたら流石におかしいことになるから君の仕込んだバフは助かるねぇ。」


「でしょでしょ!俺ってば役に立つんですって!だからもうちょい休みがほしいなぁって…」


「ずっと休んでいてもいいぞ?給料はでないけど。」


「…それじゃ意味がないんでやめときます…」


 2人を乗せた船は現在、グロリオーサと魔国の中間地点まできていた。その船を海底や空から眺める一団に気づかずに…



 

 お、連絡が来たか。ふむふむ…無警戒に航海しているとな?ただ、ここで攻撃して大打撃を与えてしまうと人知れずに魔国が消されるだけになってしまうよな…流れ人達がなんで勝った?っていう状況にならないと詮索もしないだろうし。現状維持してもらうしかないか…みなもちゃんからの連絡では一致団結しているみたいだからもっと戦況が良くなっててもおかしくないんだけど…数の有利もあるし素材もあるし。


 これってきっとなにかグロリオーサ側に介入している気がする…一応、不正ってことでAI担当者さんに報告しておくのと、みなもちゃんにおかしいってことを伝えとくかな。こういう小さな綻びをつつく事で相手に大打撃を与えられると思うし。なにか強化がかかっているなら打ち消してもらえるといいんだけど…


「ワタリ、どうしたの難しい顔をして。」


「あ、テオさん…戦況がこちらに有利になるかと思ったけど意外とそうじゃなかった事にちょっと不安になって…」


「まぁなにか一手で戦況が変わるってこともあるから難しく考えなくてもいいと思うよ?」


 そうなんだけど…僕に出来ることってあと他になにかあるかな…あっ


「テオさん、身体強化や魔力増加の薬ってこの世界にあります?多分、グロリオーサ側の流れ人には強化バフがかかっていると思われるんです。」


「んー…強化ねぇ…夜の強化なら滋養強壮系であるけど、装備品についている付与以外はないかも?」


 そうなのか…薬師や錬金術っていったら強化系の物を作れるかなって思ったけどだめか…


「相手の強化状態を何とか出来ればいいんだけど…難しいかぁ…」


 僕が呟くとテオは何か思い当たったのか教えてくれた。


「強化は無理だけど弱体化や無効化はあるよ?ただ、外から強化されている状態に効果があるか分からないけど…」


 ほうほう…基礎ステータスに見えない値がプラスされていた場合は無効化は無理だけど弱体化は効果あるよね。無敵にすると不自然だろうからデバフなどは流石に効くとだろうし…


「弱体化は大丈夫だと思う…ただ、全体に効果があると王国側の流れ人にも影響でちゃうなぁって思って。」


「それなら無効化薬を飲むようにしてくれたら大丈夫だよ!まぁ効果時間が8時間だから出航前に服用してもらうようにかな。」


「そっか、そうしてもらおうかな!相手に弱体化させるのは海戦時にしておけば8時間はこちらの有利に働くよね!あとは…在庫が足らなくなりそうなら作らないとだね…」


 僕はまた薬づくりに忙殺されるのかと思うと憂鬱だ…


「あはは!大丈夫だよ!在庫はいっぱいあるから残りの日数は持つよ!錬金術師はノルマとして作っているけど使う人いなかったからねぇ…便利なんだけど、素材の質が下がっちゃうからね。」


 あー…弱体化って素材レベルで下がっちゃうってことなのか。それはこの世界の人達は使わないだろうなぁ…ダンジョンでも素材は生計を立てるためにも必要だし。


「そ、そっかよかった…」


「まぁワタリも一人前の錬金術師になるには知識が足りてないから頑張ってもらわないとだね!その時はビシバシいくからねー!」


 テオのビシバシは不安しか残らないんだけど!僕、大丈夫かなぁ…

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