第79話 会議室はてんやわんや

 アルルは庭に関して熱心に取り組む姿勢を見せてくれて皆にとても好かれているみたいだ。僕の勝手なイメージだったんだけど、魔界とか魔族っていうと、暗いとかどんよりとした雰囲気の不毛の土地で弱肉強食な生活をしているっていう勝手なイメージがあったんだけど、土地も文化も人族と大した違いはないようだ。ただ、種族によってはこちらで言う遊牧民のように住まいを変えたり、巨人族など大きな体を持つ種族は住居がでかいとかあるみたい。


 ただ、植物においては全く違うらしい。ノルニール家の庭園を見ながらラナさんやお付きのロエナさん、ニアさんに沢山質問している姿が見受けられた。魔国ミンティアとの植物の違いは魔力が影響しているんだって。向こうは豊富な魔力が大地に宿っていて花などは薄く発光したり薬効が高いなど話してくれた。機会があったら見てみたいな…魔力の供給も自然と満たされるらしく、こちらに来てからは魔力の消費を抑えて行動をしていたって聞いたときは急いで僕の魔力を流したよ!僕も魔力譲渡に慣れてきたから変な事態にはならなかったしよかった。


 また、アルルはまだ幼いし容姿も愛嬌があることから皆からお菓子を沢山与えられ、食事が食べられなくなってしまう事態に陥った。魔族にとって食事は必須ではないとはいえ、皆が食べている中一人だけ何もしないって言うのは気になっちゃうし一緒に食事をすることで交流が深まるからね、皆にはきちんと注意したよ。


アルルと暮らし始めてから数日後、アリエス様から会談の日程が知らされた。といっても今日なんだけどね…なんだかだいぶ困ったことになっているらしいから知恵を貸して欲しいって書かれてるんだけど…一体なにがあったんだろ?イベント事で流れ人の意見を聞きたいってことなのかな?


 僕は皆に王城へ向かう旨を伝え屋敷を出ようとすると、アルルが僕の裾をちょこんと摘まみながら見上げて言った。


「私もついて…いくよ?」


「えっと、今日はお偉いさん方と話し合う場だからアルルを連れて行くわけにはいかないんだけど…」


「私はお兄さんの奴隷…つまり所有物…だよ?一緒にあるのが当然だよ?」


 うーん…なんて言って言い聞かせたらいいんだろ…


「僕はアルルを奴隷というより一緒に暮らす大事な人って思っているよ?だから所有物だなんて卑下しないで欲しいな。それに、今日はこの国の王族と魔族の王様との会談なんだ。きっと退屈だと思うよ?」


「なおさら私を連れていくべき…かも?魔族だし印象よくなる…かも?いい子にしてる…よ?」


 そんな上目遣いで見られるとなんでも許しちゃいそうになる…でも、実際に今回は会談というよりはお見合いに近いし魔族の子とすでに友好が結べているところを見せられたら相手側も気が楽になる可能性はあるよね。まぁ…お見合いに他の女の子を連れて行くのは不味いんだろうけど…というか、12歳ってこんなしっかりしていたっけ?昔のことを思い出してみるけど、周りの同年代って落ち着きがなかった気がするんだけど。魔族という種族が落ち着いているのかな?


 結局、僕が折れてアルルを連れていくことにした。決まったときは皆苦笑いをしていたけれど、小声で「あんな風に言われたら断れないよね」と言っていたので僕は悪くないって思うことにした…



「お兄…さん?会談って重い話?」


 王城に向かっている途中、アルルが聞いてきた。


「ん-…女の子にこんな事言うのはダメだと思うけど、魔王様の娘さんとお見合いって感じかな。魔国はちょっと情勢的に危うい立場にあるらしく、友好を結ぶためって言う感じの。僕としてはそんな人身御供みたいなやり方は好きじゃないんだけど…やっぱり結婚って好きな人と出来るのが一番だからね。」


「乗り気では…ないの?お姫様、可愛いって…聞くよ?」


「友好を築くだけなら結婚までしなくてもいいんじゃないかなって思っちゃうんだよね…ただ、口約束だけだと不安ってのも分かるから対外的な意味合いもある結婚って形なんだと思う。僕も可愛いって聞いたけれど、仲良くなるのと容姿は関係ないと思うんだよね。性格や波長が合うならどんな容姿でも受け入れるし。」


「分かる気がする…お兄さんの婚約者たち…皆仲良し。」


「そうだね、こんな僕を受け入れてくれて好いてくれる皆が愛おしいよ。だから魔王様の娘がどんなに可愛かったとしても皆と仲良く出来ないなら結婚は無理だと思う。でも…リディさんは頼りになるし、他は皆15歳で同い年だから仲良くなって欲しいかなぁ…」


 ほんと、どんな子なんだろうね…話すにしても話題とか何を振ればいいか分からないし、単なる友達になるんじゃなく婚約だからすっごく緊張するし…大丈夫かなぁ…


「大丈夫…だよ?きっとお兄さんなら仲良くなれる…よ?」


「ありがとうアルル。そうだね、不安にしていたら相手も緊張しちゃってぎくしゃくしそうだし頑張ってみるよ!」



 僕達が王城に到着すると迎えの人が待機していて会議室に案内してくれた。僕はノックして入ろうとしたんだけど中から外に居ても分かるくらい大きな泣き声が聞こえてきた。これって男の人だよね?中で一体何があったんだろう…ほら、アルルもすっごく変な顔してるし大の男が泣くなんてね。


「失礼します。えっと…どんな状況でしょうか…?」


 中に入るとアリエス様と隣にひょろっとした優しそうな男の人、立派な髭が生えた男性、その隣にいるのは奥さんかな?こちらが王国側の王族だね。対面には泣いている頭に角の生えた男、その隣にほんわかとした植物系?の女性がいるんだけど奥さんかな?とりあえず何があったのか確認しないと!


「アリエス様、お久しぶりです。えっと隣の方は次期王様でしょうか?僕は流れ人のワタリです。いきなりですみませんがこれってどんな状況なのでしょうか?」


「君がワタリ君か、噂はかねがね聞いているよ。色々と話ししてみたいと思っていたんだが今はこんな状況でね…」


「ワタリさんお久しぶりですね。なんでも、魔王様の娘さんが行方不明らしいの。今回の友好条件が果たせなくなってって気持ちかしら…もしくは子離れ出来ていない可能性も…?現在、王国でも各地に人を送り捜索していますが、芳しくない状況ですね…」


 なんと!?身分的に攫われたとか!?王国内で犯行があった場合責任問題になりそうだし大丈夫なのかな!?


「もしや…賠償問題とか発生するのでしょうか…?」


「いえ…魔国を出る時点で行方不明だったみたいなのでこちらへ責任はありませんわ。魔国側での捜索は終わっているようなので王国領を探しているの。」


 なるほど、そう言う事なのか。親だったらそりゃ慌てるよね…でも大丈夫なのかなぁ…お姫様に何事もなければいいんだけど。ただ、ちょっと気になるのは奥さんの方は落ち着いているんだよね。まぁ…人が慌てている姿を見たら逆に落ち着くってのもあるしそうなんだろう。


「あら?ワタリさん、そちらの子はどなたかしら?かなり幼い子だけど…あなた、そういう子が趣味なの?」


「いえ!?庭師を探して奴隷商に行ったら条件に合うのがこの子しかいなくて。紹介しますね、この子は魔族のアル「ルーーーー!!」…え?」


 いきなり魔王様がアルルに抱き着こうと突っ込んできたが、アルルは華麗に避けた。えーっと…もしかして?


「流石にわかった…?お兄さん。言った…でしょ?そのうちねって。」


 なんと僕が奴隷商から買った子は魔王様の娘さんだった!

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