7章 思惑を超えて

第99話 嵐の前

 イベントが無事終わり、次のアップデート情報が公式HPに記載された。なになに…渡航条件の緩和、ハウジング用の調度品と庭具の追加か…それと目玉になる大規模海戦ねぇ。


 まず渡航条件は貢献度を溜めることでNPCから教えてもらえる仕様で、詳しい項目は教えたらいけなかったんだけど、項目が公表されて条件が満たしやすくなるとのこと。また、大規模海戦に関するイベントをこなすと貢献度が大幅に増加するのか。


 ハウジング用品は完全に課金要素になってるね。季節ものの木や暖炉などの調度品、温室を作る場合のボイラーまであるのか…これって買ってもボイラー技士資格必要とかだったらどうなんだろ…?ゲーム内で講習とかあるのかな?農家に聞いたらありそうだけど。


 そして大規模海戦。王国側で参加するかグロリオーサ側で参加するか選べるのね。ただしグロリオーサ側は渡航条件を満たしている人のみ…ね。というかこれって魔国に攻め入ること書いていないけどどうなんだろ?グロリオーサ側に参加する人達は教えられそうだけど王国側はなんで戦争なんだーってなりそうだよね。

 前半戦は王国側、グロリオーサ側どちらも物資補給イベントと船の貸し出しイベントが開催されて、イベントポイントが高いほど船のランクが上がり船の装甲や装備の種類が選べる。これはクラン単位になっているのね。

 後半戦は大規模海戦。船を操舵し相手プレイヤーを倒すGVGとなっている。プレイヤーを倒すより船を破壊したほうがポイントが高くなっている。船を破壊されるとその日の出撃は終了、ただし船が無事なら港に戻って死に戻りした人を迎えに行くことも可能。そして船が大破しなければ前半戦で稼いだ物資次第で船の修理が出来る。


 また、海戦を行うエリアには複数の再出撃エリアが設定されており、その場所を確保すると死に戻り箇所に設定出来る…か。これは維持が大変そうだね。どう考えてもこのエリアを取れれば絶えず攻めることが出来るし波状攻撃が可能だもんね。あ、エリアは毎日初期化されるし場所がランダムなのか。海戦時間も決まっているから陣営で上手く力を合わせないとダメそうだね。



「うーん…HPを見た感じ、実力者ほど宗教国家側で参戦しちゃうよなぁ、報酬もそちらのが多いし。人数で言ったら王国側なんだろうけど生産職がほとんどな気がする… 

 運営的にはどちらが勝ってもいいけど、混沌とさせるなら宗教国家側が勝ってくれたら嬉しそうだね。」


 僕は王国側に勝ってもらいたいし、魔国が戦禍に巻き込まれるのを防ぎたいからなぁ…王国の出方はこないだアリエス様と打ち合わせもあったから足並みを揃えられるとして…魔王様は準備を進めてくれているかな?

 色々と不安だけど、なるようにしかならないか…




???


「おぉ我が神が御顕現したぞ!」


「まさか降臨してくださるとは…これは我が国の勝利間違いないな!」


 礼拝堂には大勢の信徒がひしめき合い、神の降臨を祝福していた。


「いやぁチーフ、次のアプデの海戦を間近で見ようとか凄い発想ですね!」


「だろ?まぁ俺達は神輿ってことで高見の見物としゃれこもうじゃないか!」


「でも、この国が勝たなかった場合、俺達の立場が悪くなりません?」


「そのための渡航条件じゃないか。攻略組を呼び込むために報酬も豪華にしたんだし、これで勝てなかったら流れ人のやる気が足らんかったってことだろ。」


「まぁそうですが…神として顕現したからには勝利確定にならないのかなぁと…」


「いざとなったら辻褄を合わせればいいんだよ君ぃ。俺達にはそのための権限があるじゃないか!」


「そうでしたね!ゲームの中に入っているとリアルで使える物を忘れてしまって…」


「それはゲームの出来がいいから俺達運営にとっては嬉しいことなんだが、一般とは違うんだから立場を自覚してもらいたいなぁ。」


「そうですよね、所詮この世界はゲームですもんね!好き放題出来る神の立場とかゲーム好きとして憧れてましたよ!」


 周りの信徒が跪き、脚光を浴びていた2人へ教皇が近づいていった。


「我が神よ、この度は御降臨下さり、誠にありがとうございます。」


 と、深々と頭を下げて礼をした。


「あー、俺達が来たからには勝ったも同然っしょ。そのために仕込みもしたんだからさ。それより、俺達の部屋はどこ?もちろん一番部屋ね。」


「も、もちろんでございます!ささ、こちらへ。」


「チーフは普段通りですね!あ、食い物も部屋に持ってきて?あと酒もね。」


「ただいま直ぐにでも!

 おい、準備を急がせろ!なに?材料が足らない?そんなの寄付金がたんまりあるだろうが!それと我が神は言っていなかったが女も準備させとけ!信徒の中から数名選ぶんだ!」


 そう指示を出す教皇にチーフは嫌そうな顔をして言った。


「君何しちゃってくれてるの?ゲームの中の女なんて俺らが喜ぶわけないじゃないかぁ、人形と同じなんだからそれは自慰と変わらないっしょ。」


「ほんとそうですよねチーフ!本物を知っている俺らが紛い物で満足するわけないじゃないですか!」


「申し訳ございません!!」


「はぁ…所詮紛い物ですねぇチーフ。俺らの気持ちを汲んでくれないとは。」


「あっはっは、そりゃ僕らは完璧だからね。人形にそんな高度な真似出来るわけないじゃないか。アプデの準備も済ませたし、あとは外の人達に任せて俺らはのんびりと国の滅びを楽しもうじゃないか。」


 こうして運営サイドの2人は自分達の用意した新たな戦場を間近で観察するため、ゲームの世界で過ごすのであった。

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