第96話 安い物には理由がある

 闘技場の周辺に作られたスペースに露店と品評会の会場がある。そのため、闘技大会が終わってからすぐに向かうと他の場所に向かう人達で混雑してしまうので僕達はゆっくりしていたんだよね。

 イベントに関連する場所がまとまっているから流れ人の移動を制限でき、現地人とのいざこざを無くそうというのが見える。

 あ、僕達の容姿は結構目立つだろうから外套のフードで顔を隠しているよ。怪しい感じに見えるだろうけど、教会関係者が外を出歩く恰好と同じなので周りから変には思われなくて安心。まぁ…下から覗かれたら顔が見えちゃうだろうけどそうまでして覗こうとしてくる人はいない…と思いたいな。


「テオさん、素材は冒険者ギルドか卸している店で大丈夫?流石に流れ人が露店に出していないと思うんだ。」


「確かにそうかも…珍しい物だったら流れ人同士でトレードしちゃってるか…うぅ残念…」


 いくら転移装置が普及したとしてもまだまだ世界中から珍しい物が集まるには時間がかかるだろうし、流れ人の移動範囲も狭いもんね…魔国からの素材が輸入され始めたら僕も色々と製作してみたいし。


「こんど魔国に行くことになりますし、魔力の籠った素材が手に入ったらテオさんに是非指導してもらいたいな。通常より扱いが難しそうですし、このあたりの素材より上位でしょうからどんなことが出来るのか知りたいので。」


 僕がそう言うとテオは嬉しそうな顔をしてくれた。


「うん、そう言う事ならいっぱい教えてあげるね!確かに魔力が含む素材は扱いが難しいんだよ!下手に自分の魔力が浸透したら変質しやすいし薬師と同じように作る場合はすり潰す際の熱で効果が無くなったりするから温度調整も必要になってきちゃうんだよ!」


 おぉ…テオがすっごく生き生きしてる。そう聞くと上級素材は加工が難しいんだねぇ…魔力も下手に加えたらいけないのは厳しい…中級ポーションなんて魔力を多めに含ませたら出来たりもしていたから余計に厳しく感じる。


「な、なるほどね…うん、上級素材の扱いはテオさんにじっくりと教わるとして…とりあえず歩きながら露店を眺める?」


「そうですわね。人の流れを考えましたら歩きながらで、気になったものがありましたら少し寄って流れを止めないようにですわね。」


 ラナさんが答えてくれた。貴族なのにこういう時、市民の目線で見れるのが凄いって思う。最初に街で会った時は驚いたけれど、権力者や近しい者が街に出て状況を知っているのって大事なんだよね。こう、権力者の独りよがりな政治とかじゃなく市民の声を生で聞くからこその政策を出せたり、対応できたりするもんね。


「あ、ワタリさん!あそこの一角に服が集まっているみたいですよ!ちょっと見ても大丈夫でしょうか?」


 ラヴィが指さす方向には何店か並んで服を売っている。露店の整理や競争意識を生むために近くに出しているのかな?結構声を上げて値下げ合戦みたいになっている。


「ん-…ラヴィ、今声を上げて値下げをしているところはやめたほうが良いかも?多分、品質がそこまで良くないと思う。自分の作品に自信があれば値下げはしないだろうし材料費なども考えると値下げ合戦の衣装はちょっと…」


 僕が注意を促すと生産の話ということでテオが頷いていた。


「そうだよラヴィちゃん、原価から工程数、利益を考えるとあそこまで割引に出来るのはおかしいかも。アピール、もしくは広告塔の品かもしれないけど他の商品をよく見ると縫い目が粗かったり生地に汚れが目立つかな。あとは…素材の性能を生かせてないんだよね。店主?が持っている服も耐熱性が良いとか防寒性に優れているって言っているけど、魔力側から見てみるとそれはおかしいって言うのが見えて来るよ。」


 テオから指摘され、ラヴィはもう一度並んでいる商品をよく見た。魔力の流れや含有量をみるとあちこち繋がりが断たれ、ぼろ雑巾の有様であった。また、含有量も魔力が全て抜け落ちていた。


「えぇぇぇ!?ほんとだ!って魔力感知や操作はこんなふうに応用できるんだ…」


「あー…そこまでラヴィやイーリスに教えてなかったね…きちんとした物との比較が出来なかったのは僕の落ち度か。普段から貴族御用達のお店を利用するから品質が良いし詐欺紛いなこともないもんね…」


「…私は気づいていた。ふふん。」


 イーリスはそう言うと小さい胸を張るようにした。うん、これがあざと可愛いってやつなのかな?


「普段から一緒に行動するイーリスちゃんは気づいていたの!?教えてくれてもよかったじゃない!…うぅ…ワタリさん、イーリスちゃんが虐めるぅ。」


 いやいやラヴィ…泣き真似なの分かっているからね?抱き着く口実のためでしょそれ!


「自分の見えているものが他の人にも見えているとは限らないってことだよ。これは色んな場面でも同じようなことがあるから気を付けてね?僕もまさか流れ人があんな状態なのに気づけなかったし…」


「そうですね…アリィお姉さまも昔はよくお城から抜け出して街を探索していましたし、今ではそれが実を結んでいるという事でしょうか?」


 ジェミ、それはなんか違う可能性があるよ?お転婆だったって聞くし、多分…勉強が嫌で抜け出していたのかもよ。


「物を見る目を養うためにも魔力訓練は欠かさずにね?ほら、あのお店はお客さんが全然寄っていないけど素材を生かしている上にデザインも丁寧に作られてるよ。あそこの商品なら買っても良さそう。」


 僕達は賑やかになっている所から少し離れた場所にある露店に向かった。店主は手芸…というかこれは端材を使ったパッチワーク?をしていた。


「うん、やっぱり近くで見ても粗がないし丁寧に縫われているね。(ただ、魔力の面では粗さが目立つから数をこなして素材の性質を保っているという感じかも)」


 僕が魔力の面のことを言わなかったことで皆は納得し、部屋着として使えそうなものを探し始めた。

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