第108話 驚く事が続くと身が持たない

みなも視点


 「ふぁぁ…貴族街ってこんな風になっているんだ…なんだかこの一帯だけ別次元って感じ…喧騒もしないし…私、完全に場違いなんだけど…いきなり貴族からの呼び出しってギルド経由で伝えられてビックリだよ…」


 私、何かやらかしたかな?特に問題を起こした覚えはないんだけど…前に流れ人同士での争いに巻き込まれたくらいだよね…それ以外は基本生産していたし…

 

 えっと、たしかここを抜けると見えて来るって話だけど…って一段と大きなお屋敷だ!うぅ、呼び出し理由が分からないから怖いよぉ…門があるけど蔦が絡まっているし彫刻がこちらを見ている気がするよ…えーっと呼び出しベルとかあるのかな?っわ!?絡まっていた蔦が引いて門が開いていく!


 えぇっと…入って大丈夫だよね?招待されたんだし…


「お、お邪魔します…」


 ちょっとオドオドしながら門をくぐり屋敷の庭を進んでいく。


「庭も凄い…これ、管理している人凄いなぁ…」


 何を見ても凄いとしか言えなくなってきてる…ぼーっとしていると


「失礼します、お迎えにあがりました。」


 メイドさんだ!!うわー、本格的!なんちゃってメイドじゃなく機能美に溢れてるやつだ!


「どうかしましたか?旦那様がお待ちですのでご案内致します。」


 そう言ってメイドさんが先導してくれた。うわ、中は華美にならずに使いやすい形になっているんだ。装飾品もあるけど素材よりデザインを重視しているのかな?


「この中でお待ちになっていますのでお入りくださいみなも様。」


 一番奥の部屋ではなく応接間でってことなのかな?咎める内容だったら書斎とかあり得るかなって思ったんだけど…もしかしてただ私が勘違いしていただけ?


「し、失礼します…」


 あれ?今、何かおかしくなかった?…私、名前言ったっけ?しかもプレイヤー名じゃなくなんでVtuber名で…


 中に入ると向かいの席に人が座っていてその近くに綺麗な女性達も座っていた。あ、この真ん中の人私を助けてくれた人だ!たしか侯爵様じゃなかったっけ?お礼を言わなきゃ!


「あ、あの時はありがとうございました!おかげで無事に今まで通り生産をすることが出来ています。」


 私がお礼を言うと気にしないで大丈夫だよって言ってくれた。貴族様なのにほんと偉ぶらなくてビックリ…


「今回は事が事だから直接言おうと思ってねみなもさん。運営がログを拾っていないのは対応で分かったからゲーム内でも平気だし。」


 え、運営とかゲーム内って!?この人、プレイヤーだったの!?


「あれ?まだ気づかないかな?」


「旦那様、直接容姿を見せたこともなく名前も言ってないのですから分からないかと…」


 私が混乱していると明度さんが困った顔をしていた。


「あ、そっか…こちらが一方的に分かっている状況だもんね。まぁ直接会うのは端笑めてだけどメッセージでなら何度もやりとりしていたから…改めて、君のVRモデルを作った水島です。こちらの世界ではワタリという名でやっているよ。」


 え!?


「ワタリさん、伝えてなかったの?私達には向こうの世界の事教えてくれたりしていたのに。」


「…ん、ワタリは目立つこと嫌いだから。」


「ということは私達の事も教えてないんじゃありません?」


 まだ少女といってもおかしくない制服らしきものを着ている3人が何か言っている。


「えっとこの状況で言ってもいいのでしょうか…?」


「この状況だからこそ言うべきじゃないかしら?それ以外だと言いにくいわ…」


 儚げな少女といかにも冒険者という女性がどうするのか話し合っていた。


「まぁこの雰囲気で分かるかもだけど、わたし達はワタリのお嫁さん!錬金術ギルドで会って以来だね!」


 え…?錬金術ギルドのギルマスまでいるし今なんて言ったの?


「おにいさん、この人が向こうの世界でのお嫁さん?」


 …どういうことなのー!?




ワタリ視点


「なんだか頭から煙が出ているような気がするんだけど…大丈夫?それとアルル、向こうでは誰とも付き合っていないよ?」


「向こうでの事も考えるとこの方と付き合う事は私達にとって助かりますけど…」


 僕が考えて皆に相談した内容的にジェミが言う事も確かにそうだけど、付き合わなくても問題はないんだよな…こちらの世界の感性からすると結婚とか付き合うって考えになるのかも。


「とりあえずそのことは置いといて…みなもさん本題に入っても大丈夫?」


 僕が聞くと少し落ち着いたのか挙動不審だった動作がなくなった。


「え、えぇ大丈夫。急ぎの事みたいだから後から教えてもらえれば…」


 僕は一旦紅茶を口に含み喉を潤してから話した。


「質問は話終わってから受け付けるね。今やっているイベント、流れ人同士の戦いじゃなく国VS国で代理人として流れ人が巻き込まれただけ。本来の姿はグロリオーサVSミンティア…人族至上主義と魔族の国の戦いだね。王国は魔族と同盟を結んでいるから流れ人が関わってくる。グロリオーサも闘技大会の時に流れ人を引き抜いているね。」


 そこまで話終えるとみなもさんは驚きながらも、何やら納得がいったようだ。


「やっぱり住民の言っていた事は本当だったんですね…魔族のことや同盟の事は教えてもらえなかったけれど、グロリオーサが戦争を仕掛けて来るって聞いていましたから…」


「まぁ、魔族の事は運営から言わないよう厳命されているからね。ちなみに、グロリオーサの崇めている神はこの世界の神様じゃなく運営だよ。これも住民と仲が良ければ聞ける話ではあるけどね。本来の神様はキャラクターを作成するときの人だね。」


 僕が神様について説明するとえぇ!?って声を出しながらなにか呟いている。


「そ…それってグロリオーサは運営の手先ってことですか!?ということは向こうでは好待遇って話も頷けます…このイベント、王国側に勝ち目ってあるの…?」


「そ、運営が向こうに肩入れしているのが丸わかりだからこの戦いは公平ではないんだよね。その勝ち目を作るためにこうやって来てもらったんだ。」


「で、でも相手は運営ですよ!?不都合な事があったら強引に推し進めるんじゃ…」


 確かにそうだけど、今回はそれを引き出すためなんだよね。


「ゲームサイドで味方になってくれた人が、運営の決定的な介入を引き出すことでユーザーに不利益を与えたってことで訴えたり後始末…今回だったら魔族の国の消滅を戻してくれるって交渉に応じてくれたんだ。だからみなもさんにして欲しいのはこの戦いの真実を配信で話してくれたら嬉しいかな。」


「そ、そこまで話が進んでたんですね…配信で話す分には大丈夫です…私も住民の怒りに共感していましたし…その味方になってくれた方は信用出来るのです?」


 まぁそう思うよね。運営のAIに関する考え方が違うからこそ交渉出来た感じだったし。


「大丈夫、味方になってくれた人はAIを運営側に提供しているところだから。運営はAIを人形、魂のないロボットって思っているけどここの人達を見てそれは間違っているって分かるし、生きているんだ。」


「私も住人達は生きているって思っていますから…運営の考え方には抵抗したいです…戦闘力がない私でも力になれるのでしょうか…?」


「戦争っていうのはね戦う前に決着が決まっているんだよ。運営の不公平な介入、味方になってくれる企業、魔国の防衛と避難先の準備、そしてなにより昔からも言うでしょ?戦いは数だよ!」


 僕の言葉に納得したのか不安だった様子から少しおどけた感じになってくれたようだ。


「そうですね…水島さ…ワタリさんのおかげで自信が持てました!配信に関しては任せてください!でも…こんなに住民に好かれている…というよりハーレムを築いているのはビックリしましたよ?」


 あ、この表情は配信者の時のと一緒だ…ちょっと揶揄いに来ているね…僕達は今までどうやってこの世界を歩んできたのか紅茶を飲みつつ語らった。その様子を僕の妻達が暖かい目で見守ってくれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る