第109話 海戦!

 戦闘海域ではグロリオーサ、ルクリア各国に所属する流れ人が入り乱れて戦闘を行っていた。現在、5か所ある防衛ポイントはグロリオーサ3、ルクリア2という状況で推移していた。


「あーくそっ!中央の島がとれねぇ!あそこを取られていると人を回すことも難しいな!」


「いや、人数は圧倒的にこっちが多いぞ?」


「とりあえず防衛に専念してルールをもう一度確認したほうが良いんじゃない?陣取り戦ってわけじゃないでしょ?」


 一人が発した言葉で周りの者達はえっという顔をした。


「え?まさかそれすらも分かっていなかったの?」


「いやぁ…明らかに復活ポイントが決まっているし5か所っていう防衛箇所があるからそうなのかと…」


「俺もそう思ってた…」


「あなた達…ちゃんと確認しなさいよ…契約書とかだったら騙されるわよ?」


「面目ねぇ…」


 女性はため息をつきながらルールを口ずさむ。


「流れ人を倒すとポイントが入る。復活場所は防衛箇所、陣取りではなく海戦で船もしくは人を倒すことでポイントが入るのよ。つまり、船を壊すついでに流れ人を倒すのよ。」


「なるほどな!いままで上陸しようとして手ひどく反撃を食らっていたがそんなことする必要がないってことか!」


「やつらの船を壊せばいいだけならそこまで難しくはないよな。確かバリスタを搭載している船を用意していたクランあったろ?」


「あとは小型船を大量に準備して機動力重視のとこもあるわよね。」


「あれ?そう考えると負ける要素ってないんじゃ?グロリオーサの船ってノーマルなのしか見てないぞ?」


「向こう側に付いた人はあまり前半戦で素材を採取していないのか?カスタマイズ分を納品していないってことだろ?」


「戦闘特化の人らがギャザリングなんて飽きる作業するわけないだろ?」


「そんな暇があったら戦闘って感じじゃないかしら?」


「あー、もう!負ける要素全然ないじゃん!船を集中的に攻撃して大破させれば資材足らなくて出撃出来なくなるじゃないか!島に残っている奴らは射程外からちまちま削ればいいよな!各クランに方針を伝えるのは掲示板に書き込めばいいよな。」


「俺のフレ、準攻略クランだから伝えとくわ。」


「生産職のフレに遠距離攻撃出来るものを量産頼んでおくわ。」


「おっしゃ!反撃するぞー!」


 ルクリア側に所属する流れ人は一致団結してグロリオーサ側に反撃を仕掛け始めた。


 一方、グロリオーサ側に所属している流れ人は味方同士でポイント争いをしていた。協力には程遠い状況であった。




「えーっと…ワタリさん、もう戦闘…じゃないイベントは始まっているんじゃ?ここでゆっくりしてていいのでしょうか…?」


 ジェミが不安がって聞いてきたけど、始まってしまえば出来る事は限られちゃうからね。今は後半の前哨戦、流れ人同士の戦いってとこだろうね。問題となるのはグロリオーサの他戦力の動向だけど、それも闇に紛れられる不死者や悪魔族の眷属達が監視をしてくれている。ちなみに僕がやっていることは魔族の方たちが避難してきた場所で街を作っている最中である。


「ま、準備はしっかりしてきたから報告待ちってとこだし…それに、戦争後の事も考えないとね。ここは避難場所だけど、魔族の人達はここに転移することが出来るってことは貿易地点にもなりえるんだよ。これは交流をこれから進める上でかなりプラスになる事だと思うんだ。その為の下地としてある程度見通しのよい街づくりが必要なんだ。後から配置を変えるのは難しいからね。」


「そうだったんですか。ワタリさんは先の事も考えて行動していてすごいです…私はまだ問題が解決していない事があるとそっちにかかりきりになっちゃいそうです…」


「それも必要なことだから適材適所だよ?現場ではその考え方のがミスが少なくなるし、それを監督する人が色々と考えたり方針を決めるというのを大きくしたのが街や都、ギルドと呼ばれる集まりになるんだし。」


 僕がそう説明するとジェミはほっとした様子をした。


「ワタリは難しい事言っているけれど、戦いが好きじゃないからっていうのが大きいでしょ?」


 リディさんに痛い所を突かれた…実際、避けられる戦いは避ける所存でございます…


「そういう思いはあるけど、出来ることなら避けたいよね。戦闘狂ってわけじゃないんだし…」


 僕が弁解をしているとラナさんがくすくすと笑いながら言った。


「統治者としてはそれが正しい姿勢だと思いますわ。安易に敵を作らない、戦いを避ける。避けられない場合の対処を用意しておく等素晴らしいと思いますわ。」


 僕達が地図を見ながら雑談に興じていると一人の獣人が近づいてきた。


「ワタリの旦那!道の整備はできましたぜ!」


 森が開けている広場っぽい場所に転移してきたからここを中心に、まずは森を拓いて道を作ってもらっていたんだよね。方角は他の村や町に繋がる方向に伸ばしていく。


「ありがとう!無闇に木は切り倒さなかった?樹精の方達に森の手入れや剪定も頼んだらやってくれるかなぁ…」


「無駄な木を切ったら姐さんに怒られちまうよ…ある程度は了承してもらえるけどよぉ。あいつらなら旦那から頼んだら喜んでやってくれると思うぞ?」


 この獣人さんが言っている姐さんっていうのはアルルの事なんだよね。自然に関することには積極的で、魔王様の娘だし恐れられているという…僕は怖いアルルを見たことがないから想像がつかないけど。


「あと用水路を作って水を引いてこないとか…魔法である程度簡単に出来るけど分かりやすい街にするには整理しないとだよねぇ…農地の場所も決めないとだし…」


 僕が悩んでいると獣人さんが困った顔をしてしまった。


「旦那、そう悩んでいてもしかたないですぜ?この土地は将来を見据えた人族と貿易する場所だが住む分にはもう十分すぎるほどだ。食料も水もあって種族事に分かれられる土地なんですから。」


 そう言ってくれて助かる。衣食住を満たしたら大丈夫だからね。衣類に関しては魔族の方達は毛皮があったり繊維から作り出せたりするから問題がないし。


 とりあえずこの日は解散して、どこに何を作るかは後に回した。異世界で冒険(していない)の世界を楽しんでいたのに都市開発シミュレーションをしている…なんでだ…

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