第103話 顔合わせ

 ログアウトした時に返信メールが来ていた。まぁ、報酬って事だから運営側の明らかな介入をゲーム内で認知させるために動かないといけないってことだよね?そうなると数がものを言うか…また氷月みなもちゃんに頼って良いのかな?ん-…最終的な認知はそこから広めるとして、ゲーム内では楽しんでもらいたいし僕だけで頑張ってみるか。とりあえずログインだね!



 王城での話し合いが終わったので、あとは魔王様との会談だね。ログアウト前にアルルに頼んでおいたからそろそろ来るはず、っと来たみたいだ。


「久しぶりだなワタリ君、ルーも元気そうでなによりだ!今は時間も惜しい、すぐ魔国へ向かうが問題ないか?」


 僕達を見回し聞いてきた。


「そうですね…僕は大丈夫ですが…」


「ワタリさん、私達学生は連絡員としてこちらに残りますわ。ついて行っても実力的に私達はまだ未熟ですし、ワタリさんの足枷になるのは…」


 足枷って…そんなことないんだけどね。一緒に居てくれるだけで嬉しいし、なにより頑張ろうって気持ちにさせてくれるから。ただ、今回は国の思惑や運営の出方次第だから万全を期すために、ここに残ったほうがいいか。


「戦争じゃなければ一緒に行けたんだけどね…平和になったら皆で観光しよう!テオさん、ここの護りは万全だよね?」


「そうだね、ガーゴイルも設置しているしアルルちゃんの植物も見張っているし大丈夫だと思うよ!あとはワタリの作った指輪で合流することも可能だからね!」


「なら配置として学生3人とジェミはこちらに残ってもらって、戦闘員としてリディさん、魔国へはアルルとテオさん付いてきてもらっていいかな?」


「それがいいわね。私が時間稼ぎすれば合流するのも楽でしょうし、ザインやアグスには引き続き王都で情報収集をしてもらうわ。」


 リディさんにもいざとなったらすぐ避難するように言った。命には代えられないもんね!


「メンバーは決まったようだな。それじゃさっそく向かうぞ!すでに各部族の長に集まってもらっている。」


 それじゃこれ以上待たせるのは悪いね…一度向こうに行けば転移場所として登録されるから、忘れ物をしても大丈夫だし行こうか。


「ワタリさん、気を付けてくださいね!」


「ん、女神様に祈りを捧げる。」


「王国で貴族達の動きがあった場合報せるわ。」


「リディさん、私も手伝いますわ。」


「ワタリさん…ご武運を…」




 皆から激励され、屋敷を後にした。魔王様に連れられ転移すると目の前には大きな宮殿が佇み、周りには自然が溢れていた。


「これは…なんていうか凄く自然に溢れているね。」


 僕が呟くとアルルが小さな胸を張り答えた。


「…えへん。」


「この宮殿の周りは妻とルーが設計と管理をしているんだぞ。どうだ?すごいよな?だが…俺はこの宮殿っていうのが合わんのだがな…妻が言うには魔国の象徴たる魔王があばら家なんて事だったら追従してくれている者達が家を建てにくいとか遠慮してしまうというのだよ…」


 …うん、それは魔王妃様の言う通りだと思うよ。魔王様より立派な家とかどうなんだって思われるだろうし…


「アルルは魔国でも立派だったんだね!僕の屋敷の庭園もアルルに世話をしてもらってきっと植物達も喜んでいると思うよ。」


 僕がアルルの頭を撫でると目を細めながら嬉しそうにしていた。


「ワタリ!すっごいよここの植物!王国では効能も何もない雑草もここでは変異していてポーション等の回復系の再生力を高めるっぽいよ!」


 雑草っていくら抜いても生えて来るくらい生命力が強いけど、それが特性として再生力という形できちんと表れたってことなのかな?魔法を使うときに、魔力を多く込めるほど強くなるって感覚では知っているけど、特性を強める効果っていうのがここでは自然と分かるんだねぇ…


 これは国というか土地の価値が計り知れないね…グロリオーサが狙っているのもよく分かる。僕達は魔王様の案内の元、会議室に着いた。


「皆、待たせたな。これで参加者はそろった。俺が不在の時に出ていた案から見て行こうか。」


 おぉ…普段まともな姿を見たことがない魔王様がしっかりしている…嫁や娘が関わっていなければこんな感じなんだ。出来る男って印象が強いね。それにしても…全部の種族が来ているわけじゃないと思うだけど、多種多様だなぁ…獣人も魔族に含まれるのか!前に聞いたとき、知性のある魔物種と人が混じったのが魔族って言ってたっけ。そう考えると獣人も魔族ってなるのか。大まかに獣、植物、不死者、悪魔、無機物の代表5名が集まった会議になっている。


「第2案の戦場となる場所へ攻め込む、第1案の全面降伏は無しだな。第1案は血気盛んな魔族が言う事聞くはずもないし内部分裂する可能性がある。第2案は俺が手に入れた情報によると、グロリオーサは攻め込んできた現地人から海流の情報を入手するよう指示させる可能性がある。流れ人は物として海流のルートを保存しないためだ。」


「私達魔族を戦場へ引き込むのが目的なのね。血気盛んなのは種族柄仕方ないもの。」


 悪魔っぽく尻尾や小さい羽の生えた女性が飽きれたような顔をした。


「ほほほ、そんな者は若い者達だけですがな。そもそも他種族と力を比べても意味がないですわ。」


 不死者のリッチ?かな。落ち着いた感じで答えている。


「自分達から攻めこみにゃいかんだろうがこの島の縄張りを守るってことで好戦的になるだろうな。」


 獣人のお兄さんも笑いながらグロリオーサの考えを否定した。


「私としてはこの島でも争ってもらいたくないのですが…ただで奪われてしまわれるのは嫌ですわね…」


 魔王妃様に似た雰囲気のお姉さんが憂いている。


「・・・・・・」


 うん…フランス人形みたいに精巧な人形がカタカタ動いているだけで怖いんだけど!?怪談にありそう…


「魔王さまぁ、そろそろそちらの子達を紹介してくれないかしら?アルルちゃんは分かっているのだけど。」


「そうだったな、式も魔族では俺と妻しか参加していなかったから分からんか。こちらはワタリ君だ。それと、ワタリ君の錬金術師としての師匠のテオ殿だ。」


「ご紹介に上がりましたワタリです。こんなナリですがれっきとした男でアルルと結婚致しました。テオさんは魔力の扱い方と錬金術の師匠です。僕達は属性が偏っていないので力になれることあると思い、魔王様に招待していただきました。」


 僕が挨拶をしてテオは僕を立たせるためなのか控え目に礼を取った。


「ほっほ、立派なものじゃの。それに我らを見ても気後れや畏怖を感じさせておらんし胆力もあるのぉ。」


「だな、実際の実力は分からんが魔力の纏い方を見る限りかなりやるだろお前。」


 それなりに好印象を持たれたと思って良いのかな…?感性が人族と違うかもしれないから結構不安なんだけど…僕が不安がっているのが分かったのかとなりにいたアルルがそっと手を握り、大丈夫だよ、と小さく囁いた。

 うん、雰囲気にのまれちゃ駄目だよね。きちんと意見を言えないと何のために来たか分からなくなっちゃうし。これからが正念場だ!

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