第104話 会議には現場レベルの人が欲しい

「まず、前提として知っておかなければいけないのは海路のみ…ですよね?」


 僕は会議室にいる皆に向かって訊ねた。


「そうだな…転移装置が実装されてから国から出たのは…俺や妻、アルルだけのはずだ。結婚式で呼ばれたのは俺達だけだし闘技大会でも表沙汰に交流することが出来なかったからな。」


「港は俺の管轄なんだが魔王様家族以外は魔族は船に乗っていないな。戻ってくる際に人族が転移装置の部品をもってきたが、信用できる者だと聞いている。それとワタリ殿。」


 獣人のお兄さんが答えていた。ずっと手を組んでいる横でゆらゆら揺れている尻尾を眺めてたんだけど…バレてないよね?虎なのか猫なのか気になって仕方がなかったんだ…どっちもネコ科だけど…あの耳、どんな感触なんだろ?獣人って獣形態と半獣形態とかあるのかな?


「ワタリ殿?」


「それなんてネコミミモー…あ、はいなんでしょ?」


 あぶないあぶない…考えに耽っていたよ…


「転移装置を期間限定で止めることは出来るのだろうか?」


「あ、それは大丈夫だと思いますよ。設計図を見たり、実現可能にするために必要だったパーツである宝珠を取り出せば問題ないかと。まぁ…宝珠を盗まれないようにする必要が出てきますが…」


「ワタリ、それならわたしが宝珠のダミーを用意しておくよ!わたし達、というかワタリのなら移動に困る事ないし。」


 テオの提案で大丈夫そうだね。これで内部から移動を防げる。


「じゃあテオさん、それでお願いします。魔族の方は島内で転移装置が一時的に使えなくなりますが…」


「それは問題ないぞ。俺達は元々、転移装置を使っていないからな。各種族…部族でまとまっているから影響はないから戦争が終わるまで止めておいて構わない。」


 魔王様からも問題がないとお墨付きをもらったことだし、メモに追加しておくかな。


「あとは空路はあるのでしょうか…?」


 空から来られるとどうしようもないからね…飛空艇とか。


「王国なら開発しててもおかしくないほど職人が多いが、グロリオーサでは流石にそれはないだろう。開発力が低い、もとい神にすがる国柄だ。人を乗せて飛べる生物でいえば魔国には多いぞ?」


 それなら警戒しなくても大丈夫か…?運営が施すとは思わないが…念のため、戦争になったら国から退避してもらったほうが良いかな?王国で魔族の方々を受け入れる土地って大丈夫かジェミに聞いてもらっとくか。


「冒険者から聞いたのですが、神託を行う存在に逆らった島がなくなったっていう情報もあったので一時的に退避してもらう可能性があります。今、王家に近い者に退避先の準備があるか聞いてもらっています。」


 僕の話を聞いて魔王様は腕を組みながらうんうんと頷いていた。


「俺達魔族も島があった場所に確認しに行ったんだが、元から何もなかったとしか思えないほど島が消えてたな。ワタリ君、土地の交渉は任せた。俺達魔族側の要求としては人族と交流が持てたらいいが、そこまで高望みはせん。森や湖はあったほうがいい種族もいるからそこだけ注意してくれたら問題ない。」


 巨人族とかもいるだろうから広めの土地があればいいんだろうな…魔族側の要望に沿う場所があるかどうか…


「一応、確認は取っておきますね。見つからなかったら多少我慢してもらうかもしれません…まぁ、島が消されなければ一番いいのですが…」


「ほっほ、何はともあれ空からの奇襲、転移装置が使われなければ相手は船でしかこれませんでしょうしそちらに関して話を詰めましょうか。」


 そうだった…とりあえず退避先の準備ができればあとは迎撃準備を整えていかないとだね。リッチのお爺ちゃん?は促すのが上手いな。ちょうど話の区切りがつくところだったし、見習いたいくらい。 


「港以外にこの島へ上陸することが出来る場所って何か所くらいあるのでしょうか?」


 僕は魔王様に確認をとった。ただ、あまり細かい地形までは分からないらしく獣人のお兄さんに話を引き継いだ。


「この街自体が山の中に作られている。山に亀裂が入った所が港になっており、それ以外に侵入経路はない。ま、そのせいで外部へ出て行く者は少ないがな。その入れる場所以外は断崖絶壁だから防衛に向いているぞ。」


 なんかほんと防衛向きになっているね…下手に攻め込むよりはこの中で迎え撃つのが一番なんだろうけど…それだけじゃやっぱ不安になるもんね。


「島周辺の安全な海路がどのくらい広いのか分かりませんが、岩礁地帯を作ってみるのはどうでしょうか?」


「マーメイド族に後程調査させよう。ルートは中型船なら通れるが針の目を通すほど細い。軍を乗せられるほど大型ならルートから外れると思われる。たしかにその場所に岩礁を作る事が出来れば相手の戦力を削ぐことが出来るな。」


 僕の案に魔王様が賛成してくれた。といっても調査次第だろうけど、とりあえず相手の人数を減らすことが出来るだろう。でも…防衛するだけじゃちょっと物足りないだろうし、好戦的な魔族を抑えられるとは限らない。


 僕が悩んでいるのを察したのか魔王妃様に似たお姉さんが穏やかな声で


「あまり魔族の事情まで汲まなくても大丈夫よ。どうやっても不満は出るんだから…それにワタリ君は私の姪の旦那さんなんだし、ドーンと構えていればいいのよ。」


 おぉ…やっぱりこの人は魔王妃様の姉妹なのかな?そう言ってくれるのは嬉しいけれど、親戚になる人達を助けたいし手の届く範囲で救えたらいいな…全部が救えるほど僕に力があるわけじゃないから、最善を尽くしたい。


「あ、ありがとうございます。でも、出来ることはしていきたいので…せっかく魔族の方で飛べる種族がいるのでしたら魔法で空から強襲するのもありだと思います!深追いだけはダメですが、足止めをするだけでも相手の食料を減らせますし。」


「それなら私の部隊が主戦力でやりますわ。魔王様、龍族にも声を掛けてくださいな。」


「ほほほ、それでしたら私達不死者も手伝えますぞ。」


 悪魔族と不死者の部隊って魔法の扱いに長けてそうだし、過剰戦力な気もするけど…敵対してきたのは向こう側なんだし、情けをかけるわけにはいかないよね。


「敵は運営…神託を授ける存在もいるかもしれないので豪勢な船には攻撃しないほうがいいかもしれません。反撃で消される可能性もありますし…ただ、足止めとして船を止めるくらいなら大丈夫かと思います。」


「そうだな、あまり深追いしないようにしてくれ。追い詰めすぎるのもダメだ。」


 魔王様の一言に皆は頷き、報告待ちになるので会議は終了した。

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