第105話 価値のある素材は可能性の塊だった

 会議が終わったので僕たちは客室でくつろぐことにした。そこまで長く話し合っていないんだけど慣れない場にいたため体が強張ったり気疲れしてしまった。王国ではアリエス様が配慮してくれていたのか分からないけど、会議というよりアリエス様との歓談という形になっていたからね…


「ワタリ、これからどうする?わたしを連れて来たってことは何かしてもらいたいことがあるとか?」


 テオから声がかかった。魔国の状況が分からなかったから万能なテオが居てくれると心強いって思ったからなんだよね。


「島の防備は強化する必要がなさそうだから薬品関係で出来そうかどうか教えて欲しいんだ。僕の考えている内容としては…

・船の速度を遅めるもしくは止める

・食料や飲み水を補給出来なくする

とかなんだけど…こちらの世界の船周りってあまり分からなくて…」


「そうだね…薬を使えば出来ないこともないけど…食料に手を出すには結局保管している場所まで行く必要があるよ?侵入するってなると難しいんじゃないかな…ゴースト系の魔族が夜に紛れて行けるかもだけど、基本的に保管している場所って厳重だと思う。」


 やっぱそうだよね…透過して船室に入れたりするならいけそうだけど、物まで抜けれるか分からない…一応あとで聞いてみようかな。


「透けて行けるか後で聞いてみよう。食料がなければ船旅は難しいから引き返すかもしれないし、出来るなら一番効果的だよね。」


「補給の出来ない海の上で食糧難は怖いね…栄養だって偏ったら病気になっちゃうよ…ワタリ、すごいこと考えるよね。」


「生き残るのに必死なんだよ…出来ることをしないで後悔はしたくないし…船を止めることってなにかできそう?」


 僕が曖昧な聞き方をしたからかテオはかなり悩んでいる。


「あー…周りが海しか見えない状況で進んでいるように見えて実は止まっているとか、進行を鈍化させたりするとか…」


 こんな事は出来るかなって言うとテオはそれならばと答えてくれた。


「完全に止まっちゃうと体感でわかっちゃうから、鈍化なら行けるよ!流石に船底に穴を開けてってやると工作部隊でもいるのかって思われちゃうし警戒もされるから、ワタリのさっき出した岩礁ができれば問題ないもんね!」


 おぉ…鈍化ならいけるのか!実際、海の上だと速度がどれだけ出ているか分かりにくいもんね、比較対象がないとさ。


「鈍化薬は薬師で上級、錬金だと中級に位置するからワタリでも作れると思うよ?というより、ワタリなら上級も作れそうだけど。」


「薬師のが難易度高いんだ?ということは工程を飛ばせるような事が錬金にはあるってこと?」


「そうだよ!鈍化薬はまぁ…作っている最中に下手すると自分にも影響が出ちゃうから注意が必要なんだよ。そもそも、色んなことを鈍化させるから効果の方向性を決められたら鎮痛剤にもなるし麻酔にもなるからね。調剤中に血流の流れが遅くなって危なくなる人も多いかな。ちなみに、薬師でのランクアップ課題でもあるよ。」


 そんな危険なものなのか!?一応それなりに錬金で作ってギルドに卸していたけど僕にできるかなぁ…


「さっき、素材となるヤクシソウが庭にあったから使ってもいいかあとで確認しよ?魔力が豊富だから細かく方向性を決めれると思うよ!」


「そうなの?魔力が豊富なものほど方向性が決められるってことは付与限界=素材の魔力の多さってことで合っているのかな?」


「そうそう、よくわかったね!付与と素材の質はかなり密接なんだよ!色々と指定したいなら良い素材が必要ってことだね!」


 それって装備品を作る人にとっては重要なことだよね…ゲームでは希少な素材になればなるほど能力が高いってなるから感覚的に分かるかもしれないけれど…僕は生産職だから作業しやすくて動きやすい服にしている。良い装備のが補正がかかるのかもしれないけれど、戦闘はしないだろうし今のところ生産も失敗していないから大丈夫なはず。


「確認が必要なものは後でまとめて聞くことにしよう。1回1回聞きに行くのは相手に失礼だろうし。っと、ジェミから連絡が返って来た。」


「なんて返って来たの?」


「んっと…誰が土地を貸すか難航しているみたい。ノルニール侯爵様が治める領地に条件の合う場所があるんだけど、異を唱える派閥がいるんだって。」


「あー…これだから貴族ってやつは…錬金で製作したものも独占させろって言ってくるんだよね。ワタリの考えた香水とかさ…今回のも利権絡みなんじゃないかなぁ。」


 あの香水、オーダーメイドじゃなければ庶民でも手が届くくらい価格を抑えているんだよね。独占されていたら一体いくらになっていたんだか…


「利権ってなると魔族に土地を貸すことで恩を着せてあとで要求をするつもりなのかな?こんな戦争直前で言い争うことじゃないと思うんだけど…」


「今はどの貴族もまともな領地経営をしているけれど、結局は癒着や嫉妬で出し抜きたいって思っているんだよ…争う事で発展することもあるから止めにくい所ではあるよね…」


「確かに…とりあえず文句だけ言ってすぐ代替え場所を提示して移住可能な状態に出来ないなら黙らせられないかアリエス様に頼んでもらおうか…戦時中の強権になっちゃうかもしれないけど、ノルニール侯爵様がすでに準備出来ているんだし。」


「そうだねぇ…早く平和になってのんびりギルドのカウンターで眠っていたいな。」


 それ、僕と会った時の状態じゃない?あれは不貞寝じゃなかったの!?いや…今の状況でそれをしたいってことは不貞寝でも合っているのか。

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