第80話 恐ろしい親子

 僕の前で魔王様はアルルが無事な様子を確かめていた。


「ルー!大丈夫だったか!?怪我はしていないか!?ん…この魔力の流れは!?奴隷になったのか!どこのどいつに買われたんだ!?」


「…うるさい…よ。ちゃんと契約…して、私が了承したから奴隷なの。私の主様はそこに…いるよ?」


 え、急に僕に振る!?すっごい威圧感出されているんだけど…って…おや?圧がなくなったんだけど。


「おぉ、君がルーの主なのか!見つけてくれてありがとう!ルーの主が女の子なのは安心出来る。これからも仲良くしてやってくれ。」


 あー…勘違いしているのか。訂正しないでおくと面倒なことになりそうだから認識を正さないといけないよね…大丈夫かな、僕…


「初めまして魔王様、僕は流れ人のワタリで性別は男です。今回、友好を結ぶとのことで会議に出席しました。魔王様の娘さんとは偶然奴隷商の所で購入したため、他意はありません。」


 僕が言葉を紡ぐたびに魔王様は憤怒の表情や苦虫を潰したような顔をさらしていた。この人、子離れ出来てないんじゃ?そんな人が良く婚約を条件に入れたよね…国と天秤にかけた場合、大事なものを対価にする必要があるからよく決断したって思ってたんだけど。私達には友好の意志はあります、しかし娘は婿を気に入りませんでしたので帰ってきましたとかでやり過ごす…?流石にそれはないよね。


「ぐっぬぬ…男…しかも婚約相手だと…!…ははは、よく娘を見つけてくれたね感謝しているよ。」


 魔王様は手を出してきた。握手かな?…いたっ!?すっごい握力で握ってくるんだけど!?


「それではワタリさんと魔王様の娘はすでに契約相手となっていますのでこの調印書にサインをしてもらえば友好国として歩めますわね。」


 進行はアリエス様なのか!次期王様もいるんだしそちらが進行役かと思ったら…隣でうんうんって頷いている次期王様…あなたそれでいいのか…


「ルーが認めてもまだ私は認めてないぞ!そもそも今回の友好関係も白紙に戻したいくらいだ!流れ人がいくらでも復活できるとはいえ、魔国は屈強な戦士達が多いのだ!グロリオーサが流れ人と手を組もうが落ちることはない!」


 そう宣言した。なるほど…魔王様は今回の条約に反対だったってことか。でも、ここまできて今更白紙になんて戻せないよね?魔王様が反対意見なのだとしたらいったい誰が…魔王様に意見を言える相手…


 考えていると凛とした、それでいて部屋全体に響く声がした。


「あなた。その話は終わったでしょう?今更何を言ってますの?」


「うっ…し、しかし大事な娘の婚約相手だぞ!色々と確認してからお互い納得したほうが得策だろう!!」


「そうでしたか。それならあなたがどんなことを確認しようとしたか教えてもらえますか?」


 口調は変わらないけれど雰囲気が…静かに怒るってのはこんな感じなんだろうか?でも、すでに決定していたものを後から反故にされるのは気分的に嫌だよね…


「も、もちろん大事な娘を守れる腕っぷしがありこの世界での地位が高く人柄が良く…」


「それこそワタリさんが条件に合うって納得しましたよね?ダンジョンを地下40階層まで攻略し、ルクリア国の王女様と婚約を結ばれていて地位も問題ありませんよ?」


「だ、だが一番大事なのはルーの気持ちだろう!?ルー、どうなんだ?今までどんな婚約者候補も蹴って来たお前は気に入ったのか?」


 急に話題をふられたアルルは僕の腕に抱き着いてきた。なるほど…仲の良さをアピールってところかな?それにしても…どこの家庭も奥さんが強いんだね…


「る、ルー…そんな…」


「ルーちゃんの気持ちなんて部屋に入ってきてから分かっていたことでしょう?ルーちゃん、ワタリさんの為人は分かったかしら?奴隷となったあなたにも変わらず接してくれましたか?」


「…ぶい。」


「ふふ、やはりそうでしたか。ルクリア王国の皆さん、お騒がせしてすみませんでした。この通り、私達魔国側も今回の婚姻に賛成ですので調印させていただきますね。」


 え、やはりってどういうこと…?アルルって魔国側で行方不明…この世界での密入国は奴隷落ち?港から近い待機所は王国…落ち着いた魔王妃…考えすぎだよね流石に…


 僕は魔王妃に目を向けると微笑んで


「ふふふ、やはり察しが良いですね。その通りかもしれませんよ?」


 あー…この人絶対に計算尽くだったでしょ…まさか実の娘を奴隷にしてまで僕という個人を測るとは…アルルも魔王妃の考えが分かっていて実行するなんて…


「まったく…アルルも無茶するなぁ…僕が買わなかったらどうするつもりだったの。僕以外に買われる可能性だってゼロじゃないんだから。」


「そんな状況であっても出会った…よ?出会うべくして出会った…必然。奴隷でも態度を変えられてない…よ。」


 この子は本当にまっすぐ為人を見て来るんだね。普通の人だったら全てを見透かされていそうで疎遠になっちゃいそうな…それに聡いから相手がどう思っているのか理解してしまった結果が過去の婚約者の末路なんだろうな。


「とりあえず一件落着ってことで良いのでしょうか?それにしても魔王妃様は恐ろしい方ですね。神算鬼謀…というものでしょうか?その才、両国にとってこれ以上にないほど心強いです。まずは調印を終わらせてしまいましょう。」


 アリエス様は魔王妃様に調印書を渡し、サインが書かれるのを見届けた。


-この調印、女神の名において認める。決して裏切ることがないよう…


 女神様の声が響いたと同時に部屋にいた人達は全員跪いていた。僕も慌てて同じ様にしたんだけど


-流れ人のあなたにまで強要するものではありませんので大丈夫ですよ


 って頭に直接語りかけてきてビックリしたよ…不意を突かれた感じになって変な姿勢で固まっちゃったし…みんなが跪いていて見られていなくて良かった…



 とりあえず、これで両国は友好国ということになって僕とアルルは正式に婚約者になったって事か。身内だけで婚姻式をしたいんだけどこれからイベントが盛り沢山だから忙しくて無理だろうなぁ…

 せっかくのイベントだし、僕も何か作ろうか。婚約者全員に渡す指輪とか彫金師に頼んだロケットを複製して人数分にするとか。そう考えると僕も何かと忙しいな…リアルでも季節の移り替わりだし用事を済ませなきゃ。

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