第97話 ちょっとしたヒント

 皆が服を選んでいる間、僕は店員さんの作業を観察させてもらった。手縫いでも作業が早く丁寧なことからリアルでも似た作業が多いのではと考えた。今、彼女は端材を使ってつなぎ合わせているんだけど何やら悩んでいる様子だ。


「ねぇねぇワタリさん!向こうの世界でも使用人の恰好はこういうのなのですか?」


 ラヴィが持ってきた衣装はメイド服であった。これってこちらの正統派(ロングスカート)ではなく、膝上15cmくらいのコスプレ用のメイド服だよね?こんなの着て作業すると絶対下着見えちゃうでしょ…よくレイヤーさん達は着るよね。


「ん-、これは魅せるためのメイド服だね。向こうの世界ではメイドという職が一般的ではないので宣伝と視覚的に派手に、見えそうで見えないかもという欲をかきたてて印象付ける効果があるん…だとおもう。まぁ…異性からえっちい視線向けられるだろうけど。」


 僕が説明するとラヴィは少し顔を紅潮させた。あ、ちなみに店員さんに声が届かないように魔力で膜を作ってあるよ!流れ人ってバレたら大変だろうし、奥さん達がこの世界の人ってので大騒ぎになりそうだもんね。


「それは…すごいですね…これって少し屈むだけで見えちゃいますよね?ワタリさんは私達が着たら嬉しいですか?」


 ラヴィが質問すると皆、僕がどう答えるのか気になってチラチラ見てきた。


「着てもらうにしても、寝室だけかな。流石に街中とかで皆の可愛い姿を晒したくないし…でも…メイドとしてしっかりとした職があるこの世界だと、遊びでメイド服を着られると複雑って思うだろうから辞めといたほうが良いかも?」


「そうよラヴィさん、使用人の方々は立場こそ貴族に従いますが誇りをもって仕事をしている方々なのですから。その方々を冒涜するような行為はいけませんわ。」


 ラナさん、良いこと言っているんだけどその持っている学校の制服っぽいのは寝るのに合わないよ…それとイーリス、スリングショットの水着なんて止めなさい。季節的にも布面積的にも早すぎます。リディさん、動きやすそうって言ってチャイナドレスを選ばないでください…脚の横側すっごい切れ目入ってますよねそれ!

 やけにマニアックな服やアニメに出てきそうな服が多く、店員も裁縫が得意ってなるとレイヤーさんの可能性があるな…僕が店員さんについて考察しているとくいっくいっとアルルに袖を引かれた。


「お兄さん、これとかどう…かな?」


 アルルが持ってきた服はロリータファッションと呼ばれる、黒を基調としフリルが多めで腰を締めるのに大きなリボンが付いているゴシック系のものであった。こんな服まであるんだねぇ…


「アルルにすごく似合いそうだね。元々、気品のある服でドール…人形に着せて幻想的な雰囲気になったりもするんだよね。」


 僕が説明すると皆もアルルの持ってきた服を見て可愛いとか、綺麗!と盛り上がった。ゴスロリを買うのはアルルとイーリス、テオの3人で他の人は暖かそうなもこもことしたルームウェアを選んでいた。


「それじゃ支払いしに行こうか。」


 僕達は店員のいるカウンターへ歩を進めた。


「ワタリ、この服可愛いけどやっぱり街の外で着ないほうが良い?」


 イーリスが質問してきた。縫合もしっかりしているんだけど…


「ん-…安全のためにやめて欲しいかな…可愛いから余計に目につく可能性があるし、なにより防御面で不安だからね。」


「むぅ…修正できそう?」


「どうしても着ていきたいなら直そうか?直ったらその服着ている所いっぱい他の人に見られちゃうね。」


「…やっぱりやだ…ワタリだけに見られたい。」


 僕達が話しながら向かっていると何やら店員さんが目を見開いていた。


「あ、あの!品物をお出しする前にしっかりと確認したのですがどこかほつれていましたか!?街の外でも大丈夫なように丈夫な素材を使っていますがどこがダメなのか教えてくれませんか!?」


 ちょ、ちょっとすごい勢いで話しかけられた…


「とりあえず落ち着いてください。もしかしてなにか心当たりでも?」


「あぁぁ…またやっちゃった…えっと、私、裁縫ギルドに所属しているのですがギルマスからもっと目を養いなさいと言われて、冒険者用の装備を作らせてもらえないのです…私だけじゃなく生産職の流れ人全体ですけど…もし気づかれたことがあればアドバイスがほしいなぁと…」


 なるほど…ギルマスの判断は正しいね。素材が活かしきれていないけど、裁縫技術はしっかりとしているから本人はすごく悩んでいるんだろうな。僕はアドバイスをしてもいいかテオの顔を見たら、微笑んでくれていた。うん、後進の為に少しヒントをあげようか。


「デザインや裁縫技術は問題ないですよ、ギルマスにもそこは注意されていないでしょうし。問題があるのは素材を生かす点でしょうか。店員さんは流れ人ですから感覚は分からないでしょうがこの世界には魔力というものがあります。素材にも大小含まれますが、魔力が抜け切ると特性が失われる…とでも言いましょうか。ヒントはこのくらいで大丈夫…そうですね、その顔見ればわかります。」


 僕がヒントを出すと店員さんは目を輝かせて晴れやかな顔をしていた。疑問がとけたってことだよね。うん、よかった。


「あ、ありがとうございます!いままでどこがダメなのか全然分からず…ということはスキルで魔力関連を取る必要が…習得条件を掲示板で…ぶつぶつ…

 す、すみません!お会計でしたよね!ヒント貰いましたし半額で!」


「いや…きちんと定価で払いますよ…買った後に修復させてもらいますし、どの服もデザインが素敵ですから。」


「それじゃあこちらの気持ちが治まりません!あ、新作出来たときにプレゼントするというのは?」


「ダメです、技術を安売りしない。努力の結晶なのですからきちんと対価を支払いますよ。それでは私達はこれで。」


 そう言って僕達は逃げるように店から離れた。



「勢いが凄い人でしたねぇ…でも、良い買い物でした!」


 ラヴィが買った服を大事そうに抱えながら言った。


「生産職の方って風変りね、ワタリもテオさんもどことなく違うもの。」


 そうかなぁ…僕は普通にしていると思うんだけど。テオと顔を見合わせて首を傾げた。


「それにしても…少し疲れたかな…人が多いし家に戻ろうか。」


 僕が尋ねると皆頷いてくれた。


「買った服でお兄さんを誘惑…かな?」


「いいですね!」


 そこ、悪乗りしない!


「ワタリ、一応魔力面の修復して…?」


「そうだね、何かあったときのためにみんなの服を直しておこうか。まぁ…このあとから修復も錬金術師だから出来るんだろうけどね…とりあえずイベントは見て回れたしゆっくり休もう。」


 そう言って僕達は転移装置からアルファスへ戻っていった。

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