第77話 とある運営の苦悩

 異世界へのすゝめのリリース日、その会社ではモニタリングが行われていた。チーフと呼ばれる責任者、プログラマー、AI開発者の3名がいた。


「やっとサービス開始に漕ぎつけたなー。あとはAIに任せてれば問題ないだろう。」


「チーフ、キャラ作成で仕込んでいた罠に引っかかる人が多数いますよ!これは良い感じですね!」


 プログラマーの若い男が女神と対峙しているモニターを見ながら、自分達が仕込んだ罠に引っかかっている様を見て喜んでいる。


「リアルが売りだからな。好感度システムは今時どのゲームでもあるんだから初対面は重要なのに悪乗りする奴ら多すぎだろ…」


「でもチーフ的には対立してくれたほうがいいんでしょ?そのために不便な部分を作っていますし。」


「そりゃゲーム的には対立やそれに対する動きをしてくれたほうが盛り上がるだろ!仲良しこよしでやってるのを見てもつまらないだろ。」


 その2人の発言を聞いてAI開発者の女性はぼそっと呟いた。


「…AI達もユーザーも自分達のおもちゃという視点ね…神にでもなったつもりかしら?我が子のようなAI達が成長できると思い乗った案件だけど不安ね…」


 罠にどんどん嵌っていくユーザーを見て一喜一憂している2人にはその発言は聞こえなかった。


「私としてはこんな日常会話をAIとしてくれる人のがとっても嬉しいわ。」


 AI開発者の女性が見ていたモニターにはワタリと女神のやりとりが映し出されていた。





「チーフ!流れ人の奴らポーション買い漁ってますよ!これは期待できますね!」


「生産難易度も高めだから原材料あっても供給間に合わなくなるだろうな。そうすればこちらが想定したような対立が生まれて来るだろう。」


「チーフって悪役ムーブが似合いますね!」


「そりゃ平和な日々より混沌としていたほうがいいだろ!現実を見ろ!機器の発展は戦争からの技術が使われているだろう。」


「まぁ確かに通信とかそうですよね。ぶっちゃけ、HP回復やMP回復だって手順踏めばそこまで難しくないですし。」


「だろ?そこを頑張らない流れ人の責任だから俺達には関係ない。」


 ゲーム内での対立はすべて流れ人の責任、と押し付ける様子を見てAI開発者はため息をついた。


「対立を促しておいてAI達に話を聞く人なんて少数でしょ…私はその少数が大事だけれど…それに、この子に関わったAI達はかなり自我の発達や考え方が進化している。ブラックボックスな箇所が増えて詳細は分からないけれど人に近い考え方が出来てきているわ。私が求めていたのはこういう外的存在だからこれは嬉しい誤算ね。」





「大規模戦は見応えがあるな!今回は防衛だが次回は攻城戦も良いな…」


「そうですねー。しっかし流れ人はヒーラー職を外すとか思い切ったことをして突破しましたね。見ていて笑っちゃいましたよ。」


「それのおかげでポーションの供給バランスが崩れてくれたから嬉しいけどな。お、あいつら住民達を盾にして後ろから攻撃しているぞ。」


「生き返れないの分かっていて盾にするなんてやばいですねぇ。ここいらで鬱憤を晴らすって感じかもしれませんね。」


「そして次は住民が流れ人に悪感情を溜めてくってやつだな。うまく作用しているようで何より。」


「流れ人達は基本ゾンビアタックですねぇ。ヒーラーを連れてこないでポーションの供給もままならないからそれしかないですけど。」


「生産でここまでてこずるなんて思ってもみなかったが、この光景を見ると修正しなくて良かったって思うな。」


「生産の緩和や供給増やして等かなりの要望がきていましたよね。」


「普通に考えたら傷が治せる薬がそんな簡単に出来るわけないだろ。」


「ほんとそれですよねー。」


 チーフとプログラマーのやり取りを見ながらAI開発者はとあるサーバーの戦いを見て感心していた。


「すごい…この子、街が違う人を防衛に上手く呼んでいるし供給問題もAI主体で解決に導いている。AIがヒントを貰い自ら考えるからこそ成長しているのね。

 感情などはもうブラックボックス化して見えないけれどこの子に好意を持っている事は見ていて分かるわ。だからこそ役に立ちたいって事で動いたのね。防衛の仕方も理に適ってて指示を出す頭をしっかりと潰しているわ…魔法の使い方も上手…この子の努力が凄いからここまで出来るのね。本来なら他の流れ人も同じ様に魔力操作が出来ないとおかしいのだけど、運営の罠にしっかり嵌ってしまっているものね…。」


 高笑いする2人を見ながらAI開発者は我が子の様に大切な住民達がやられている姿を苦悶に満ちた表情で眺めた。

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